第二十三話 クラスメートと初コラボ①

 屋上で告げられた姫川の告白――彼女が配信者というのはどうやら本当のようだ。

 ハンドルネームは『みーひめ』。冒険者も兼ねたソロ配信者で、念の為にユーザーホームを確認させてもらったから間違いないだろう。


「って言ってもアタシはまだCランク止まりの初級なんだけどねー。それでも結構推してくれるファンは多いしコラボする価値はあるっしょ? アタシってばコラボマジで大得意だし、絶対損はさせないって約束する!!」


 そんな風に姫川から売り込みをかけられた俺だが……とても即答なんてできなかった。


 コラボする意味が見出せないからである。

 コラボは通常、かなり人気の高い配信者同士が行うことが多い。それによってお互いの登録者数を伸ばし、同時により高い知名度を得るのが目的だ。

 しかし俺たちは千と七百。どちらもではそれも薄いのではなかろうか?


 俺は疑問点を口にしようと口を開いたが、姫川の勢いにやられた。


「本音言っちゃうと超レア級モンスターを倒したカズくんたちとのコネを作っておきたいっていうかー。だからお願ぁい。今すぐ決めなくてもいいからさ、とりあえず連絡先交換しよっ!」


「……え、でも」


「カズくん、いたいけな乙女の可愛いお願いを断るのー? ひっどーい」


 その口ぶりは全くいたいけな乙女に見えなかったが、そう言われると反論できず。

 結果――押し切られるような形になってしまった。


 即断させられなかっただけマシだが、保留といえども安易に結論を出すわけにはいかない。しつこく迫られたらたまったものではないからだ。

 さて、一体どうしたものか。




「加寿貴さん!」


 放課後、校門で光留に会った。

 今日は何の予定もないので俺と一緒に帰りたいらしい。


 ちょうど相談したいことがあったところだ。首を縦に振らない選択肢などなかった。


 制服姿で二人、肩が触れ合いそうな距離で横並びになって帰途を行く。

 「いつもダンジョンから帰る時と同じはずなのに、なんだか新鮮な感じがするね」とご機嫌な光留を横目に、思い切って話を切り出してみた。


 光留はきっと嫌な顔をするだろうと俺は推測していた。

 コラボというのは配信者としての観点で見れば多かれ少なかれ利益がある。だが、踏破の際に得られる財宝を換金することによって稼ぐ冒険者は、ただでさえ端金にしかならないというそれを山分けしなければならなくなるのだから、あまり好ましいことではないはずなのだ。


 なのに――。


「そういうことならいいんじゃないかな。配信主は加寿貴さんなんだから、加寿貴さんが決めたらいいと思う」


「いいのか?」


「だって少しでも配信を見てくれる人が増えるなら、悪い話じゃないよね。…………加寿貴さんと二人でダンジョンに挑むのは好きだけど学校が同じならこれからいくらでも二人きりになれるし」


 後半の方はよく聞こえなかった上が、まあいい。

 取り分については光留と姫川で半分半分で構わないとのこと。


「私たちのコンビが少しでも人気が出るなら、一度くらいは財宝を我慢しても大丈夫だから。どうせ大した額じゃないから気にしないで」


 そう言いながら微笑みを見せる光留の視線は少なからず俺を気遣っているような気がした。

 本当は少額でもコツコツ貯めたいだろうに、なんだか申し訳ない。でも気にしないでと言われればそれ以上突っ込むのはいけない気がした。


「ありがとう」


 そうして、意外にもあっさりと話はまとまった。

 その夜、俺は姫川に連絡。それからコラボ配信の日程を調整し、次の休日の朝早くに潜ることになったのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 やって来ましたるは某Aランクダンジョン。

 鬱蒼とした林の中にあり、モンスターが強いと噂で未踏破となっているこの場所こそが今日の配信場所だ。


 Bランクにしなかったのは『みーひめ』こと姫川がそれを望んだから。

 だが今から不安で仕方なかった。こんな奴・・・・とAランクに行けるのか、本当に??


 ――果たして、成功させられるだろうか。


 どんどん増えていく待機人数を見ながら、俺は震える指で配信ボタンを押した。


「えー、おはようございます、カズです」

「光留です!」


『お、始まった』

『配信待ってたぞ』

『今日は雪山じゃなさそうでホッとしたわw』

『しばらく配信ないと思ってたのに意外とすぐだったな』

『カズもヒカルたんもおはよう!』

『ひかるん可愛い』

『休日の朝から推しの顔が見られた俺氏、幸せ過ぎて死にそう』

『おはー』

『せっかくの休日なんだからひかるんとイチャイチャしてもいいんだぞ』


 コメント欄は今日も元気だ。

 再生回数は早速三百に到達。前回の配信でさらに人気が高まったようだ。


「早速コメントありがとうございます。今日踏破するのはAランクダンジョン、なんですが……ちょっと今日も特別配信になります」


 俺が言い終えるが早いか。

 しばらく無言のままでカメラを回していた姫川――金髪を縦ロールにし、絶対に戦闘に不向きだろうドレスを纏った彼女が鼓膜がひび割れそうなくらいの大声量で叫んだ。


「ってわけでみなさまおはようございますわー! みーひめ参上ッ! 今日はこのお二人とコラボしちゃいますわよー!!!」




 俺は『みーひめ』の配信を事前に確認し忘れていたことをほんの少し……いや、結構後悔していた。

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