第四十三話 約束のコラボ、プラス1③

 俺たちは今まで多くのダンジョンに潜り、ありとあらゆる仕掛けを解いてきた実績がある。

 それでもSSSランクだけあって仕掛けは一筋縄ではいかなかった。


 突如として現れた黄金色の扉に嵌められたパネル。どこの国のものかさっぱりわからない蚯蚓がのたくるような文字――明らかに日本語ではないし、少なくとも俺は目にしたことが一度もない――を正しく読み解き、その指示に従ってパズルを解かなければ開かないという仕様らしい。

 俺と光留と『みーひめ』の三人は早々に匙を投げた。


「こんなの普通わかるわけないだろ……」

「加寿貴さんもダメかー。ましてや私みたいな馬鹿がやるより賢い人に頼るのが一番だよね」

「アタクシも何が何やらさっぱりで、悔しいですわっ!!」


 俺たちの代わりとばかりに自信満々に前に出る花帆とMOE。

 パネルの上に貼り付けられているいかにも古そうな紙を眺めながら、パネルをかちゃかちゃと動かすことしばらく。


 やがて、「できました」との声と共に扉が開かれた。


 解いたのは花帆だった。

 今回ばかりは手抜きしていなかったらしく、MOEはどこか悔しそうな顔だ。


「あと二時間くらい試す時間があれば、勝てたかしらね」


「そんな長時間は取れないでしょう。西の方の国にこれと似た文字があったので、それを応用して考えればすぐでした。もしかすると異界かどこかの文字か何かかも知れませんね」


「外国語には明るいの?」


「十カ国の言語が読み書きできる程度です」


 特別なことを言っているわけではないという口ぶりの花帆だが、どんなに利口で優秀な中学生であったとしても、知らない言語を理解するのが簡単なはずもなく、中学生どころか大人でも無理なのではないだろうか。

 MOEすら途中から文字を理解するのを諦めて必死に手探りで突破しようとしていたし。


 何はともあれ助かった。

 これでようやく、最奥だ。




 とうとう最奥まで来ても誰一人として疲れを見せていなかった。

 数多のモンスターを殴り、あるいは突き殺し、斬り捨ててきたとは思えないほどである。とんでもない超越者揃い、負ける気はまるでしない。


「覚悟はいい?」


 MOEに問われて全員頷いた。


 そうしてまもなく、SSSランクダンジョンのボスと相対する。

 全身に燃え盛る炎を纏った、紅蓮の鎧型モンスターと。


「加寿貴さん、危ない!」


「うおっ!?」


 真っ先に感じたのは何もかもを焼き尽くさんばかりの凄まじい熱。

 一瞬で前髪がちりちりになり、思わず飛び退いた。


 しかも飛び退いている間に、さらなる驚きを得た。

 鎧型モンスターの両脇……いや、その背後から、次から次へとモンスターの影が揺らめき、鎧型モンスターの周囲を固めるようにして立っているのだ。


 配信用のカメラにも、しっかりそれらの姿は映った。


『なんだあれ??』

『鎧着てるし、なんか将軍みたいな感じの見た目だな』

『こんなの初めて見た』

『もしかして:また超レア級』

『ボスの周りにいる奴らが微動だにせず壁みたいになってて草』

『最奥にボス以外のモンスターがいるってかなり異例なことでは?(ダンジョン配信観覧歴三年のつぶやき)』

『さすがはSSSランク』

『てかやっぱり超レア級なんじゃ』

『超レア級!?!?』

『マジか』

『詳しい友達に聞いてみたら知らないって言ってたぞ。新種のモンスターかも』

『カズの超レア級との遭遇率は一体どうなってるんだよwww』


 配信のコメント欄が高速で流れていった。

 それをちらりと盗み見ながら、俺は静かに納得する。


 普通に考えてSSSランクのボスが只者であるわけがない。

 未確認の超レア級モンスターだというなら、周りに別なるモンスターを侍らせているという前例のない状況でも、むしろ当然に思えた。


「そう簡単に近づけないというわけですか。そこそこ張り合いがありそうなボスですね。楽しませてもらいましょうか」


「そうですわね!! 血湧き肉躍りますわ!」


「あらあら、戦闘狂ばかりね? 私もそうなのだけど」


 ますます乗り気になったらしい花帆と『みーひめ』、MOEの三人。

 光留も「あれにとどめを刺せたら最強の超上級者ってことになるのかな!?」などと楽しそうに笑顔を輝かせる。


 炎に阻まれ近づけないのにどうやって?と思ったのも束の間。

 揺らめく炎を気にする素振りもなく、花帆が大きく跳んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 それはまるで舞台か何かを見ているかのようだった。


 足を焼き焦がされないためだろう繊細で絶妙な足捌き。

 制服のスカートを翻しながら宙を舞い、拳や蹴りを繰り出して雑魚モンスターを貫きつつボスに猛攻撃を仕掛けていく姿に見惚れてしまいそうになる。

 しかし花帆にばかり目を向けてはいられない。同時に、光留が軽やかに剣を投げ放ったので。


 剣は炎や周囲のモンスターをものともせず、まっすぐボスの鎧に吸い込まれるようにして突き刺さる。


 ――ガキィィーーン!!


 鎧と刀が触れ合う、高い金属の音が鳴り響く。

 次の瞬間、信じられないことに……本当に信じられないことに、どう見ても硬そうなのがわかるボスの鎧はあっさりと斬り込みを入れられていた。


「なかなかやるじゃありませんの! ここからはアタクシの見せ場ですわ!!」


「あくまでゲストだけれど、私も年長者として強さを見せなくてはね」


 前に躍り出た『みーひめ』がポイズンウィップで、ボスを守る壁の役目もろくに果たせていない雑魚モンスターを一掃。

 そうして出来た隙にMOEが乗り込んでいく。


『SUGEEEEEE‼︎‼︎』

『SSSランクダンジョンのボス相手とは思えない鮮やかさw』

『剣を投げるって漫画の世界みたいで草生える』

『カホっちは前々からわかってたけど、ヒカルたんももはや人間の域にない……』

『最高の連携プレイだな』

『超上級者の本気ヤバすぎwww』

『これ絶対語り継がれる配信になるだろ』

『道中の戦闘もすごかったけどこれまた凄まじい』

『カズの出る幕なしじゃんw』


 配信のコメントに全面同意。

 阻まれてもなんのそのと飛び込む勇気も、近づけないなら遠くから攻撃してしまえばいいという発想にも、俺はただ目を見張るばかりだ。

 あまりにも鮮やか過ぎるし、俺のバットを振るう機会がまずない。目にも止まらぬ速さで繰り広げられる戦いをカメラに映すので精一杯だった。


 コメント欄に目をやった一瞬でも、状況は目まぐるしく変わっていた。

 鎧の胸部分、どういう仕組みかは知らないが砲撃が行えるようになっているらしく、そこからMOEへ向けての火炎を吐き始めるダンジョンボス。


 一撃が人間の頭大のサイズ、しかもものすごい勢いで発射されていくので、俺が前に出たら前髪が焼けるどころで済まずに即死だろう。


 だが当然それに屈するMOEではない。何せ彼女は、単身で超有名配信者として活躍するひとなのだ。

 ボスの火炎砲撃を槍で全て叩き落とし、そして――光留が作った鎧の切れ目に毒槍を刺し入れた。


 その一撃で、ボスの動きが完封される。

 あとは一瞬だった。光留も矢のように飛び出し、他二人も敵の急所を狙いに行って……。


 『みーひめ』がポイズンウィップで残りの鎧を引っぺがしながら肉を引き裂き即死の毒を塗り付けて、光留は首を思い切り刎ね、花帆は心臓を一突き。

 誰がボスを倒したのか、正直なところしっかりとは判定できなかった。


 俺がわかったことは一つ。

 この世に七人しかいないという超上級者の過半数が揃えば化け物レベルで強い。それだけである。


 最奥から溢れ出す踏破の光は、いつもより一掃眩しく見えた。

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小遣い稼ぎにダンジョン配信をしてみたら、とんでもない美少女の恩人になった俺の話 柴野 @yabukawayuzu

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