第十二話 真冬のビキニアーマーと青春(?)と②
ビキニアーマーというものがある。
胸部と股間、臀部を除く体のほとんどを露出していながら、鎧としての役割を果たすという謎の優れもの。元々空想の世界の中の産物でしかなかったそれは、ダンジョンの出現に伴って熱心な開発者によって実用化されるに至ったと聞いたことはあった。
ただ、ダンジョンはほとんど山中にあるので実際に身につけられることがなく真っ先に廃れていったらしい。おかげで俺は動画の中でも、もちろん実物でも目にしたことがなかった。
そんな伝説とも言えるビキニアーマーが、手が届きそうな距離にある。しかも美少女に着られているのだ。
「じゃじゃーん。この装備なら海に入れるかもと思って着てきたの。加寿貴さんの分の水着もあるから安心してね」
「…………あ、ああ」
目に毒だ、とか、動画が回っているのにどうして急にそんな無防備な姿になるんだ、とか、可愛過ぎるだろ、とか。
色々言いたいことをグッと呑み込めた俺は我ながら偉いと思う。
興奮してしまいそうになるのを押し隠し、物陰でアーマーではない普通の男用水着に着替えた俺は光留の隣に行った。
確かに海といえば水着だ。それはわかる。だがこんな季節にビキニアーマーだなんて思ってもみなかった。こういうことは事前に言っておいてほしい。
でも――どうやら視聴者が盛り上がってくれているようなので許す。
そして光留自身はとても楽しそうだった。
「こうやって水着で並んでるとなんか青春って感じだね。私こういうの初めて」
「……友達と海に行ったりしないのか?」
「ううん。だからこうして誰かと一緒に一度来てみたいと思ってたの!」
クラスメイトの女子たちは夏になると一緒に海に行ったりしているらしいので光留もそうなのかと思えば、どうやら違うらしい。
青春、か。ダンジョンにはまるで相応しくない言葉なのに、悪くないなと思った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
本当に見れば見るほど美しい海だった。
またもや壁際にスマホを立てかけ配信しつつ、海水に足を浸しながら二人でさざ波をぼぅっと眺めて過ごしたり、泳ぎの速さを競ったりした。
『若いのはいいなー』
『ひかるちゃん可愛い』
『暗いからかロマンティックに感じる』
『微笑ましい』
『浦山』
『リア充爆発しろッ!!』
コメント欄も先ほどまでの勢いを失い、穏やかに流れていっている。
しばらく地下の海辺を満喫してしまった俺たち。
しかし二十分ほどしてふと我に返った。配信も回っているままなのだし、いつまでもこうしてはいられないのだった。
「光留、そろそろダンジョンの攻略に取り掛からないとダメなんじゃないか?」
「あ……まあ、確かにそろそろかな」
光留に釣られて当初の目的を疎かにしてしまった。
ここはダンジョンの最奥でも何でもない。つまりはこれより先に進まなければならないのだ。
とはいえ見渡しても一面海が広がるばかりで、どこを目指せばいいのかわからないが。
「どうするんだ? まさか遊ぶだけ遊んで帰るわけじゃ……」
「大丈夫。今のは実は準備運動と加寿貴さんの水泳技術を見るためでもあったから。
ダンジョンの行き先を開くための仕掛けはきっと海の中にある。ここを突破する方法は単純。潜ってその仕掛けを探す、それだけ」
可愛らしく笑って、光留は続けた。
「加寿貴さん、ちょっとくらいなら潜れるよね? これから第二戦目。私と加寿貴さん、どっちが先に仕掛けを見つけられるか、勝負しない?」
なるほど、そういうことかと俺は頷いた。
ゲーム好きの俺は仕掛けを解くのは好きだ。海中に潜らなければならないというのはかなり難しいが、泳ぎが得意な方なのでできないことはない。
――やってやろうではないか。
「いっせーのーで」で俺たち二人は海に飛び込んだ。
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