第九話 コンビ結成②

 コンビ結成にあたって、ダンジョン配信そのものについて疎いという光留に色々と教える必要があった。

 配信者という存在は知識としては知っていたし遠目に見かけたことがあるものの、実際に配信動画を目にしたのは先日が初めてだったらしい。


 個人情報を出すのがどこまでOKなのか。配信のシステムや内容など。そこまで難しいものではないのでスッと覚えてくれた。


「すごいなぁ加寿貴さん。初めて配信したって言ってたけどなんかプロみたい!」


「俺なんか初心者も初心者だから動画を見てちょっとずつ勉強してるだけ。すごくも何ともないから」


 光留が尊敬の眼差しで見つめてくるのでなんだかくすぐったい。

 それを誤魔化すように俺は言った。


「じゃあ、そろそろコンビについての取り決めでもするか」


 いくら雇用関係ではないとはいえある程度のルールは必要だろう。

 そう考えて提案すれば、「私が加寿貴さんを守る。加寿貴さんは私を守る。それだけじゃないですか?」と首を傾げられた。


「いや、もっと細かいことというかなんというか。……そうだな、例えばハンドルネームについてとか」


「ハンドルネーム?」


「ネット上のあだ名みたいな。俺はカズでやってるけど、光留……ちゃんは何がいい?」


「いいよ呼び捨てで。だって私たち、コンビになったんだから!

 それでハンドルネームだけど、あんまり意味ないんじゃないかな。だってスライムとの戦いの時にカメラを止めていなかったんだったらもう聞かれてると思うし――あ、そうだ」


 何かいいことを思いついたというように悪戯っぽい笑みを口元に浮かべる光留。

 彼女は俺の方にグッと身を乗り出した。


「確かめるためにも加寿貴さんの配信動画、観させてくれないかな?」


「…………えっ」


「コンビになる身としては動画のノリ?みたいなのも知りたいし、加寿貴さんの記念すべき初配信を観ないなんてあり得ないもん。私スマホ持ってないんだ。だからお願いっ!」


 可愛らしいその懇願に、俺はしばし押し黙ってしまった。

 あの初配信は伸びたから良かったようなものの、俺の恥が詰まっていると言っても過言ではない。何せモンスターからは逃げまくり、ダンジョン踏破は光留任せだった。


 でもここで断るわけにはいかない。せっかく興味を持ってくれている光留を悪い気にはさせたくないし、何より俺の胸が罪悪感で満たされるのは間違いないからである。


「えっと、その、大したものじゃないぞ」


「うん。でも観たい」


「――わかった」


 仕方なしにスマホを取り出し、配信動画を映し出す。

 画面の中から、今の俺の気持ちとは真反対の陽気な声が鳴り始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 結論から言おう。彼女と俺の本名は丸聞こえだったし、自分で撮った動画を視聴するのは最高の罰ゲームだった。

 もしも光留の反応が悪かったら最悪だったが、光留は意外にも俺のビビり具合とコメントの盛り上がりを楽しんでいたようなので、どうにかこうにか良しとしておく。


「私もこれから配信仲間になるんだ……! 加寿貴さんみたいに私も頑張らないとっ」


「光留は多分俺よりずっと人気が出ると思うけどな」


 むしろ俺の方が光留を見習ってダンジョンの中で生き抜く術を教えてもらわなければならない。

 せっかくコンビになったのだ、お互いの不足を補い合いつつやっていこう。まっすぐで明るい天使のようなこの子とならきっといい関係を築ける――そんな気がした。


「まずはコンビ結成記念配信からになるか……」


 動画で大々的に発表すると共に、ダンジョン攻略ができれば視聴率はぐんと伸びるはず。

 光留との初配信に向けて打ち合わせをしてから、今日のところは解散するとしよう。


 これからの活動がなんだか楽しみになってきた俺だった。

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