小遣い稼ぎにダンジョン配信をしてみたら、とんでもない美少女の恩人になった俺の話

柴野

小遣い稼ぎにダンジョン配信をしてみたら、とんでもない美少女の恩人になった

第一話 全ての始まりは、思いつきから

「あーどうも、カズでーす。ちゃんと繋がってるかな?」


 俺はスマホに向かって明るく話しかける。

 すると直後、コメント欄に次々と文字が流れ出した。


『見えてるよー』

『カズじゃなくて早くヒカルたんが見たい』

『ヒカルちゃん見せろ』

『ひかるん見せろ』


 チッ。結局のところ目当ては女の子なんだよな、こいつら。配信者は俺なのに。

 そう思いながら俺はカメラの先を隣へ向ける。黒髪ボブにピンクのパーカーというラフな姿で、化粧も何もしていないすっぴんの美少女の顔が映し出された。


 その美少女は可愛らしく唇を綻ばせ、ニコリと笑う。


「やっほー。光留です! みんな、今日もよろしくね!!」


『ヒカルちゃん、おは!』

『今日も可愛過ぎてやばいw w」

『美少女降☆臨!!!』

『今日もよろしく〜』

『ヒカルたんキタ━━(☆∀☆)━━!!!』

『マジで可愛い』

『ヒカルたんだ(;´Д`)ハァハァ』

『嫁にしたい』

『かわいいwヒカルちゃんに罵られてみたいなw』

『おはよー! 今日も可愛いねひかるん♪』


 一気に変態的なコメントが湧く。それを見た俺は内心穏やかではなかったが、カメラを俺の方へ向け直して言った。


「じゃ、今日はこのダンジョンを攻略しまーす。えと、ここはまだ未踏破のAランクダンジョン。トラップが多くて難関とされているらしいのでお楽しみに!」


『超上級者一歩手前のヒカルたんなら余裕っしょw wまあカズはダメかもだけどなw w w』

『楽しみにしてるよー』

『いてらー』

『カズ、死ぬなよ!!』


「じゃ、潜りまーす」


 俺は光留と共に、ダンジョンへと足を踏み入れた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 ――ダンジョンが世界各地に出現し始めてから、もう三年が経つ。


 ダンジョンというのは入り組んだ迷宮のようになった場所のことで、どこから湧き出してきたのかわからない正体不明なモンスターが屯している。

 そしてモンスターを倒して進んだ最奥には、売れば豪邸が買えるほどの秘宝が眠っているのだ。


 ラノベの世界みたいな話が現実になり、最初は世界各国のあらゆる国が大混乱した。

 勝手にダンジョンへ侵入してモンスターやトラップによって死傷する者が続出して大問題に。大至急で法整備がなされ、新たに三つの仕事が生まれることになった。


 一つ目はダンジョンを攻略し、お宝を手にして換金することで稼ぐ冒険者。

 冒険者には初級、中級、上級、超上級の四段階が設けられ、各々のレベルに相応しいダンジョンを攻略する。


 二つ目は冒険者によって踏破され、ある程度の安全が確保されたダンジョンを運営・管理する運営者。

 ダンジョンを買収する必要があるので、これはごく限られた金持ちのみがなれる職業だ。踏破されたダンジョンでもたくさんの鉱石があったりするので、訪れる冒険家は多いという。


 最後の三つ目、それが配信者。

 大手動画サイトの配信機能を使い、ダンジョン内を実況して再生数を稼ぎ、それによって収入を得る。危険を伴う職業であり、実際にダンジョンに踏み入れられない一般人でも楽しめることから、大きな人気を集めている。


『皆さんこんにちは! MOEです。今日はSSランクのダンジョンをサクッと攻略しようと思いますのでよろしくお願いしますー』


 ソファの上でだらりと横たわり、スマホに映し出されたある配信動画を見ていた。

 動画を撮っているのは、腰まで伸ばされた綺麗な髪と黒メガネが特徴的な女性。二十代半ばに見える。

 冒険者兼配信者で有名な彼女はフォロワーが尋常じゃない多さで、『よろしくー』やら『ガンバ!』などのコメントがついていった。


 俺も『うわ、面白そう』と打って送信。画面の中で笑顔の彼女が「ありがとうございます」と、俺含むコメントを書いた者全員に向けて答えてくれる。


 その時、視聴者は軽く十万を超えていた。

 それを見ながら俺はポツリと思いつきのように呟く。


「配信者か。結構小遣い稼げそうだし、やるかぁ……」


 高校二年、バイトはせず親戚からのお年玉でやりくりしていた俺だが、どうしてもまとまった金が必要になっていた。

 その理由は新発売のゲーム機を購入するというもの。俺はゲームが趣味なのだが、今の小遣いでは買えそうになくて困っていたところだったのだ。


 バイトで堅実に小遣いを貯めるよりはこの配信者というやつをやってみた方が面白そうだし、もし万が一有名になれればとんでもない額が儲かること間違いなしだ。

 そんな本当に軽い気持ちで、俺は配信者への道に足を踏み入れることになったのだった。

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