ダンジョンの異変と救世の覚悟
第四十一話 約束のコラボ、プラス1①
試験ダンジョンから出てきた彼女はとても誇らしげな表情で微笑んでいる。
上級者試験の時は倒れてしまったくらい疲弊していたのに、今回は疲労感の欠片も見えなかった。
「待っててくれてありがとう。試験、合格したよ」
「みーひめから聞いてる。光留は絶対合格するって信じてた」
「そっか、ひめか……みーひめさんもそろそろだと思う」
試験ダンジョンの内容を公にするのは望ましくないので配信内では色々と尋ねられないのが残念だが、仕方ない。
クリアという事実さえあれば、視聴者にとっては充分だろうから。
『俺も信じてた』
『ひかるんの無双を動画で見たかった』
『おめでとう』
『カズとコンビになった頃は中級冒険者だったんだよな。その頃から見守ってた勢としては嬉し過ぎる』
『めでたい』
『祝!!!!!』
『仲間二人が超上級者って、カズはちょっと肩身が狭くなるだろうなーw』
『ヒカルたん乙でした』
『おつかれー』
『次はカズの番じゃね?(笑)』
『そうだカズもやれやれー!』
『その前にみーひめとのコラボだろ』
『みーひめがクリアしたらだけどな!!』
「皆さん、お祝いいただきありがとうございますー。俺はあくまで配信者一筋でやっていくつもりなんで、冒険者になることはありません」
ここで、満を持して発表した。
「俺、実はついさっき、MOEを超えました」
「えっ?」
小さく声を上げて光留が目を見開く。
俺は彼女に、自分のチャンネルのページとMOEのページを見比べさせた。
「ほらここ。どうしても光留がダンジョンに行ってる間に達成したくてさ。……皆さんもちょっと確かめてみてください!」
『え、マジ?』
『見てくる』
『ほwんwとwだ』
『今日まだエイプリルフールじゃないよね??』
『さっきカズがめちゃくちゃ喜んでたのはてっきり、みーひめヒカルちゃんの合格の知らせを受けたからと思ってたのに』
「これからは配信界を引っ張っていく立場という自覚を持って、配信していけたらなと思います」
ぴろん。
またメッセージが来た。
「あ、またみーひめさんから連絡です。えーと、『うぇーい、カズくん見てるー? 試験官倒したよ!』とのことです」
写真には、ポイズンウィップでぐるぐる巻きに縛られた試験官の姿。かなり強力な毒のはずだが、大丈夫なんだろうか。
でもそんな心配は今は置いておき、姫川に返信した。
『すごいな』
『何それー。ちょっとひど過ぎっしょ。反応が淡白過ぎてマジで泣きそうw』
きっと姫川はとんでもなく頑張ったのだ。
あの約束を交わした時点で、光留よりも実力は明らかに下だった。ポイズンウィップを手に入れてから多少は強くなっただろうが、それでも簡単ではなかったに違いないのは俺たちが一番よく知っている。
コラボ配信のために、俺も光留も花帆も『みーひめ』も奮闘してきた。
これで――ようやく。
『ごめん。でも嬉しいのは本当だから。待望のコラボ配信だよな』
『アタシのチャンネルもコツコツ伸ばし中だから、少なめに見積もっても三十万人は楽しみにしてくれてるってこと。これやばくない?』
『もちろんアタシもめちゃくちゃ楽しみにしてた。細かい打ち合わせはダンジョン出たらするね』
『なるはやで告知ヨロ!』
ぽんぽんぽん、と絵文字とスタンプたっぷりのメッセージが三つ連続送られてきて。
俺と『みーひめ』のコラボは配信内で大々的に知らされ、コメント欄はますます大盛り上がりとなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
試験ダンジョンから帰ってすぐに正式な手続きを踏み、光留と姫川は超上級者に。
次の配信日程もある程度決めてから、その日は別れた。
コラボ配信するにあたって、姫川から提案というかお願いを一つだけされた。
それが、とある人物を連れてくること。俺はそれを不思議に思いつつも了承し――第二弾雑談配信から五日後、約束の日を迎える。
配信するのは、SSSランクダンジョン。
超上級者にしか踏破できないとされる、最もレベルが高いダンジョンである。
だが光留も花帆もいつも通りで、少しも不安そうな様子はなかった。
「みーひめさんとの二度目のコラボ配信、期待し過ぎてあんまり寝られなかったよ」
「……貴方、子供ですか。強者としての自覚を持っているようには思えません」
「まだ超上級者になってから一回も潜れてないからね。でも私、存分に力を見せつけるつもりだから!」
期待しててね加寿貴さん、と、とても破壊力の高い笑みを浮かべる光留。
あまりの美少女っぷりに脳を焼かれていると、軽やかな足音、そして元気のいい声が聞こえてきた。
「おはようございますわー! 皆様ごきげんよう、『みーひめ』ですわ!!」
やはりダンジョンに潜るには適していないようにしか思えないゴスロリと、綺麗な縦ロールのコスプレ姫。
すでに彼女はスマホを片手に準備万端。というかもう、配信を始めているようだ。
この姿を生で見るのは二回目になる。前回より完成度が高いというか見た目の可憐さに磨きがかかっているのは、おそらく気のせいではない。
姫川とは依然として同じクラスの隣の席同士。話す機会はそこまで多くはないながら、姿はどうしても目に入るという間柄だが、普段の彼女とは印象がかけ離れていた。
このコスプレ姿の彼女と共に配信するために血反吐を吐くような努力を重ねてきたのだなぁと思うと、なんというか……感慨深い。
「今日もそのキャラ作りはやめないのな」
「キャラ作りというなかれですわ! アタシ……じゃなかった、アタクシのアイデンディティですもの!」
そう言ってから、『みーひめ』は声を顰めた。
「それで、お願いの件は」
今まで彼女から感じたことがなかったくらいの真剣味を帯びた言葉。もしもふざけた格好をしていなければ、印象がガラリと変わっていたと思う。
俺は「大丈夫だ」と頷いて、影に隠れていた人物を呼んだ。
「MOEさん、いいですよ」
「はいはい」
『みーひめ』が望んだのは彼女に会うこと。どうしてそれを望んでいるのかは知らない。
面識がある俺を頼っただけなのか、それとももっと深い理由があるのか。何にせよ『みーひめ』の願いはきちんと叶えてやりたかった。
質問箱にわざわざメールを投げてまで、彼女をここへ呼び出したのだった。
……よし、今だ。MOEと対面した『みーひめ』の反応はカメラに収めておくべきだろう。
MOEが姿を見せる直前、スマホを取り出して俺も配信開始する。
「はいどーも、SSSランクダンジョン前にやって来ています、カズです。告知していた通り、今日はみーひめさんとのコラボ配信となります! 一人、特別ゲストもお招きしてますよー!」
この世に七人しかいない超上級者、そのうち過半数が一箇所に集まっている。
とんでもない過剰戦力で、コラボ配信が始まった。
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