第二十七話 冒険者としての憧れ
――ひたすら強くなるしかない、か。
光留に習ったおかげでおそらく初級冒険者レベルの力はついたのではないかと推測するが、俺はあくまで配信者であって冒険者とは目的も価値観も全く違う。
それ故に彼女たちの想いがわからないだけかも知れないけれど。
「否定はしない。でも……さすがにあのレベルを目指すのは無理だろ」
そう言わずにはいられなかった。
光留には資金が必要だ。
それを叶えるにはより数多くのダンジョンに潜らなければならず、しかし俺たちが足を運べる範囲のAランクダンジョンは日に日に攻略されて減少していっている。
一方、上級者でもない限り簡単には踏破できないSランクであればまだ未踏破が多い。というわけで、上級者になるのを目標とすべきだろう。
そこまではいい。だが、超上級者になろうだなんて無謀過ぎやしないか。
ランクが上がれば上がるほど危険度は高まる。それを考えると、超上級者になんてなる必要があるのかという疑問を抱かざるを得ない。
それに、あの園花帆と名乗った少女は、もはや人間を辞めているのではないかと思ってしまうくらいに驚異的な戦闘力だった。何せ武器を持たずに生身で戦っていたのだ。
ここはゲームやアニメの中の世界ではないのに。
正直言って、光留といえどもあれに至れるとは思えない。
「始める前に無理だって決めつけちゃって、カズくんったらつまんないな〜!」
「そうだよ。あんな小さな女の子ができるんだもの。私が、私たちができないってどうして言い切れるの?」
それは素養とか武術の心得だとかが色々あるからだろう、きっと。
でも光留の目は憧れに輝いていた。
「私もあの子みたいになって、加寿貴さんの配信で今度こそしっかり活躍して見せる。今日みたいなことがないよう、頑張りたい。……最強っていうのは冒険者の憧れだしね」
本気、なんだな。
「アタシも超上級者になるって決めたよ。アタシの知り合いにもめちゃくちゃ強い人がいてさ、やっぱアタシには手が届かないんじゃないかなぁって半分諦めてたけど、なんかいける気がしてきたっていうか!!」
光留の決意に乗っかるようにそう言った姫川は、懐から新しい鞭……紫紺色をした毒々しいそれを取り出して得意げに笑う。
ポイズンウィップ。あの少女から投げ捨てるように渡され、ダンジョンの帰り道でモンスター相手に使用したところ、かなり強力な毒性があることが判明しているアイテムだ。
「アタシみたいな細腕でもこれさえあればもう最強っしょ!」
それはどうだろう。
いくら強力とはいえ鞭は鞭なわけだし、剣やバットと違ってやはり鞭は扱いづらいと思うのだが。
「次にカズくんたちとコラボする条件はさ、お互い超上級者になったらってことにしない?」
「もちろん。その時はよろしくお願いね、姫川さん」
「アタシこそだよ。ちょっぱやで上級冒険者になって待っててあげる。今まで以上に配信してガンガン戦わないとだなー!」
自信満々なのはいいことに違いない。光留も張り合いがあるというものだろう。
ただ本音としては少しばかり心配である。姫川とは別にコンビでも何でもないただのクラスメートという仲だが、命を削るようなことだけはしないでほしいなと俺は思った。
さて、そうしてコラボ配信反省会は幕を閉じたわけであるが、この約束が叶う日は果たして来るのだろうか。
その答えは今は誰にもわからないことだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コラボ配信の翌日。
少しでも早く強くなりたいからという光留の要望で、遠出してまた別のAランクダンジョンに潜った。
モンスターはやはり強敵、仕掛けもそれなりに頭を捻らなければならなかったが、今度はしっかり踏破して最奥の財宝を手に入れられた。
しかし彼女は不満げだ。
「全然強くなった気がしないよ。これじゃまだ、上級者試験を受けられない」
上級者試験。
冒険者が昇級する際には、試験用と定められたダンジョンを潜らなければならないという。
上級者レベルはSランク相当。Aランクを地道にいくつも攻略していけばいずれは達するだろうに、それでは遅いとの主張だった。
「でも数をこなす以外にレベル上げの方法なんてあるか……?」
「手っ取り早い手法として思いつくのは誰かに弟子入りする、ってくらい」
なるほど、その手があるか。
でも知り合いで上級者以上の人間はいない。いたとしても俺はそのことを知らないので頼めない。
光留の交友関係は俺よりもっと狭いので、師匠となる相手を探せるかどうかが問題だ。
「いいよね、姫川さんは。きっと知り合いにも冒険者がいるって言ってたから、その人に教えてもらうんだろうな」
「その人を紹介してもらうってわけには……」
「いかないと思う。だってコラボ相手なだけであって仲間じゃないもの」
これでは手詰まりだ。
師匠になってくれるような強い冒険者を募集し、稽古をつけてもらうような金は俺たちにはない。金目的でダンジョンに潜るのに本末転倒になってしまうからだ。
じゃあどうすれば?
視線で問いかければ、光留はしばらく唸って――それから、俺が想像もしていなかったとんでもない答えを出した。
「いっそのこと、えっと園さん、だったっけ。あの子に師匠になってもらえばいいんじゃないかな」
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