第二十六話 コラボ配信反省会
どこから取り出したのだろう。幼い少女が腕に下げた小さなバッグに次々と金銀財宝が仕舞われていく。
それは光留に言わせれば端金であるのだろう。でもその光景をただ見つめることしかできない身としては虚しさが半端なかった。
骨折り損のくたびれ儲け。ここまで来て、一銭の報酬もないも同然なのである。
『よく頑張った』とか『みーひめとコラボしてるのを見るだけでも楽しかった』などとスパチャが数個送られてきたが、そんなものをもらえても全く嬉しくない。ダンジョン配信は踏破してこそ見応えがあるというもの。手柄を横取りされてしまうような配信者は、今後期待されなくなる可能性すらあった。
どうしてこんなことに。
憤る俺などお構いなしな少女に腹が立つ。凄腕冒険者だか何だか知らないが、いきなり現れて一体何なのだ。
「久々のドロップアイテムはポイズンウィップですか。……私には必要ありませんね。そこの鞭使いの方が勝手に盗むでしょうし、置いていくとしますか」
姫川の方に目を向けた少女に、ぽいと一本の鞭が投げよこされる。
それはボスのドロップアイテム。ダンジョンのモンスターの中には、稀に倒すとなんらかの物品を落とす個体がいて、今回のボスはその類だったようだ。
ゲーム好きの俺としては本来歓喜せずにはいられないはずだが、今はそういう気にもなれなかった。
「貴方がたには感謝していただきたいものです。おそらく気づいていなかったのでしょうが、あの蛇は猛毒を持っていた。持久戦などでは死に至っていたでしょうからね。……解毒の手段をお持ちでないなら遊んでいないでさっさと戻ることをおすすめします」
「えっ、毒!?」
「舌に絡め取られた時に感知できなかったのですか?」
目を丸くする光留に冷たく問いかけながら、そっぽを向いた少女は鉄扉の外へ。
「待って待って!! 凄腕冒険者とばったり出くわすとか大スクープだから! せめて取材だけでも!」と慌てて縋る姫川を振り返りもしない。
……ちなみにそのあと姫川がしつこく質問攻めにしたかげで
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「みーひめさん、今日はありがとうございました。というわけで次は通常通りの配信になる予定です。以上、カズと」
「みーひめがお送りしましたわー!!」
配信を終了させてしまうと、なんとも言えない気まずい空気が重くのしかかってくる。
『結果は残念だったけど楽しかった』……配信としての演出上、そういう終わり方にしたのだが、心情的に言えばそんな簡単に収まるものではないのだ。
どれほど黙ったままで林を歩いただろうか。
しかし真っ先に耐え切れなくなったらしい姫川が、底抜けに明るい声で言った。
「カズくんもヒカルちゃんもマジでお疲れ様〜! じゃ、今からコラボ配信反省会、しよっか?」
「…………なんだ、コラボ配信って」
「せっかく作ったコネは大事にしたいからさー、アタシとしては一回こっきりの関係性にはしたくない。ってことで、どうしたら配信を成功させられたかっていう話し合いとかできたらなーって思うわけ!」
話し合いって言ったって、そんなことをしても意味はないだろう。だって、失敗した原因はあの少女が現れてしまったというだけなのだし。
そう言いかけた俺だったが、その前に光留が口を開いた。
「そうだね。私も賛成。加寿貴さんのコンビとして何が足りなかったのか、色々とわかったから」
「おっ? じゃあヒカルちゃんから反省点をどぞ!」
頷き、白く美しい指をピンと一本立て、彼女は語り始める。
『みーひめ』と比べて配信映えする容姿ではないこと。語りも上手くないのでただひたすらにモンスターを討伐するだけになってしまっていること等々。
それから――。
「今回の失敗の大きな原因。それはずばり、私が……お話にならないくらい弱過ぎた」
弱過ぎた?
そんなことはない。
あの少女が異常な強さだった。それだけの話なのだ。
「俺たちにはAランクダンジョンの踏破実績もあるし、ボス戦まではきちんと進めたじゃないか」
「でもボスはあの女の子にあっさり倒された。あの女の子だって最奥に辿り着いたのは私たちと同じなわけで、踏破を目指すのは当然。それを阻止できなかった私たちが悪い、そうでしょ?」
言い返せないのは光留の言葉が真っ当過ぎるからだろう。
俺が抱いているのはただの逆恨みに過ぎない。
「しかもあの子は、毒に関しての忠告と、売れば結構高くなるドロップアイテムをお情けでくれた。
確かにAランクダンジョンには潜れるレベルにはなれたかも知れない。でもまだコラボするほどの余裕も実力もないって言外に言われたんだと思うの」
「あーね。ヒカルちゃんにというよりはアタシに向かってのお情けだろうけど」
「だから、今回の反省を次に活かすとすれば」
視線を交える光留と姫川。
そして、打ち合わせもしていないだろうに二人の声が揃った。
「「ひたすら強くなるしかない」」
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