ライバルは超有名配信者
第三十一話 光留の昇級試験 〜side光留〜
冒険者には昇級試験がある。
私は冒険者になろうと決めてすぐに初級試験を受けて合格……まあこれは志とそれなりの力さえあれば簡単だったけれど……し、中級試験も経験済み。
どちらも試験内容は単純で、ダンジョンに潜って最奥で待つ試験官を倒すだけだった。
上級試験ともなればそう簡単にはいかないだろうなとは思う。でも、あれだけ修行したのだからきっと大丈夫だと自分に言い聞かせた。
「じゃあ師匠、行ってくるね」
「わたしはあなたの師匠じゃありません。ですがせいぜい全力で当たって砕けてきたらいいと思いますよ」
もはや師匠でしかないのに、まだそれに拘ってるんだ。
つんとそっぽを向いてしまう師匠こと花帆ちゃんに笑いそうになってしまう。
前の時は一人きりで試験を受けに行ったのに、ずいぶんと賑やかになった。
コンビを組んでくれた加寿貴さん。コラボしたあの日から学校内で密かに挨拶を交わすくらいの仲になった姫川さん。そして強引に師匠になってもらった花帆ちゃん。
三人のおかげで今、私はここ――試験会場にいる。
上級者になればきっと踏破の度に得られる報酬が端金じゃなくなって、母を助けることができるに違いない。そんな望みを抱いていたのは最初の一年くらいの話。
だから頑張ってはみたものの、思うようにレベルは上がらない。三年も冒険者をやっていながら中級で半ば諦めていた。
とにかく数をこなせば、足りるはず。
そう信じて青春を諦めていた私に女子高生らしい楽しさを取り戻してくれたのは加寿貴さんだった。
ダンジョンに潜るのも、遊ぶのも、学校も、卒業間近なのにと周りに変な顔をされながら始めた部活も。加寿貴さんが近くにいるから全部楽しかった。
この試験が終わったあと。上級冒険者としてそれなりに稼ぎを得て、カップラーメンだけの生活から抜け出せたとしも――。
それでも加寿貴さんの傍にあり続けたい。加寿貴さんが嫌じゃないのなら、ずっと。
「まあ、そんなこと考えてる場合じゃないんだけど」
試験をクリアするために全力を尽くす、それが私のやらなければならないことだ。
加寿貴さんが「頑張って」と手を振ってくれる。
期待、してくれているのだろう。それが心から嬉しくてたまらない。
私は力強く頷いて、ダンジョンへと足を踏み入れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
単身で乗り込むダンジョンは、暗くて静かだ。
ここは踏破済みで運営者と呼ばれる民間企業に管理されているので試験挑戦者以外は入れず、最奥にいるに違いない試験官を除けば誰もいない。
この日のために加寿貴さんに買ってもらったヘッドライトの明かりを頼りに一歩、また一歩と進んでいく。
加寿貴さんがいない頃、初級試験と中級試験の時などは常に小脇に懐中電灯を抱えていた。今から考えると信じられないくらいに戦いづらかった。
コンビの時はライトは加寿貴さんの役目だけれど、今回はそうはいかないので非常にありがたかった。
「上級試験とあってモンスター、強いなぁ……」
久々に愛用の剣を振るいながら、ぽつりと呟く。
素手で戦うことを推し進めてきた師匠からお許しが出ないだろうと思っていたのに、「好きにしてください」と言われた時は驚いたものだ。
初級時代に使っていたおもちゃの剣を見咎められて、試験官に渡されたこの武器一本で戦ってきた私。
最近はある程度生身でも戦えるようになってきたものの、これがあるだけでかなり安心感がある。
切先でモンスターの弱点を一突き、師匠の動きを見様見真似してできるだけ軽い身のこなしで最短で絶命させるべく動く。
連携が得意な群れも一瞬で全滅させれば脅威にはならない。自分の実力の向上を感じて、思わず笑顔が浮かんだ。
さて、モンスターの次は仕掛け。
ダンジョンの仕掛けは解いた者がダンジョンを出ると元の状態に戻るため、普通のダンジョンと同じで解かなければ先に進めない。
私の前に現れたのは、どん詰まりの土壁。それからカラフルな巨大クリスタルだった。
これに触れたら一体何が起こるだろう。
少し警戒しながら、薄ピンクのクリスタルに手を伸ばして触れると……。
「わっ!?」
視界を焼き焦がすような、クリスタルと同色の光。
幸いだったのは目眩しの間にモンスターからの攻撃を受けなかったこと。これがトラップであれば危うかった。
光が晴れればそこには先ほどまでなかった道が伸びていた。
いや、違う。振り返るとクリスタルは青いものが一つだけだったし、背後はどう見ても壁だ。
それを見て、加寿貴さんとやったゲームであったワープというのを思い出す。
あまり詳しくはないけれど、この状況はおそらくダンジョン内の別の場所へ移動したのだろうと推察する。本やゲームにはよく出てくるんだと教えてもらった。
このダンジョンの仕掛けも同じ仕組みだったとしたら、クリスタルがワープ装置ということ。あのクリスタル群はざっと数えて二十個あった。
この青いクリスタルの先が正しい道であったなら構わない。でも違っていたら、その全部を一つ一つ確かめなければいけないことになりやしないだろうか。
いくらモンスターを瞬殺できるとはいえ、それには体力がいるし、何より試験官との戦いがある。
そんな中で無駄に体力を消費させる仕掛けの悪質さは考えるだけでも嫌になってしまいそう。
もちろん、これくらいで弱音を吐くつもりは毛頭ない。
総当たりでもいいから絶対に正解を掴んでみせる。
「だって……加寿貴さんの期待を絶対の絶対に裏切りたくないもの」
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