第十四話 いつも通りなのに寂しい一人の夜 〜side光留〜
無事に今回のダンジョンも踏破した。
それに伴って財宝を手に入れられたし、無事に出口まで戻って来られて少しホッとする。Dランクとだけあって今回は楽勝だった。
「今日は楽しかったねー。今から次のダンジョンに潜るのが待ち遠しいなぁ」
「そうだな。あ、それと、できれば次回予告とかしときたいんだけど目星をつけてる場所はあるか?」
「えーっと……最近見つかったばかりのDランクダンジョンがあるからそこに潜ろうかなって。廃ビルの中に現れたダンジョンなんだ」
加寿貴さんはスマホ画面に向かって次の予定について一通り話し、最後に「カズがお送りしましたー」と言って配信を終了させる。
そうするとそれまで賑やかだったダンジョン前の海辺に静けさが戻ってきた。
「帰ろうか」
加寿貴さんの言葉に私は頷いて、彼と二人で帰路に着く。
今日のために用意したビキニアーマーはきっともう二度と使わない。かなり大枚を叩いて買ったので後悔がないわけではないけれど、今日の思い出の品として大事に鞄にしまった。
別の誰かと出かけるのは初めてだった。
私と加寿貴さんはダンジョン攻略のために結成されたコンビ……ということになっているだけで友達でも何でもない。それでも今日、私は嬉しかったのだ。
普通の年頃の少女のように青春を謳歌するということができたのだから。
私の家の前までやって来たらお別れ。
次の日取りを決めて、じゃあね、と手を振る。そしてドアの中に入ってしまえば、私は
「疲れたなぁ……」
すっかり日が暮れて暗くなっている家に灯りをつけて回り、それからようやく荷物を下ろした。
と言っても大した量はない。ビキニアーマーの他にはダンジョン踏破で得られた財宝があるだけだ。
「今日の取り分はこれだけか。思ってたより少ないね」
見た目はいかにも高価なそれらを巨大なケースの中に収めながら、ぽつりと呟いてしまう。
これまで踏破してきたダンジョンの財宝全てを私はこのケースに集めている。だというのに中身がまるで増えている気がしないのだ。
ケースが満杯になるのは一体どれだけ先なのだろうと遠い目になって、私はかぶりを振った。
「いけないいけない、そろそろ夕飯にしなくちゃ」
そしてキッチンに向かう私だけれど、料理が下手くそなのでとても自炊なんてできない。代わりに数日前に買ってきたカップラーメンを開け、お湯を沸かす。
ただそれだけで私の夕飯は出来上がった。
今更、味気ないだとか不満だとかは思わない。三年前からずっとこうだから。
「いただきます」
私の声が誰もいないリビングに響いた。
加寿貴さんは一体今頃何をしているだろう。
あの居心地のいいソファに座りながら今日の配信でも見返しているのだろうか。それとも家族と共にあたたかいご飯を食べているのだろうか。
羨ましいわけではない。
そういうわけでは決してないはずなのに、今日はいやに寂しく感じられてしまう。
慣れきっているはずの一人きりの家。そして、スマホで気を紛らわすこともできない孤独な夜が。
誰かと出かけたいという夢が叶ってしまったから更なる高望みをしたくなっている自分に気づいて苦笑する。
馬鹿みたい。本当に、馬鹿みたいだ。――でも普通の女子高生のように青春を過ごしたいという気持ちはどうしてもあって、それを抑えることはできそうになかった。
次、加寿貴さんと会えるのは三日後。
その時にまた今日のように楽しく過ごせればいいなと私は思った。
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