第十五話 じゃんじゃんレベルアップ
俺たちは二、三日に一度ダンジョンに向かい、配信するのを繰り返した。
冬休みというのは日にちが少ないので日程的に色々な場所に行くのは厳しい。けれど冬休みを使わないのは勿体無いからと、正月休みまで削って活動することになった。
「冬休みのうちに十個のダンジョン踏破を目指すってことでどうかな」
「えっ!? そんなに潜るのか?」
「加寿貴さんは嫌?」
「いや、そういうわけじゃないが…………わかった、光留が言うなら目標は十ダンジョンにしよう」
光留は俺と一緒に潜りたがってくれているらしい。雑魚を倒すのがやっとな無能なのに、見離さないでくれるのはありがたかった。
ありがたいのだが、正直、十は多過ぎると思う。
ダンジョン踏破は決して楽にできることではない。
ビルの中にあるダンジョンは三十層というものすごい構造になっていてなかなか苦戦したし、その次の某森林地帯のダンジョンには霧が出て迷い込みそうになったり、工業地帯にひっそりと口を開けたダンジョンは仕掛けが複雑で危うく閉じ込められかけるなんて事態にも襲われるなんてこともあった。
それでもどうにか生きて帰れたのは、配信動画の視聴者からの声援と、光留が強いおかげだろう。中級冒険者である彼女はDランクのモンスターは障害にならなかったのだ。
『ひかるたん無双すぎ』
『カズの出る幕がほとんどなくて草』
『カズは配信担当だし当たり前』
『でもバット振り回すのもなんか様になってきた気がする』
『最初の配信の時からビビリ散らかしてるくせに度胸あってもんなw』
『もうちょっと強いダンジョンに行ってみてもいいんじゃないか?』
三回目のボス攻略後、一気にこんなコメントが湧き始めた。
それまで狙っていたのはDランクダンジョン。俺の体力とレベルを考えて光留はDランクばかりを選んでいたのだろうし、Dランクでもかなり危険な場面はあるが、確かにいまいちダンジョンボスとの戦闘は呆気ないのはある。
――ちょうど順調にチャンネル登録者数が増えてきたところだ。視聴者が離れれば俺の小遣いは減ってしまうし、それだけは避けたい。
そう思って光留に相談してみると、彼女は軽い調子で言った。
「ふーん、なるほど。そろそろいい頃合いかもね。加寿貴さんも日に日にレベルアップしてるから大丈夫だよ」
「そうか? 俺はちっとも強くなれているような気がしないけど……」
でも彼女からのお墨付きがもらえたのは心強い。
『ひかるちゃんもいるんだから平気だろ』
『次はCランクか』
『まあひかるんがいるなら安心だわなw w w』
『相棒の安心感に比べてカズは……』
『言うたるなや』
『いざとなったらカズは逃げ出して遠目から配信してくれればヨシ』
『楽しみにしてるぞー』
やはり俺より光留の方が期待されてるらしかった。力の強い美少女というのは非常に魅力的だなものなのかも知れない。
まあ別にいいか。俺もその方が肩の荷が軽くて良い。
「ありがとうございますー。じゃ、光留、次なるダンジョンは」
「無難に行くならCランクだけどそれじゃあつまらないから、思い切ってBランクにしよう。いいよね?」
「B、か。一気に攻めるな……」
「Bランクダンジョンなんて容易にいけるって言ったでしょ」
Bランクダンジョン。
中級者向けのそこは、うっかり初心者が挑めば命の危険があるような魔境だ。しかしさすが中級冒険者、光留は余裕のの顔だった。
『おお!!』
『大丈夫か……??』
『これは面白そう』
そこまで言われては行かないわけにはいかない。
だって俺たちの活躍を心待ちにしているのは、もう一千人以上もいるのだから――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして向かったBランクダンジョン……これが想像以上に難関だった。
とにかくモンスターが強い。他人のダンジョン配信で見たことがあったものの、生で見ると恐ろしさがまるで違う。今までの雑魚モンスターが本当に雑魚でしかなかったのだと痛感させられる。
「私についてきて。これでも私、七つのBランクダンジョンを踏破してきたBランクのプロだから」
相手に的確に剣を向け、ダンジョンの仕掛けを解いてボス戦に至ってもどこまでも落ち着いた横顔は、俺に安心感を与えてくれる。
「俺も負けていられないな」
ゲームのように目に見えて経験値が増えたりはしない。だが、光留の戦いぶりを見るうちにすっかりモンスターは恐ろしくなくなっていた。
『やれやれー』
『カズ、一撃喰らわせろ!!』
手元のスマホ画面に映るコメントたちが俺の背中を押す。
ダンジョンに潜ることで鍛えられた俺の力を、配信画面の向こうの視聴者たちに見せつけてやらなければ。
ぎゅっと目を瞑り、大きくバットを振りかぶった。
それがとどめの一撃となってダンジョンボスが倒れる。モンスターが起き上がることは、もう二度とない。
光留に見込まれただけはある。この調子なら意外にBランクダンジョンでも戦えていけそうだな。
ダンジョンの最奥から溢れ出す光を見つめながら、俺はそう思った。
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