第十七話 冬休み最後は危険満載なAランクダンジョンを①
調子に乗ったらすぐこれだ。
最初の目的を忘れて欲をかいた罰なのかも知れない。今ままで通り無難で堅実にやっていれば、こんなことにはならなかっただろうに。
俺は物凄い勢いで宙を落下していた。
見下ろす闇はどこまでも広がっているように見える。そもそもダンジョンなんていうのは科学的に解明されていない謎の建造物だ。どこが底かなんてわかったものじゃない。
落ちる、落ちる、どこまでも。
助けを求めて咄嗟に手を掴んでしまった光留と共にAランクダンジョンの最下層へと――走馬灯のようにゆっくり今までのことを思い出しながら、落ちていく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
初めてダンジョンボスをこの手で倒したあの日以来、Bランクダンジョンに年の瀬や年越し間にも何度も潜り、踏破するのを繰り返していた。
ゲームのように数値的なレベルアップはない。ただ強くなる度に自分の成長を感じて、嬉しくなる。
……と言っても、さすがに冒険者レベルで強くはなるのは無理だが。
Bランクダンジョンの配信実況は楽しかった。
超レア級モンスターに遭遇した時のように特段話題になるようなことはなかったものの、視聴者を掴んで離さない配信にできたと思う。
そして回数を重ねるごとにチャンネル登録者数は増加し、驚くべき数になっていた。
「千人!? 私、よくわからないんだけど、それってかなりすごいことなんでしょ?」
「ああ。まさかこの短期間でここまでいけるとは思ってなかった」
チャンネル登録者数は九百人を超え、再生回数は万に達していた。
つまりもうすぐ一つの大きな節目となる。
次で目標にしていた冬休みダンジョン十個計画のラスト。
着実に踏破し、その様子を配信すればいいだけ――――なのだが。
俺は調子をこいていた。
だって、Bランクダンジョンに易々と潜れるようになったということは、もう初心者ではなくなったわけである。そして光留がいれば何も怖いものなんてない。もう少しくらい危険を冒してみたって大丈夫だろう……と。
だから、言ってみた。
「何か物凄いダンジョンとか知らないか? 今度の配信は絶対成功させたいんだ」
「今までの配信も成功していたんじゃないの?」
「もっとドカンとやりたいと思って」
軽い調子で要望を告げる俺は意識していなかった。
普段潜っているところが大抵辺鄙な場所にあったり仕掛けの難易度が高かったりと、常に『物凄いダンジョン』ばかりだったということを。
だから、しばらく沈黙した光留が提案できたのは、『とんでもなく物凄いダンジョン』だけだった。
「知ってはいるよ。はるか北の果て、雪山の中にあるところとか。行ってみる?」
「雪山のダンジョンか。それならこの前とビキニアーマーの時の要領でスキーとかをしながら配信ってのもいいかもな。そこにしよう!」
「さすがにスキーは無理だと思うけど……。あ、それと、そこAランクダンジョンなんだよね」
Aランクといえば上から数えて三番目に位置する。中級冒険者でも危険とされるダンジョンである。
だがあれほど容易にBランクダンジョンで経験を重ねたのだ、光留と俺を合わせれば上級者顔負けレベルではないだろうか。
それに、視聴者だって難易度が高い場所を望んでいる。今ならきっと応えられるはずだと思った。
話がまとまってから行動に移すのはすぐだった。
両親に頼んで飛行機に乗る許可をもらい、即日北へ向かって旅立ったのである。
その先にどんな危険が待っているかなんて欠片も想像もしないままに。
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