二月「チョコレートは裏切らない」⑤

 別にしなくてもいいですよ、という申し出を断って、私と絹木先輩でキッチンの片付けをする。さすがに借りておいて、そのまま、というわけにもいかない。料理は片付けるまでが肝心で、ここを怠ると必ず気分が悪くなるものだ。

「そうそう、お二人にお土産があるんです」

「お土産?」

 あらかた終わったところで、くるみちゃんが冷蔵庫を開ける。

「ちょっと待ってくださいね」

 冷蔵庫の中から、三つの小さな袋を取りだした。手のひらにすっぽりと収まるくらいの小ささだ。それぞれ、赤、青、緑のチェックのラッピングがされていて、リボンで結ばれている。

「昨日、水鳥さんと今日のために練習にと思って、トリュフチョコを作ってみたのです」

 くるみちゃんは、わざわざ今日のために材料以外にも準備をしてくれていたのだ。感謝をしていると、彼女は残念そうに首を傾げた。

「ただ、ちょっと失敗したのがあって……」

「失敗?」

「そうなのです、スパイスの調合を色々試してベストなものにしようと思ったのですが、少しスパイスが効き過ぎたものが混ざってしまって。食べられない、というほどではないと思うので、ラッピングしておいたのです。お二人にお譲りしますのでどれか好きなものをお選びください」

 くるみちゃんが私と絹木先輩に手を差し出して促す。

 偶然にも二人が指したのは、左端にあった赤いラッピングの方だった。くるみちゃんが手を差しのばしていたものの延長線上にあったから、何となく選んだのだった。

「あら、同じみたいですね。では、どちらか変えてもらわないといけないですね」

 なぜかくるみちゃんは嬉しそうな表情で言った。

「あ、そうでした。これは失敗作なのでした。昨日一個だけ食べてみたのです」

 そう言って、彼女は緑のラッピングがされた袋を自分の元へと引き寄せた。

 残されたのは私たちが選んだ赤と、選ばれなかった青だ。

「赤い方か、青い方か、どちらかはどちらかといえば問題ない味付けだと思うのですが、お二人のうちどちらか青い方を選んでいただけませんか?」

 潤んだ瞳でくるみちゃんが問いかけてくる。

 赤か、青か。選択肢は二つ。どちらを選んでも50%なのではないだろうか。だから、変えたところで関係ない。絹木先輩は身動きせず無言のままなので、私が青に変えてあげるべきだろうか。

「じゃあ……」

 と言った私を、驚くことに先輩が遮った。

「私が、青にする」

「え?」

「ありがとうございます、先輩。では、杏さんは赤い方で、先輩は青い方をお持ち帰りください。味が酷くても文句は言わないでくださいね、これは『お遊び』で作ったものですから」

 キッチンの片付けをして、それぞれのチョコを鞄に入れる。

 それから、お店でタマゴのサンドイッチを食べた。水鳥さんが特別に作ってくれたものだ。

 くるみちゃんは駅まで見送ってくれた。

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