大晦日「推理のない日」④

 シロが同意して、社務所に併設されているおみくじやお守りを売っているスペースに移動する。お参りしてから並ぼうとしているのかもしれない、割と空いていた。

「百円を入れればいいのかな」

 おみくじは有人管理もしていないらしく、木箱に百円を入れて、別な箱に入ったおみくじの山から一つを取る仕組みらしい。

 私が先に引き、それからシロが引いた。

 結果は変わらないとしても、やや慎重にたたまれたおみくじを広げる。

「大吉だ」

 当たり、だろうか。私は大吉だった。

 中に書かれている文章も概ね良いことしか書かれていない。

 ただ一つ。

 待ち人、来るが遅し。

「ユートは?」

 表情を変えないまま文章を読んでいるシロを横からのぞき込む。

「末吉」

「ユートっぽいね」

「僕に対する認識を知りたいんだけど……」

「ねえ、知ってる? 末吉って吉より悪いんだって」

「知ってるよ」

 もちろんシロのことだからそれくらいは知っていて当然だろう。だからこれはシロを煽っているだけである。

「もっと見せて」

「嫌だ」

 シロは自分のおみくじを縦にたたんだ。

「どうせ信じてないんでしょ?」

「信じているかどうかと、わざわざ言われてがっかりするのは別問題だよ」

「そう」

「結んでくる」

 脇にあった低い木に歩いていって、枝におみくじを結んだ。

「良い結果のおみくじは結ばないで持って帰るって聞いたよ」

 横に並んだ私にシロが言う。

「そうなの? じゃあ持っておこうかな」

「そうするといいよ、大吉の杏」

 シロが嫌味っぽく返した。

「しかし、冷えるね」

「うん、私も結構限界が来た」

「社務所の中で休憩ができるらしいけど」

「うーん、ねえ、あれ!」

 社務所の入り口に立ててある看板を見る。

「『甘酒配布しています』だって!」

「甘酒かあ、あんまり飲んだ記憶がないなあ」

「せっかくだからもらってもらおうよ、寒いし」

「杏がそこまで言うなら」

「やった」

「杏、甘酒が好きなの?」

「うん割りと好き、作ったりもするよ」

「ふうん」

 シロを連れて社務所の中に入っていく。

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