大晦日「推理のない日」②
誘ったのはどちらだろう。
いいや、こんなことで嘘をついてもどうしようもない。それとなく誘導したのは私だった。話にだけ聞いていたが、歩いていける範囲に大きめの神社があるらしい。シロにその存在を確認して、初詣の予定はあるかと聞いた。元旦は予定がないらしく、家でゴロゴロしているつもりだと言った。
今まで初詣なんて行ったことがないけど、興味もあったし、シロにどうせなら場所も知っているんだしと一緒に行くことに成功した。はじめはやや難色を示したけど、二日に紫桐さんの家に行くことを知り、チクチク言い続けたら観念したようで、さらにどうせならと大晦日の日が回る前に待ち合わせをすることにした。
「ただ年が明けてカレンダーが変わるだけでしょ。神社のはしごなんてしても」
執行部でその話をしていた柏木さんと三日に学校の近くにある、この街でもう一つの大きめな神社に行くことも決まった。
一応ハブるとかわいそうなのでリンゴさんにも連絡をしたけど、実家の仕事の手伝いでそれどころではないらしい。
「そんな何回も神社に行くほど信心なんてないけど、いや、この場合はしごする方が信心がないのか?」
シロはそんなどうでもいいことを言っていた。
当日大晦日。
午後十時半。
ここ数年の温暖化で雪は少ない。もちろん、東京と比較することはできない。気温は氷点下になっていたけど、数日前から決めていた服装で出かけることにした。こういうときは一張羅というのだろうか、それとも戦闘服か。
吐く息で手を暖めてシロを待つ。手袋もあった方がよかったかもしれない。
散歩でもして時間調整をしていたかのように、集合時間ぴったりにシロは現れた。何を期待しているわけでもないが、いつものシロだった。
「えーと、大晦日の挨拶ってなに?」
「こんばんはでいいんじゃない?」
「それじゃあ、こんばんは、杏」
「こんばんは、ユート」
シロがケータイを見る。
「早速行こうか」
「ユート、一応聞いておきたいんだけど」
「ん?」
「これ、全部上るんだよね?」
私が同じように神社に向かうだろう人々が上っている階段を指さす。階段は広くなく、せいぜい四人が並んで歩けるくらいだけど、それが延々と続いている。
「そうだよ、それなりに階段があるって言ったよね?」
「言ったけど……」
人間の頭が並んでいるからか、終わりが見えない。
それなり、っていう数か。
指していた指を上げて、その行列の先頭を指し直す。
「あそこまで上らないといけないわけ?」
「それは、そうだね、それは間違いかな」
「じゃあ途中に神社がある?」
「杏が指さした場所、そこから左に曲がってまだ続く」
確認をする私にシロはなんだか嬉しそうに言った。
「……そう」
それから私たちは果てしない階段を上り始めた。
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