05. ジャーキーできたよ!



 「うーん…スパイシーかつスモーキーな香り…」

 〝うあー…紅茶味のべっこう飴みたいな色になってるぅ…うまそうぅ…〟

 「試食いっきまーす」

 〝製作者の特権うらやま〟

 〝いいなーいいなー〟


 うん。噛みちぎればほろりと解ける肉の繊維。奥まで染み込んだ塩っけは強すぎず、噛めば噛むほど滲み出る旨味を邪魔せん。黒胡椒とローリエ、ほんの少しのにんにくの風味が加わる、癖のないスモーキーな香りが鼻を抜ける。鷹の爪のピリリとした辛味が最後に口の中をリセットして、いくら食べても飽きさせん。

 魔力切れかけの体に染み渡る美味さやなぁ…


 「胡桃以外も今度出してみるかなぁ」

 〝桜でやるイメージ強かったけど、いろいろ種類あるんだよな〟

 〝チップならブレンドもあり。ただ冷燻するならウッド一択だから、お手製ブレンドは道具ないと難しいかな?〟

 「錬金術でいけるで?」

 〝まぁじでえ?〟

 〝おっしゃ、やってみよ〟

 「ただ冷燻は外気温が低いとこやないとできんから、やるなら寒いとこでな」

 〝あー、烏さん、雪山の麓に家あるんだっけ〟

 〝No.25集落だったっけか。俺、拠点がNo.18開発拠点だし、遠征兼ねて行ってみっかなぁ。段ボールでもできるならワンチャン…〟

 「No.18周辺は突撃ブルやのうて亜種のドリフトブルが多いんやっけか」

 〝そうそう。突撃ブルとは逆に、焼肉にはできるけどジャーキーにはできないやつ〟

 〝ジャーキーどころかベーコンにも生ハムにもできないよな〟

 〝突撃ブルとドリフトブルの合い挽き肉で作るハンバーグはうまいぞぉ〟

 「不思議よなぁ。突撃ブルは挽き肉やったら焼いてもいけるの」

 〝ハンバーガーのパティ向きな気がする〟

 〝わかる〟

 「言われてみりゃあ確かに。あのジューシーながらもちょい硬めの食感で、肉食ってる感強い味わいがな」

 〝ドリフトブルのと半々だと、よりジューシーかつふんわりガツンとくる不思議な食感が楽しい〟

 〝ジャーキーにすると突撃ブル肉のより硬くて食えないのが謎〟

 「堅パンより硬くて無理やった」

 〝歯が立たないとはこういうことかって、身をもって知ったよね。歯型すら付かない〟


 汁に入れても柔ぁならんし、あれは作ったの後悔したなぁ…硬度的にはコランダムと変わらんジャーキーってなんやねん。


 「よし、数はオッケー。10本セットで500。パックかんりょー。ファブリケーター様様やわぁ」

 〝その数作るとなると、燻製室ないと無理だなぁ〟

 〝数が少なくてもいいならちゃっちい燻製器でいいんだけどな〟

 〝いいなー、帰る頃には残ってねーよなぁ…〟

 「残らんやろうなぁ。おっちゃんも狙っとるし」

 〝酒好き剣聖が狙わないわけがない〟

 〝年上におっちゃん呼ばわりされる剣聖…〟

 「やって見た目がなぁ…」

 〝そういや烏さんのボディの設定年齢若くね?〟

 「20の時のボディやで。身体能力全盛期やったらしい」

 〝20歳にしては…〟

 「うっさい。筋肉鍛えすぎたせいか、背は150で止まったんや」

 〝あらま〟

 〝体の年齢変えられねーの?〟

 「変えるんやったら許可がいる。細胞操作せなあかんからな」

 〝あー、そっか〟

 〝コストもかかりそう〟

 「そう、自己都合で外見年齢変えると金取られるんや…小規模コロニー買える値段やで?」

 〝うわぁ…〟

 〝むりむりむりむり〟

 〝何兆円かかるんだ…〟


 やから滅多にボディの年齢は変えへんなぁ。

 まあ変える意味がないっちゅーか…変装する必要があったりせんと変えんわな。

 …ぶっちゃけ、いちいち変えられるとめんどくさいってんでふっかけられとる気はする。


 〝剣聖が競争相手なら、最悪トーナメント戦ある?〟

 〝さすがに変わらずジャンケンだろ〟

 〝だよなぁ〟

 〝剣聖からしたら物足りないかもしんねーけど〟

 「あのアラスタ中央ギルドやったらトーナメントいけそうやけどなぁ」

 〝怪我人が大勢出るのでダメです〟

 〝あの人うっかりで相手の武器とか防具ぶっ壊すからな〟

 〝武器も防具も安くはないんだよぉ!〟

 「それもそうやな」


 うちは全部手製やからなぁ。亜空間ポーチも錬金術で作ったやつやし。軍支給のやつと容量一緒やけど、妙に開閉しにくかったんよな。使いづらくてさすがに作ったわ。


 「ブルルゥ」

 「おお、皿持ってきてくれたんか。ありがとなぁ」

 「ブフゥ」


 連れて帰ってきた変異種ブルが、ダンジョンの入口になっとる庭の大木の根元にあるうろから出てきた。うろのサイズ的には変異種ブルの3分の2やのに、するんと出入りできる。ダンジョンの入口って不思議よなぁ。


 〝お、焼肉のタレつけた焼ブル肉食わせたんだ〟

 「ハーブ塩より気に入っとったで」

 「グァウ!」

 「オッケー。次はフルーティ感強めのやつにするわ」

 〝なんて?〟

 「果物の風味が強いやつが食べたいって。ここらで売っとる市販のは全部試したし、自作するしかないなぁ」

 〝がんばれー〟

 〝よく見たら微妙に浮いてる?!〟

 〝飛べる奴だったんかお前〟

 「なんで飛べるんかは自分でもわからんらしいで」


 翼は動いてへんし、魔法で浮いとるとは思うんやけど。そうなると飛ぶ魔法が使える個体と使えん個体の違いもわからんのよなぁ…


 〝本能的なもんなんかねえ〟

 〝飛べないやつは本能に備わってない可能性?〟

 〝名前つけた?〟

 「金太郎にした」

 〝草〟

 〝それでいいのかお前…〟

 「グォッフゥ…」

 「強そうな名前やって」

 〝わぁ、ご満悦ぅ…〟

 〝まあ、強いな、うん〟

 〝見た目金色だけどさぁ…〟

 「うちにネーミングセンスを期待せんといてや」

 〝そういやそうだ〟

 〝血抜き用スライムにちーちゃんってつけるくらいだしなぁ〟

 〝安直ぅ…〟


 いやぁ、もうこれしか思い浮かばんやったよね。金色やし、そこらのモンスターより強いし。

 突撃ブルの変異種って、堅くて耐久力あってスピードもあって、と強いほうなんよな。飛ぶやつやと討伐推奨ランクExやし。攻撃方法が突撃してくるだけやけど、身体スペックが高すぎるねん。弱点らしい弱点は、だいたいの生物と同じく肛門とか、目とか口ん中とか。まあ狙いにくい狙いにくい。

 まあ、おっちゃんとか一部の探索者は、問答無用で首刎ねるけど。うちは角引っ掴んで突撃止めてからの魔法で窒息。変異種の傷なしって高値がついてうまうまやでぇ。






 ギルドにジャーキー持ちこんだら、売買担当者がすっ飛んできた。そりゃそうか。コメントしてへんだけで配信は見とるって言いよったし。

 嬉々としてジャンケン大会の日程組みよったけど、その場におったおっちゃんの意見ガン無視で笑ったわ。知名度とか強さで贔屓せんのは好感持てるで。






※剣聖:コードネームknifeナイフ。剣聖やソードマスターとも呼ばれる。現役軍人兼探索者。短い白髪と金瞳に褐色肌、無精髭の筋骨隆々な壮年の男性体。よく言えば豪快、悪く言えば大雑把。いろんなドーピングを受けた結果、なぜか目の色が緑から金になり、いくら飲んでも酔わない酒豪になった。目の色が変わってからはより明るいところにいるのがつらくなったため、常時グラサン代わりの布ゴーグルをしている。烏と同じくデザインベビープログラム製だが、製造は第二次太陽系防衛戦争が勃発した38世紀後半と、烏より年下。しかし、外見年齢が烏より年上になると、彼女からはおっちゃんと呼ばれるようになった(若い頃は普通にコードネームで呼んでいた)。本人的には満更でもない。というか「おっちゃん」の響きが気に入っている。剣聖と呼ばれる通り、剣を使う。お気に入りは烏お手製ツヴァイヘンダー。戦闘スタイルはある意味バーサーカー。盾なんざ不要!敵の攻撃なんざ当たらなければどうということはない!

※ドリフトブル(英語圏ではDrifting Bull):ドリフト特化な突撃ブルの亜種。色味は、突撃ブルはアッシュグレー、ドリフトブルはパールグレーと、ぱっと見では見分けがつきにくい。数の確保が容易なため、焼肉屋からの依頼でミノタウロス以上にめちゃくちゃ狙われる哀れなモンスター。人の姿を見ただけで逃げる個体多数。それでも群れでしか出ないのもあって、討伐推奨ランクはA。

※ファブリケーター:材料さえあれば大抵の物はつくれるすごい機械。電子機器も料理もお手のもの。大きさはいろいろあるが、烏の家にあるのはバックパックくらいのやつ。主にジャーキーやベーコンのパッケージングに使われている。これで作った料理は、めちゃくちゃ美味しいとは言えないけど、まあ美味しいかな、くらいのレベル。料理ができない人の味方。

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