21. やったぜ

 


 「2階ー、やけどー?」

 〝お?珍しく洞窟だ〟

 〝鍾乳洞かぁ〟

 〝鍾乳石が頭の上に落ちてくるところでしょ。知ってるんだから〟

 〝いたなぁ、落とすやつ…〟

 〝こ、ここはおみくじだし、いないかも?〟

 「いや、おったわ。風切りコウモリ」

 〝うわぁぁああああ!!〟

 〝ギルドのラウンジで誰か叫んだと思ったら視聴者ニキだった〟

 〝草〟

 〝音声入力してんのか〟

 〝思考入力でも叫んでたんじゃないかなぁ〟

 〝こいつにトラウマ植え付けられたやつは多いだろうからね。叫びたくもなるだろうよ…〟

 〝落とされる鍾乳石、混乱する仲間、石筍に躓き転けそうになったところを狙って首に噛み付くコウモリ…そしてできあがるジンジャーマンクッキー…〟

 〝やめろ。思い出すな。思い出させるな〟

 〝烏さんまで頭押さえだしたじゃないか〟

 〝烏さんの場合は某コズミックホラーのせいでしょ〟

 〝リアルSANが減るやーつ〟


 ジンジャーマンクッキーは多くの探索者のトラウマやなぁ…血ぃ抜かれてかっぴかぴになった死体…

 某VRRPG経験者ならもっとトラウマになっとるやつ多いやろなぁ…崩れ落ちるジンジャーマンクッキー…クッキーの頭から飛び散るキャンディー…うっ、頭が…


 〝風を切るように飛ぶコウモリだから風切りコウモリってついたらしいけどさ、吸血えぐすぎて飛んでるとこがそんなに印象に残らない〟

 〝それな〟

 〝超音波攻撃で方向感覚狂ったら、コウモリがっつり見れない〟

 〝だよねぇ〟

 〝これが討伐推奨ランクAとかバグじゃね?〟

 〝うん。だから会議でSにしようって話出てる〟

 「基本単体でしか行動してへんからなぁ…超音波攻撃が効かんアンドロイドがおるパーティやったら、Aでも問題ないんよ…」

 〝相性の問題かぁ〟

 〝アンドロイドはコウモリ特効だな、たしかに〟


 鋼鉄の体に牙は刺さらんし、刺さったところで飲める血はないしな。超音波攻撃もノイズキャンセラーで対応できるし、相性良すぎやねん。


 〝ふむぅ…そこらへんの相性を考えた推奨ランク決めをせにゃならんか…〟

 〝○○にとってはA、○○にとってはS、みたいな?〟

 〝体の相性は大事。学んだ〟

 〝語弊!〟

 〝言い方ぁ!〟

 〝間違ってないけど。間違ってないけど…〟

 〝いかがわしい意味を含んでしまう言葉になってしまったな…〟

 〝言葉って難しい〟

 〝いかがわしい意味を持つかどうかは聞いた人次第だと思うんですよ〟

 〝そうかな…そうかも…〟


 せやなー。

 お、口かっ開いて超音波攻撃。まあなんもないんやけど。


 〝烏さんはどうして効いてないんですかねぇ…〟

 「ヒント、魔法」

 〝息するように魔法を使うよなぁ…〟

 〝…ん?よく見たらコウモリの周囲の空気を振動しないようにしてる、のか?〟

 〝空気って見えるものなんですかね…〟

 〝目を弄ってるサイボーグかアンドロイドなら?〟

 〝なるほど〟

 〝あ、ふらふらしだした〟

 〝そういやこいつ、羽ばたいてないのに飛んでるな〟

 〝翼いる?いらなくない?〟

 〝魔法で飛べてるならいらないよねぇ?〟

 〝振動しないってか、コウモリ周辺の空気中の分子、全部位置固定してんのかこれ?〟

 〝ってことは、真空状態と一緒で呼吸がろくにできなくなる?〟

 〝うわぁ〟

 「やれるかなー?って思ったらやれたわ」

 〝こりゃひでえや〟

 「そういやこいつの翼揚げが美味かったなぁ…」

 〝あ、落ちた〟

 〝コウモリがこんなあっさりと…〟


 行動自体はシンプルなんよな、こいつ。

 超音波攻撃、吸血、高速移動くらい。ここみたいな鍾乳洞やったら、超音波攻撃で鍾乳石落としてきたりはするけどそんくらいや。そのめんどくさい超音波攻撃さえどうにかできりゃ、Aランクでも狩れるやつなんよ。群れやときついかもやけど。


 〝思った。近接縛りはきつい〟

 〝それはそう〟

 〝銃とか遠距離攻撃手段はあったほうがいいよ〟

 〝投擲もあり〟

 〝搦手使ってくる相手に近接オンリーはきついよ〟

 〝剣聖みたいにそんなの関係ねえと言わんばかりにぶった斬れないとね…〟

 〝あ、烏さん。剣聖の剣の改造したの?〟

 「検査の合間にしたでー。配信見とったけえって、おっちゃんへの詫びに金の延べ棒5本寄越してん。それ使つこぉてな」

 〝延べ棒って言っても、重さいろいろなかったっけ?〟

 「100、500、1キロの3段階やったっけな。そん中の1キロやったはず」

 〝プラス5kgで足りる?大丈夫?〟

 「あんま重すぎても使い勝手変わってまうけえなぁ…とりあえず重心を剣先寄りにしてはみた。それとは別にめっちゃ重いグレソ作ってって頼まれたわ」

 〝グレートソードかぁ〟

 〝重厚感ある大剣…いいねぇ…〟

 〝シンプルにゴツいは強い〟


 ツヴァイヘンダーも重めの剣のはずなんやけどなぁ…あ、グレソの重さ、具体的にどんくらいって聞き忘れたわ。後で聞こー。

 うちのハンマーくらいって言われたらどないしよ…あれ5トンやで、5トン。そんだけの重さの素材集めるん大変やってんで?素材をおっちゃん持ちにしてほしいくらいや。






 「おったぁあああ!」

 〝○ソデカボイスぅ…〟

 〝いたぁぁああああ!!〟

 〝やっとかー〟

 〝5日かかるとは〟

 〝あれ、おみくじのジャングルのポイズンラプターってなんか特殊行動なかったっけ?〟

 〝仲間呼び?〟

 〝そうそれ〟

 〝あれ、でもやるかやらないかは個体によらなかったっけ?〟

 〝あんまり仲間呼びするやつ確認できてないよね〟

 〝いやでも、烏さんなら…きっと引くはず…〟

 〝あっ(察し)〟

 〝あっ〟

 〝はい〟

 〝1体首上げましたね…〟

 〝まさか…〟

 「グギャア!グギャア!グギャア!グギャギャア!」

 「よっしゃあ!」

 〝呼ばせやがった!〟

 〝呼んじゃったよ!〟

 〝烏さんのこれまでの引きの悪さはこのためだったのか…〟

 〝うわ、ガサガサいってる。すげえ来てる〟


 5日目8階…やっと、やっとや。しかも!ジャングル!仲間呼びするかは完全に運次第!せんことのが多いんに、今日はツいとるでぇ!!

 これで!探す手間ぁ省けた!あとは殲滅じゃあ!!!

 今日の気分は両手ぶんぶん丸!いっくでぇ!


 〝うわぁ…〟

 〝100以上いない?〟

 〝…あれ、刀じゃなくて剣?〟

 〝烏さんの身長と変わらない刃の長さなんですが?〟

 〝フランベルジュだ!なみなみしてるやつ!〟

 〝なんか光の反射具合からして、切れ味やばそう〟

 〝烏さん、切れ味アップ効果付き武器大量に持ってるからな〟

 〝シンプルこそ至高〟

 〝属性武器はあって困らないけどね〟

 〝むしろないと困る相手がドラゴン系に多い〟

 〝それな〟

 「ギャ」「アキャ?」「グ」「ギャ?」「ガッ」

 〝うお、5体くらい一気に首飛んだ〟

 〝首狩り族かな?〟

 〝狙えと言わんばかりの首だからなぁ〟


 うん。やっぱ遠心力に身を任せてぶん回す系の武器も楽しいなぁ。でも燃えるハンマーは重くしすぎたわ。この剣くらいがちょうどええ。たしか30キロくらいやったか。

 …思った。5トンはやりすぎた。なんであんなクソ重いハンマー作ったんやろ…深夜テンション?実験中特有のハイテンション?






 「ふー、たいりょーたいりょー」

 〝ちーちゃんこれ血抜きできる?大量すぎるけど〟

 「すでに分身体が血抜きしよるで。「ごはんいっぱい」って喜んどる」

 〝器用にジェスチャーするなぁ〟

 〝Good job.〟

 〝器用だねぇ〟

 〝結局どんぐらいいたの?〟

 「103やったっけか」

 〝そういやほかに人いなかった?〟

 「ドッグタグ検索引っかからんかったけえ大丈夫やろ」

 〝そうか、烏さん量子ネットワークにダイレクトコネクトできるから、タグの信号もすぐ探せるのか…〟

 「今、5階のネコまみれに10人おるな」

 〝てへっ〟

 〝来ちゃった〟

 〝この猫狂い共が〟

 〝ネコはいいぞぉ…〟

 〝猫吸ってるアンドロイドの絵面がやばい〟

 〝アンドロイド機体ならフィルターで毛と砂吸わないようにできるからいいよなぁ…〟

 〝天国ぅ…〟


 うーん。この面子、1日目のネコまみれにもおった連中やな…ネコ好きのフットワークが軽いんか、単に連中が暇なだけか…






※風切りコウモリ(英語圏ではGale Bat):風を切るように飛ぶコウモリ。小柄で素早いため、単体のみとは言え手間取る探索者は多い。主な攻撃は超音波攻撃で、方向感覚を失わせる。そうしてろくに動けなくなった相手に噛みつき、血を吸う。多くの探索者のトラウマ。翼は素揚げにすると美味しいので、たまに居酒屋から依頼が出る。討伐推奨ランクはAだが、アンドロイドか一部サイボーグ以外は「嘘だ!」と言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る