22. じっくりことこと

 


 「やっと!ガラの確保ができたでー!っちゅーわけでひっさびさの自宅配信や!」

 〝わこつー〟

 〝わこつ〟

 〝わこつ。いいスープできるといいなぁ〟

 〝おつー。麺とかえしは?〟

 「昨日作って置いとる。かん水は錬金術で作れるし。あ、かえしは醤油にしたで」

 〝あ、製麺機持ちだったか〟

 〝見えてますねぇ〟

 〝一家に一台、製麺機…あるか!〟

 〝ファブリケーターが製麺できちゃうからなぁ〟

 〝手揉み麺、縮れ麺はなんかこれじゃない感あるけどね…〟

 〝手もみ麺は味噌に合うイメージ〟

 〝味噌以外も合うよー。濃厚な豚骨スープとか〟

 〝太めのやつはつけ麺でよく見る〟

 〝カエシ…いわゆるタレか。調べてみると結構いろいろレシピがあるな〟

 〝鶏白湯風に醤油ダレかぁ…合いそう〟


 ええよなぁ、ラーメン…背脂たっぷりこってりな豚骨醤油、濃厚味噌バター、魚粉香るこってり醤油…あっさり塩でもあり。魚介系手に入りやすけりゃなぁ、エビラーメンとかウニラーメンとか作りたいんやけど…


 「とりあえずどどーん」

 〝寸胴鍋どーん〟

 〝でけえ鍋だ〟

 〝いや、でかすぎない?〟

 「まずはポイズンラプターのガラの下処理ー、ちゅーわけで、1頭分のガラどーんの水どーん」

 〝水の量は適当?〟

 「うん。まあ、ガラに被る程度やなぁ。ちーちゃんおらんかったらガラの血抜き処理いるんやけど、おるけんそこら省略しとるでー」

 〝血抜き用スライムさまさまだぁ〟

 「んでこれを、じっくりことこと茹でる。アク取りはしっかりとなー。沸騰後から最低1時間はかかるけん、魔法でちと加速や」

 〝鍋周りの時間加速か〟

 「2分を1分に、程度やけどな。あんま早よ進めるとアク取りが大変になってまう。ただ量が量やけえ時間かかるだけで、これの半分やったらそんなかからんで」

 〝ほう〟

 〝お、ぐらぐらしてきた?〟

 〝こっから沸騰までがちょっとかかる〟

 「沸騰してちょっとしたらアクが出だすけん、溜まったら取ってくでー」


 んー、この時点で臭みが結構あるなぁ。鶏寄りの臭みっぽいし、鶏白湯っぽくできそうで楽しみや。




 「ほい、アク取り完了ー。流水にさらしながらゴミ取りしてくでー。血合いもちーちゃんのおかげで気にならんけえ、そこは無視やー」

 〝血抜き用スライムが有能すぎる〟

 〝それな〟

 「ゴミ取り終わったら、バキッとボキッと割る!」

 〝素手でやることじゃねえと思う〟

 〝トンカチとかノコギリとか、もっとこうさぁ〟

 「用意するんめんどい」

 〝わかる〟

 〝素手か魔法で済むならそっちのが楽〟

 〝草〟

 「んーでー、鍋洗ってーのー、下処理終わったガラどーんのー、青ねぎの青いとことー薄切りしょうがをひっとかっけぶーん、半分に切ったーにんにく、玉ねぎ、キャベツの芯をー、一緒にどーんのお水もどーん」

 〝流れるように魔法使って作業するよなぁ…〟

 〝ニンニクと玉ねぎ、皮付きのままでいいんだ〟

 「泥とか汚れをちゃんと落としときゃ皮付きでもええでー。気になるんやったら剥いてやー」

 〝ほへー〟

 〝しょうが1片か…少なめなんだ〟

 「このしょうが、風味と辛味が強めやねん。あんま量入れるとしょうがの香りがきつぅなってまう」

 〝なるほど、品種で量は変えたほうがいいか〟

 「水の量は、ぶっちゃけ目分量。最終的に半分か3分の2まで減ってまうけん、そっから逆算するんはありやで」

 〝お、圧力鍋だったんだそれ〟

 「ええ大きさのがあってよかったわぁ。見た瞬間つい買ってもうてん」


 いやー、ええ買い物したわぁ。量作るんやったらこんくらいはほしい、って思っとったサイズ!うちが見たとき残り3個やったけん、仕様良く見らんと買ってもうたけど…問題ないしサイズもヨシ!

 家庭用のやとそんな大きゅうないけんな。量作って置いときたいうちとしちゃあ物足りんかってん…


 〝もしや、初使用?〟

 「うん」

 〝草〟

 〝50lサイズでよくあったなぁ〟

 〝やっぱそれ、業務用?〟

 「うん、一応。個人用で探したら見つけてん」

 〝草ァ!〟

 「ほら、大は小を兼ねるってうやん?」

 〝言うけどさぁ〟

 〝今探してみたら売り切れてた。あんま数出してないんだな〟

 「お一人様1個限り、数量限定100個やったかな」

 〝もう100個売り切れたのか…〟

 〝個人用でも意外と需要あるのね…〟

 〝強圧か。どんくらいかける?〟

 「だいたい3リットル水入れたし、2時間くらいかなぁ」

 〝圧力鍋は魔法で時間短縮できる?〟

 「やれるけどやらん。怖いし」

 〝せやな〟

 〝たしかに〟

 〝圧力関係はね、下手に加速するとぱーんしたりするからね…〟

 〝時間加速って、戻すより消費魔力そんなにないのに難易度高いよな…〟

 〝加速する様を詳細にイメージすると余計にね…〟


 言われてみりゃ難しいっちゃ難しいな。うちはなんか感覚でできよるけど。






 「減圧ー、からの再度沸騰やー」

 〝これからちまちました作業がはじまる…〟

 〝沸騰後に潰すんだよな〟

 〝潰す?!〟

 「入れたガラやら野菜やら混ぜて潰してーってやるんや。さすがにこの青ねぎの青いとこは取るけどな。臭み取りにじゅーぶん貢献してくれとるし」

 〝これ以上働かせるのは…ね…〟

 〝青ねぎくん…過労死寸前?〟

 〝ドクターストップ入ったかぁ〟

 〝お、沸騰まで加速したのか〟

 「さすがに待つんだらしいし。沸騰したらー、綿棒でごりごりーっと」


 んー、このなんとも言えんぐずぐずぬちゃぬちゃごりごりした感触…久しぶりやわぁ。

 香りはええ感じに鶏ベースっぽいんやけど、味はどうやろなー?


 〝思ったより濁るんだなぁ〟

 〝このあとまた濁るぞ〟

 〝濁らないのってなんだっけ?〟

 〝清湯?〟

 〝チンタン〟

 〝沸騰させなきゃちんたんになるよ〟

 〝ほへー〟


 それにしてもこの作業、なかなかの力作業よな。そりゃ機械化もやむなしって感じや。


 〝おお…中に入ってたやつが見えなくなってる〟

 〝粉々になって沈んでったか〟

 〝ラーメン作りって手間のかけかたすごいな?〟

 〝圧力鍋がなかったらまだ時間かかってた〟

 〝ラーメン屋のスープが機械任せになるのもしゃーないよな〟

 〝機械製でもうまいからすごい〟

 〝並々ならぬ企業努力があったからな…〟


 ふー、あとちょい?かなぁ…がんばろ。






 「いやー、ハンドブレンダーさまさまやでぇ」

 〝強制乳化!〟

 〝そこは魔法じゃないのか〟

 「疲れた」

 〝そっかー〟

 〝魔法を使う気力すらなくなる作業か…〟

 「でもなんかええ感じの見た目やない?」

 〝香りは?〟

 「ヨシ!」

 〝こりゃ期待できそうだな〟

 〝わくわくてかてか〟

 〝ポイズンラプター素材、肉しか注目されてなかったけど、ガラが使えるなら討伐以外の依頼増えるかな〟

 〝毒の取り扱い次第だよなぁ〟

 〝加熱処理で弱毒化できるかな?〟

 〝できるなら納品依頼もありかなぁ〟

 〝ギルドの審査が通ればいいなぁ。弱毒化はちょっと研究してみよう〟

 〝依頼が出せれば出したい〟

 〝ラーメン屋ニキ!ラーメン屋ニキじゃないか!〟

 〝修行から帰ってきたのか!〟

 〝や っ た ぜ〟

 「お、マック帰ってきたんか」

 〝帰って!来たぜ!まあまだどこに店つくるか決めてねーが。暖簾分け許可は降りたぞ!〟

 〝おっしゃぁぁああああ!〟

 〝ラーメン!ラーメン!〟

 〝ラーメン!ラーメン!〟

 〝ラーメンが!食える!〟

 〝やった!やった!やった!〟

 〝かつてこれほどまでこの配信のコメントが賑わったことがあっただろうか…〟

 〝ラーメン!ラーメン!〟


 …あかん。コメントがラーメンで埋まったわ。




 〝それにしても、ガチで白湯作ってんのな〟

 「せやでー。あんたがいつ帰ってくるかわからんかったけん、自分で素材集めて作ったろーってな」

 〝だからってポイズンラプターに行き着くか?肉の味は鶏に近いから使えなくはなさそうだが…〟

 〝毒持ちだからなぁ〟

 〝今まで毒持ちなせいで規制入って討伐依頼しかなかったモンスターの納品依頼も出れば、ついでにやれて助かるんだが〟

 〝弱毒化できればなぁ〟

 〝まあまだポイズンラプターのガラが使えるとは限らないんだけど〟

 〝見た目よし、香りよしなら期待しちゃうぜ〟

 〝めちゃ白くなったなぁ〟

 〝パイタンって呼ぶのも納得の白さ〟

 「あとは火ぃかけ続けて量を減らすでー」

 〝減らすんだ?〟

 〝大体1.05リットルくらいまでか?〟

 〝ラーメン1杯に使う量が350mlくらいだっけ〟

 〝なるほど、ここで調整するのか〟

 「減ったら濾して完成やな。そしたらかえしと香油を入れてスープにする」


 あ、ちょっと味見しよ。


 〝唐突な味見〟

 「んーふー…」

 〝顔がとけた〟

 〝顔の上半分隠れててもわかるとけ具合〟

 〝ご満悦ぅ…〟

 〝ってことは使えるのか〟

 〝毒処理可能なら納品依頼出したいな…〟

 〝今はまだ取引規制対象だっけ〟

 〝猛毒持ちだからねぇ〟

 〝そこらは解体の時に処分できるっていっても規制入るよねぇ〟

 〝どこから漏れるかわかんないからね〟

 〝裏組織に協力してる探索者がいる可能性はなくはないし…〟

 〝だから配信と録画義務を課そうかって話も出てるねぇ…パーティーの揉め事解決にも使えるし〟

 〝あー、ドラレコ的な感じに使うのか〟

 〝ありはあり〟

 〝あり寄りのあり〟

 〝でも配信もかぁ…録画だけじゃなくて…〟

 〝パスかけて、パス知ってる人以外は見れない配信にすればええんでねえの?〟

 〝もしくはテスト配信?あれならアーカイブに残るだけで、配信中の画面は見れなかった気がする。アーカイブも公開非公開の設定ができたような…録画は知らん〟

 〝そんなんあったっけ?〟

 〝あ、ドックス限定機能か、これ〟

 〝どこど…あったぁ!〟

 〝わかりづらっ〟

 〝配信設定の一番下にあるぅ…〟

 〝どこの注意書きだよ。もうちょい主張しろよ〟

 〝あの注意書きの役目を果たしてない注意書きな…〟

 〝ならありかな〟

 〝今度の会議で話してみよ〟

 〝よろしくー〟

 〝頼んだ!〟

 

 はっ。あかん、意識飛びかけた。

 これはええな。こんまま野菜ぶっ込んで飲みたい…いやいやいや、まだ濾さんとや。

 …ちゃう。ラーメンに使うんや。飲み干したらあかん。






※マック:元Sランク探索者のラーメン屋志望。ラーメン食べたさに探索者を辞め、日本コロニーのラーメン屋に修行に出た。暖簾分けの許可はもらったが、まだアラスタのどこに出店するかは未定。烏のように自作はしていたが、麺・かえし・出汁・トッピングの組み合わせが苦手だった。なお、修行により苦手は克服している。

※マックのように食の道に進んだ元探索者は多く、アラスタで活動した期間が長い元探索者はたいていアラスタのどこかに店を出している。一番多いのが居酒屋。次いで焼肉屋と焼き鳥屋。怪我をして引退、というわけでもないので、モンスターの氾濫等で拠点や街が危険にさらされたときには防衛前線に立っている。

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