26. カカオ豆の発酵作業

 


 「きったくー」

 〝おかえりー〟

 〝おっかー〟

 〝元々自宅では?ボブは訝しんだ〟

 〝それはそう〟

 「せやな」


 うちの敷地内にあるけえな。ダンジョンも家っちゃ家やな。っちゅーか庭?


 〝ところでカカオ豆の発酵ってどうするの?〟

 「なんか調べたら、果肉ごと箱ん中入れて密閉して、日の当たらんとこ置いて、時々混ぜりゃあええみたいやで」

 〝箱にパルプ…果肉がついたままの豆を入れて、バナナの葉で蓋をして棚状に置いてるね。今チョコレートメーカーのカカオ発酵動画見てる〟

 〝ほへー〟

 「箱…箱なぁ……これでええか」

 〝どうして亜空間ポーチの中に木箱が入ってるんですか?〟

 〝ゲームで良く見る立方体木箱だ〟

 〝壊すと回復アイテムとかお金出てくるやつじゃん〟

 「試しに作ったやつ入れっぱやった」

 〝烏さん、一回ポーチの中身整理したら…?〟

 「うーん、そのうちやるわ」

 〝やらないやーつ〟

 〝そのうちね、そのうち〟


 いやいや、やるかもしれんで?やらんかもしれんけど。


 〝カカオの実10個分だし、そんな大きくなくていいんじゃね?〟

 〝確かに〟

 「うーん…なんかええ感じのやつ…」

 〝ないなら魔法ででっち上げちゃえ〟

 「そうするかー」

 〝日陰で作業すればいい感じかも?〟

 〝日に当たらない状況を魔法ででっち上げるよりかはそっちのがよさそうね〟

 「せやな。やってみるわ。失敗したらまた明日試そー」

 〝明日には実がなってると信じて疑わない…〟

 〝昨日収穫した実が今日には生ってたからね…〟


 日が当たらんとこ…農具置き場でええか。屋根あるし。休憩用に椅子置いとるし。

 こっからちょい歩くけど、家ん中映すんはちょっとなぁ…自宅配信するときは地下室でしよるけん、そこ行くまでも映すとなると、なぁ…一旦映さんようにするんは、なんかこう、アレやねん。ポリシーに反する的な?カメラを切る、イコール配信終わりって感じするやん?






 「…」

 「あー、ちゃうちゃう。うちはうちで別作業しに来ただけや。気にせんと雑草取りやっとって」

 「…」

 「あ、ほんま?助かるー」

 〝なんて?〟

 「搾乳バケツの中身、ゴーレムが全部殺菌処理用の容器に入れてくれたわ」

 〝それは助かる〟

 〝かしこい〟

 〝もはや情報生命体が入ったリビングドールでは?〟

 〝筋肉やらなんやらを完全に機械化してるやつだったらアンドロイドだね〟

 〝変身前の見た目は完全にパペット系だね…〟

 〝あ、二角イノシシ追い払ってる〟

 〝あいつらモンスターな見た目なのにモンスターじゃないから脳がバグる〟

 〝わかる〟


 あのイノシシなー、山に食うもんあるんに畑までやって来るんよなー。そんでゴーレムたちに喧嘩売りよる。

 単に遊びに来とるだけなんやろか?でも普通の動物やしなぁ…

 山の実りより畑の作物のほうが美味そうとか思われとったり?…そっちのがありそうやわ。


 「とっりあーえずはっこーさーぎょうー」

 〝せやな〟

 〝息をするように魔法で実を割ってるぅ〟

 〝烏さんの魔法の発動速度を見てると、慣れもあるのかなぁって思う〟

 〝それはありそう。なんたって2000年以上魔法使ってきてるし〟

 〝同時稼動中のクローンも多いしな。その分経験積んでるのもでかそう〟

 「あるやろなぁ」


 うちが20人おるわけやけえな。それぞれ別のことしよるとは言え、経験は経験やし。その積み重ねが2000年以上あったら、そりゃあラグなしで魔法使えるってもんやろなぁ。

 さてさて、割って出した豆を球体状に空中でまとめてー?そっから空気減らしてー、1時間を1分くらいにしとくか。んで48分、リアル地球時間で2日ほど待っとけば、果肉が発酵で溶けるかな?

 溶けてジュースっぽくなった果肉は回収しとくか。なんかええ感じの容器…この瓶でええか。消毒はしとったはず。


 〝一日で得られる経験値が20人分って考えると、たしかになぁと納得〟

 〝経験値バフかな?〟

 〝しかも永続〟

 〝カンスト待ったなし〟

 〝烏さんに成長限界ってあるの?〟

 「身長」

 〝草〟

 〝あっ〟

 〝ありましたね〟

 〝そういえばそうだった〟

 〝もう伸びない…〟


 伸び切ったんや。伸び切った上で150センチやねん。

 …この筋肉か?筋肉があかんのか?やけえって落とす気ぃないけど。ないけど…!






 「んー、ここらで混ぜりゃあええんかな?加速は切ってー、と」

 〝果肉溶けきってないところで空気入れて混ぜるっぽいね〟

 「空気…これでええか。ぐるんぐるんとー」

 〝お、おう…〟

 〝思ってた攪拌と違う…〟

 〝工場で見たことあるやつー〟

 〝そういやあれ、球体に穴空いてるような見た目だっけか。撹拌機〟

 〝なるほど、撹拌機イメージか〟


 お?熱気がほんのりこっち来るな。酸っぱい感じの匂いもしよる。


 〝それ、どんだけ攪拌したらいいんだろう〟

 〝撹拌回数で風味とか変わるっぽいね〟

 〝メーカーによってはここで別の果物の果肉入れたりしてるみたい〟

 「んー、回数は適当。追加の果肉や果汁の投入はなしでいくわ。回数の記録はつけるけどなー」

 〝どんくらいでどうなるってのがわかんないからねぇ〟

 〝様子見ながらのほうが妥当か〟

 「こういうときアンドロイドの目がほしくなるわ」

 〝あー、成分分析もできるし?〟

 「そうそう」

 〝見てる感じ、ムラがまだあるねぇ〟

 「菌のムラ?」

 〝うん。最初内側にあったやつと外側にあったやつでムラがあった〟

 「うーん、球体状にまとめて発酵したけえかな」

 〝かもねぇ。ここでムラ無くしとけばリカバリーききそうだけど〟

 〝なるほど、アンドロイド視聴者兄貴姉貴にそこらお任せできるか〟

 〝映像が脳にダイレクトに届いてるようなもんだからねぇ。詳細に見ようと思えば見れるから、この体も悪くないよ〟

 〝情報生命体の強みだよなぁ、そこらへん〟

 〝生身はそこら辺の制限がどうしてもね…〟


 うちも映像データを脳にダイレクトにーってやれんこたぁないけど、生身やと目があってたまに頭バグるねんな。

 そういうとき、アンドロイド機体やと目のセンサーとの接続切ったりできて楽よなぁって思う。






 撹拌してから5日分ほど時間進めたけど、こっから日に当てて乾燥させてええんやろか?


 〝乾燥はどうすんの?〟

 「日向に出て広げて時間進めるかなぁ」

 〝まあそれが無難か〟

 〝乾燥しながらもひっくり返さないといけないみたいだけど〟

 「そうなんよなぁ…1日に数回それやるっぽいんよなぁ」

 〝加速のさせ方が問題?〟

 「かなぁって。まずは10分を1分にしてみて、そっから36分置き、リアルで6時間置きにひっくり返してみるわ」

 〝加速なしだと日が当たってない時間は返さないだろうし、そんくらいかね?〟

 〝まあお試しだし、それっぽくなれば成功よ〟


 せやな。お試しやし、やれるだけやってみよかー。






 んー、色が赤っぽくなって、結構乾燥しとるように見えるけど…どうなんやろ?


 「こんなもん?」

 〝かなぁ?〟

 〝見た目はそれっぽい〟

 〝地球での一週間分の乾燥処理やった結果だし、よさそうだと思うけど〟

 〝そういえば豆の大きさにムラはなかったね?〟

 「そういやそうやな。ひっくり返すついでに糸くずみたいなゴミは取ったけど」

 〝大きさにムラがないのはいいね〟

 〝無駄がないのはいいことだ〟


 香りは酸っぱ甘い感じやし、よさそう、かなぁ?

 とりあえずこれでチョコ作ってみよか。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る