15. 疲労困憊…

 


 変異が完了したんか、脚が4本生えた。頭がまんま変異種のアイスワームやけえ、違和感すごいな?


 「羽生えねえのかよ…」

 「ほしかったん?」

 「新しいマントほしいんだよ。なんかかっけーやつ」

 「せやったら氷龍のより暗黒プテラノドンのがええんちゃう?頑丈やし、素でええ感じの模様入っとるし」

 「模様はいらねえんだよなー。色は単色で、見た目がなんかかっけーやつがほしい」

 〝黒ならワイバーンの変異種とか?〟

 「やっぱそこらへん狙ったほうがいいか…羽生えてねえドラゴンのほうが多いってなんだよ…」

 「魔法で飛べてまうけえなぁ」

 〝ぶっちゃけ翼生えてるやつも、翼使って飛んでなくね?〟

 〝言われてみれば確かに〟

 〝あの図体であの大きさの翼って…ってのはいるなぁ〟

 〝魔法がいろいろ解決しちゃうから、モンスターも翼なくてもいいや、になってんのかな〟

 「かっけーのにもったいねーなぁ」

 「それよっか見つかったでー」

 〝緊張感どこ?ここ?〟

 〝緊張感なら、今俺の隣でポテチ食ってるよ〟

 〝今更だ〟

 〝2人ともExランクだしなぁ〟

 〝うお?!突っ込んできた?!〟


 うーん、思ったより早よ動くな?突撃ブルより遅いけど。

 アイスワームの変異種っちゅーたら動き遅いもんやけど、それを克服した感じかぁ。

 角があっつあつなんは変わらず。纏う冷気は強化種より強い。硬さもたぶん、通常種より硬いんやろな。

 まあでも、それだけなら問題ないなぁ!


 「結界パリィ!」

 〝マジかぁ?!〟

 〝ガィインって音すんだな、結界パリィ…〟

 〝そんな使い方があったあ!〟

 〝かんっぜんに頭から抜けてた!それなら短い時間しか展開できない結界も使い物になる!〟

 〝いや、でも、パリィって難易度高いぞ?〟

 〝その前に魔力もつ?〟

 〝変異種ミノよりはやりやすそう?今度通常種アイスワームで試してみっか〟

 〝数少ないパリィニキがここにいるとは〟

 「っしゃあ!っぱかってえ!刺すしかねえならいっそ持ち替えちまうか!」

 「叩き斬りでもヒビなしやったら…こいつで1発Burning!」

 「キュィイイ!!!?」


 お、さすがに高温には弱いんか。あと打撃。甲殻溶けて抉れたわ。


 〝赤く燃える腕!これぞ古き良きロマン!〟

 〝ぶん殴った瞬間見えなかったんですが?〟

 〝1発とか嘘でしょ。10発くらい入ってたじゃん〟

 「よぉ見えたな」

 〝見えてた人いたぁ〟

 〝5発までは見えた〟


 まあ、1発で済ますとはうてへんしー?10発でもまとめりゃ1発と変わらん変わらん。


 「ちっ、溶けてもまた再生するか」

 「嫌がりはするけど、決定打にするにゃあちと工夫せんとかなぁ」

 「だなぁ…とりあえず槍で突くわ。逆鱗か目狙いで」

 「よろー。うちはひたすら殴るわ」

 〝剣聖が槍使うってレアだな?〟

 〝あと烏さんのハンマーもレア〟

 〝形状がえぐい…〟

 〝うぉおおお!燃えるハンマーだ!〟

 〝ウォーハンマーってやつかな?あれより頭がすごいでかいけど〟

 〝うっそ属性武器?!〟

 〝錬金術製か!〟

 〝マジかよ錬金術やべえな!〟


 あんま使いとぉないんよな、これ。翌日肩こりしやすいねん。身体強化しとるっちゅーても、さすがに5トンは負荷がやばいわ。

 おっちゃんの槍も実は属性武器なんやけど、刺さんとバチィせんけえな。ぱっと見やとわからんか。


 「キュゥウウ…」

 「鳴き声は氷龍だな」

 「見た目は成り損ないやけど」

 「成り損ないなら、これも効くかもしれねえなぁあ?!」


 おー、顎下の逆鱗狙い。逃げられたけど掠ったな。

 でもそれだけやと、相手の消耗ほぼないなぁ。挑発しただけみたいになっとる。


 「キュァアーーーー!!!」

 「うるっせえ!」

 「めっちゃおっちゃん見とるやーん。うちのことも見てやー?」

 「ギュゥゥウウアアア!!!!??」

 〝うっわ、すげえ音したぞ今〟

 〝アイスワームが出てくる時の轟音がかわいく思える轟音〟

 〝剣聖の槍も雷属性槍かよ?!〟

 〝クレーンぶっ倒れたときみたいな音したな〟

 〝おお、体溶けてるけどなかなか再生しない〟

 〝炎の色、青色だしな…〟

 〝そりゃもうアチチよ〟

 「俺も打撃武器持つかなぁ、っとぉ!」

 「ギュ?!」

 「ちっ、瞼あんのかよこいつ」

 「一応蛇にも瞼あるけど、ありゃあ膜状やったか。鱗塗れの瞼やと、早々貫けそうにないなぁ」


 目ぇ狙った突きを防ぐためか、瞼閉じよるとはなぁ。ドラゴン系でもあるやつないやつおるけど、アイスワームは蛇ベースやけん瞼はなかったはず。頭変わってへんと思っとったけど、瞼は増えとったんやな。

 にしても、反応速度がアイスワームの変異種とはちゃう。移動速度、反応速度どっちも別もんやし、もう完全に別のモンスターと見てええな。

 やけえって氷龍になっとるかっちゅーたらまた別やけど。翼はないし、尾が二股やないし。


 「ほーい」

 「グ、ギュゥウ…」

 「歯ぁ食いしばって耐えてて偉いなぁ!」

 「ギュア?!」

 〝刺さんねーなぁ〟

 〝瞼閉じるの早すぎぃ!〟

 〝リンチかな?〟

 〝それ思った〟

 〝セリフが不良のそれなんよ〟

 〝受け身だなぁ、こいつ〟

 〝防戦一方にならざるを得んだろ、2人の攻撃速度的に〟

 〝一点集中突きでヒビは入ってるけど、修復し始めてんな〟

 〝見た目通り火と打撃が効果的っぽい?〟

 〝弱点は通常種アイスワームと一緒か〟

 〝でも再生速度やべえな?〟

 〝頭ぶん殴ったら軽い脳震盪起こしてるっぽいか〟

 〝復帰早いけどなー〟


 ほんま、エレメンタルドラゴン系はタフでめんどくさいわー。うち、よう火龍の頭斬り落とせたな?もしかしたらあいつ、濡れたら鱗柔ぁなるとかあるんやろか。


 「そぉーれ!」

 「ギュ?!」

 「見た目通り抉れんだな、それ…」

 「氷の鱗や甲殻が溶けてまえば、柔らかぷにぷにでよぉ抉れたわー」

 〝耳ないなった〟

 〝正確には耳たぶじゃね?〟

 〝耳たぶだな〟

 「そらよぉ!」

 「アガァア?!」

 〝うっわぁ…口ん中に電撃モロ…〟

 〝これでも死なないってタフだな?!〟

 〝属性ドラゴンはみんなタフ〟

 〝タフという言葉はもはやエレメンタルドラゴンのものである…〟


 うーむ、電撃やと動きが多少鈍るくらいやなぁ。


 「火属性武器ほしくなるな」

 「山火事、ダメ。絶対」

 「も、もうやらねえよ?!」

 「ほんまぁ?」

 〝そういややらかしてたな〟

 〝台風の目がまたなんかしたかと思ったらまさかの剣聖だった件〟

 〝10年前の山火事な〟

 〝ダンジョン2、3箇所まとめて潰れたやつじゃん〟

 〝嫌な、事件だったね…〟


 おう、目ぇ逸らすなや。


 「ギュ?!ゥ?!ガ?!ァガ!!」

 〝超次元餅つきかな?〟

 〝よく見たら2人とも浮いてて草〟

 〝頭高えからしゃーねえ〟

 〝ハンマーの曲がった棘みたいなとこと槍の柄でぶん殴ってるからか、ちょいちょい凹んだり抉れたりしてんだよなぁ〟

 〝よく空中で姿勢制御できるなぁ…魔法でも難しいじゃん、あれ〟

 〝浮くだけだと踏ん張れないよな〟

 「ガ、ゥ、ゥァ…」

 「あ、終わった」

 「頭に計10発か。氷龍よりマシだな?」

 「そこらへん含めて成り損ないやったな、これ」


 脳震盪で終わったかぁ。氷龍やったらあと20発くらいは耐えるんやけど。

 しゅるっとちーちゃんが口ん中から侵入。今んとこダンジョン内に異常はない、かな?

 通話めんどくさいし、メールでギルドに連絡入れとこ。どうせ配信見とるやろうし。


 〝おつおつー〟

 〝おつかれー〟

 〝所長から連絡あって実験中断して見にきたんすけど…もう終わったみたいっすね〟

 〝おー、竜胆もおつかれ。また後で実験するんだろうけど〟

 〝その予定っす〟

 「お、竜胆。ちょうどええわ。魔素観測よろしゅうなー」

 〝…あっはい。察したっす。逃げられるなら逃げてくださいね?ナイフさんも!〟

 「善処する」

 〝ナイフさん逃げるのめんどくさがりすぎっすよ…〟

 〝キリッとした顔で言うセリフじゃねえんだよなぁ…〟

 「おー、ちーちゃん早飲みー」

 「しっかり味わってんのか?おめぇ」


 おっちゃんに丸作って回答するちーちゃん、ほんま賢いなぁ。状況把握してさくっと血抜き済ませてくれたし。

 …お?空間歪みはじめたわ。


 〝その部屋全体の魔素量が上昇してるっすね〟

 「減るんやなくて増えるん?」

 「まさかだったな」

 〝うわ、所々空間歪んでら〟

 〝片付けいそげー〟

 「おう、終わったぞ」

 「解体は出られたらやなぁ。いや、解剖に回さんとか」

 「なあ、緊急脱出用に使い捨てポータル造らねえ?」

 「一考するわ」

 〝そっちにも手をつけたいんすけど、結界発生装置優先っすねー。うわ、画面越しの測定だからかブレ…いや、これやばいっす〟

 「うっははは、頭ん中クラクラすんなー」

 「魔素酔いしかけやん。そろそろ走るでー」

 「おう!」


 うん。魔素増えよるな。感覚でわかる。






 自分の存在がブレる。増えたり、減ったり、変わったり。同時稼動しとる他のクローンのおかげで保っとるけど、呑まれたら最後。存在そのものが曖昧になる。

 そんな、情報の洪水。


 イデアが、すぐそこにある。






 〝お?カメラ抱えた?〟

 〝自動追尾の速度にも限界あるからじゃね?〟

 〝なるほど〟

 「位置についてー?」

 「よーい、どーんってかぁ?」

 〝はやっ〟

 〝リニアかな?〟

 〝階段の場所覚えてる?大丈夫?〟

 「もーまんたーい」

 「覚えてねえから烏についてくぜ!」

 〝安定の剣聖だった〟

 〝方向音痴剣聖…?〟

 〝方向音痴なんじゃなくて、マッピングがめんどくさいからしないだけだよ〟

 〝わかる〟

 〝フィールドタイプのダンジョンでマッピングなんてやってられっか〟

 〝それ〟

 〝ループしてて端がないんだよな〟

 〝最深部の中央らしき場所から魔素が増えてって、収束しはじめたっぽいっす。メーターブレブレだけど減少寄り〟

 「出入口方向は?」

 〝変化なしっす〟

 「44階!こっからなげえや!」

 「雪解かして来といてよかったなぁ」

 「おう、烏さまさまだぜ」

 〝吹雪いてなかったのもよかったね〟

 〝解かした雪がまた積もってたら、ね…〟

 「解かし損やったな」


 運が味方してくれとるなぁ。


 〝下層方面、最初の測定値から半分っす〟

 「急いだほうがいいか」

 「ダッシュダッシュー」

 〝がんばれー〟






 「だっしゅーつ!」

 「っしゃおらあ!」

 「おおおお!出て来たぁ!」

 「間に合ったなぁ!」

 「お疲れ様です」


 やっと脱出ー。いやぁ、よぉ走ったわぁ。

 出たら中央に常駐しとる三きょうだいがおった。そういやあんたらも配信見とるっちゅーとったか。

 計測機器持っとるっちゅーことは、依頼で来たんか。飛行ユニットあるし、軍から借りてきたんやろか。…よぉ借りれたな?手続きめんどくさいやろ、あれ。


 〝おつー!〟

 〝おつかれちゃーん〟

 〝やったぜ〟

 〝おめおめー〟

 〝お疲れ様っす。また魔素膨れ上がってるんで、もしかしたら…〟

 「バーリアー。砂煙もぺぺっとぺー」


 おん。予想はしとったで。

 採掘んときに発破やらかして洞窟崩落させたみたいな轟音やったけど。聴覚保護は最初からやっとるけん問題なーし。


 「お、おお…」

 「内側から爆発したみたいな崩落…」

 「入口だった横穴、完全に塞っちまったな」

 「こっちでも魔素濃度検知してましたけど…崩落の一瞬前しか、爆発的な魔素上昇は確認できませんでした…」

 〝装置の精度と測定範囲の問題だと思うっす。もうちょいいいやつにしたほうがいいっすよ〟

 「なるほど。予算案通り次第、高精度広範囲なのを購入しましょう」

 〝結界便利だなぁ〟

 〝よく結界と風っていう別の魔法同時展開できるなぁ〟

 〝なんで魔素溢れてダンジョン崩壊すんだ?〟

 〝入口の魔素乱れで崩壊すんのはなんとなくわかるけど…破裂したようなもんなのかな〟

 〝破裂は有力説っすね。ダンジョンには許容魔素量があって、それを超えた結果崩壊するっていう。ただ、魔素がどこから来てるのかはわかってないっす〟

 〝風船に空気入れすぎてパァンするやつか〟

 「破裂した後は魔素が減っとるな?」

 「お?そういやそうだな」

 「……崩壊前の数値より低いですね。3分の2ほど減少しています」

 「コアの破壊でも似たような結果出てなかったか?」

 〝あったっすね。ダンジョン入口の魔素乱れによる崩壊ではそんな結果なかったはずっすよ〟

 「とりあえずギルドに帰ろうぜ。さくっと取れるデータ取っちまいな」

 「せやな。さすがに疲れたわ…ひっさしぶりに全力疾走したんちゃうか?」

 「俺はその前に全力疾走してっから余計疲れた」

 「2人とも疲れたようには見えねえんですが?」

 「息切れしてないし」

 「そりゃあおめえ、鍛え方と体のつくりの違いよ」

 「なるほど?」


 鍛え方はともかく、体のつくりはどうにもならんなぁ…おっちゃん、そもそもいろいろドーピング受けとるし。

 ぶっちゃけ精神的疲労のほうが強いわ。眠い…






※暗黒プテラノドン(英語圏ではBlack Pteranodon):艶消しブラックなプテラノドン。鳴き声はかわいいし、火も毒も吐かないし、獲物は奪っていかないし、噛みつきか連れ去りしかしない癒しモンスター。翼膜に蔦模様が入っており、頑丈なのもあってマントの素材として人気がある。もも肉が可食部位。鶏よりパサつきがちだが、旨味は濃いのでハムやチャーシューによく加工される。討伐推奨ランクはA。

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