14. 再来なるか?

 


 「やべえな、これ」

 「アイスワームの通常種、強化種、変異種と揃い踏みやなぁ」

 「ボスもアイスワームの変異種になってっかもな」

 「やろなぁ」


 No.0052雪山中腹ダンジョンは全45階層の比較的浅いとこや。その40階まで、アイスワームしかおらんかった。しかも強化種だけならまだしも変異種も込み!

 どいつもこいつも魔石がごろごろ出てきて、暴落とまではいかんでも価格下げられそうなくらいや。こんだけありゃあ助かるやつ多いんちゃうかな。


 〝もしかして、ここも溢れる手前だったり?〟

 「1週間以内には溢れてたかもしんねえな」

 「もしくは崩壊前やな」

 「あー…」

 〝イレギュラーモンスターまみれだし、崩壊ルートの可能性もあるのか〟

 「中央が他より人少ないんがでかいんかなぁ。人手割けれりゃ前兆くらいわかったやろに…イレギュラーとか2、3日で増えるもんちゃうやろ…」

 「中央ってつくわりにゃ田舎だしな」

 〝東部のが栄えてるねぇ〟

 〝西部は開発中。南部は都会〟

 〝北部は田舎〟

 〝なんで東部栄えてんだろーな〟

 〝ダンジョンじゃね?〟

 〝環境かなぁ〟

 〝環境はありそう。寒すぎず暑すぎず〟

 〝あー、確かに。住み心地いいもんな〟

 〝ただ探索できてないダンジョンの数が多い〟

 〝それな〟


 拠点つくりはじめたとこやから中央うとるだけやねん…まさかそっから東行ったとこのほうがダンジョン多くて、そっちに人流れてくとは誰も思わんかってん…


 「とりあえず45階まで行くのは確定。ボス狩ったら連絡でいいか」

 「せやな。ボス狩って崩壊するか残るかは…まあ、そんとき次第や」

 〝崩壊したらどうすんの?〟

 〝脱出間に合う?〟

 「うちらどっちもクローンやけんなぁ」

 「代わりはすぐ手配できっからなぁ」

 〝それでも逃げるだけ逃げてくれな…このカメラボール高いだろうし〟

 「あー……お嬢がくれたやつやけん、高いやろうなぁ…」

 「崩壊に巻き込まれて消えるのは惜しいっつか、後を考えるとこええな…」

 「「ダンジョン内部で!崩壊に!遭遇だなんて!素っ晴らしぃい機会っ!しっかり生き残って記録を残しなさいな!!」って言われそう」

 「んで崩壊に呑まれたらお嬢を痛めつける罰を与えられるんだろ…想像できるぜ…」

 「お嬢だけが喜ぶアレな…」

 〝声似すぎて本人かと思った〟

 〝あんな声なのか、女帝。思ってたより高くなかった〟

 〝仕事モードはもっとお淑やか〟

 〝素は常に演技がかってる感じ〟

 〝素なのに?〟

 「素やのにどこぞの男装女優さながらやで」

 「んで研究者並みに頭ぶっ飛んでる」

 〝サドでマゾだぞ?ぶっ飛んでないわけがない〟

 〝あー…〟

 〝つまり、研究者はサドかマゾ…?〟

 〝風評被害だなぁ〟

 〝風評被害かなぁ?〟


 風評被害やろか?うちが知っとる研究者、何万人とおるけど、みんな頭ぶっ飛んどるで?






 「はい」

 〝はいじゃないが〟


 まさかのまさかやで。45階層丸っとボス部屋にリフォームされとる。

 吹雪で視界悪いんに、瞬間的に晴れたときに見えてもうとるんよ、アレが。


 「いやー、フィールド丸っとボス部屋になっちまってらぁ」

 「おるなぁ、変異種ワームのさらに変異しかけとるやつ」

 「ぱっと見羽生えてねえ氷龍だな…いやマジで。さっきまで相手してた変異種と違いすぎねえ?」

 「頭はまんま。胴体が変わっていきよるなー。鱗やのうて甲殻みたいになりよる」


 その甲殻の見た目が氷龍のまんまなんよなぁ…蛇の鱗から竜の甲殻になるとか、まあ普通にはありえへん事態やけど…


 「…おう、烏。前にもこんなことあったな」

 「あったなぁ、天竜事件」

 〝天竜事件?〟

 〝あ、51世紀にあったやつ?〟

 〝あー!ダンジョンは神と見紛うモンスターが産まれるための卵であるとかいう説が一時期流行ったやつ!〟

 〝崩壊直後のダンジョンの元入口から、いるはずのないドラゴン系モンスターが出た事件だっけ?〟

 〝あれ、確か崩壊に巻き込まれて死んだ奴が、記憶を外部ストレージにアップロードしたおかげで、なんでこうなったかわかったやつだったか〟

 「あれは英断やったなぁ」

 「あんときの体は死んだが、中身は元気にやってるぜ」

 「竜胆っちゅーんやけどな?」


 いやー、あんときはちょい焦ったなぁ。

 「どうしたらいいっすか?!」って連絡来たときは、頭ん中「?」でいっぱいになったわ。何事ってなるやん?

 話聞いたらヤバめな状況やったし、「とりあえず今持っとる情報ログ、全部本部のストレージに投げてまえー」って言うたんよな、たしか。ダンジョン内でも量子ネットワークにアクセスできんかったら無理やったわ、あれ。


 〝あいつかー!〟

 〝え、いや、マジ?〟

 〝嘘やん?!〟

 〝マジなんだよ、これが〟

 〝いや、そうか。竜胆もデザインベビープログラム製か。ならそれくらいできるか…〟

 〝一部の補助脳が軍の個人外部ストレージに繋がってるからこそできたことだよなぁ〟

 「あの件で、他のモデルもその仕様になったんよな」

 「俺らもメンテで切り替えられたなぁ…クローン全部一斉に。アレはしんどかった…」

 「なんもできへんからな…思考すらひたすらおんなじ考えがループするよう制限されるし」

 「動けねえ寝れねえ考えられねえで暇すぎたな。もうアレはやりたくねえ」

 「ほんまそれ」


 うちら旧型やからな。新型のええとこ流用しようってなって、メンテん時に何かしら切り替えられるんよな…

 補助脳もそうやし、個人識別チップもそう。体ん中の機械的なアレは全部対象や…うちはまだ少ないけんええけど、おっちゃんは脊髄丸っとアンドロイドのとかやけえな。うちより余計時間かかっとったわ。


 〝人造人間も大変なんだな…〟

 〝アンドロイドも大変なんですよ〟

 〝メンテがね、長いんだよね…〟

 〝金もかかるしな〟

 〝稼ぎのほとんどがメンテ費になってる。一応補助は出るから3割負担〟

 〝保険入ってたらそんくらいよね〟

 〝サイボーグもどっこい〟

 〝生身の部分がある分、精神的負担はアンドロイドより上〟

 「うちらもある種のサイボーグみたいなもんやしなぁ…メンテ費かかるんはしゃーなしやけど、それよっかメンテ時間や。ほんっま長いねん」

 〝あれで1日潰れるよな〟

 〝生身でよかった…〟

 〝生身も生身の苦労はあるけど、金はかからないな〟

 〝それな〟

 〝義手義足もメンテに金かかるよなぁ…ロマンで着けたけど、生身に切り替えたくなる〟

 〝それもそれで金かかるだろ…〟

 〝クローン、安くないからな…〟

 〝長期的に見れば安いよ〟

 〝言われてみれば〟

 「メンテは定期的にやっからな。そら長い目で見りゃあ金かかるのはそっちだろ」

 〝切り替えるかなぁ〟

 〝俺はこの左腕と一生を付き合うぜ!〟

 「疾風、その腕気に入りすぎてへん?」

 〝かっけーじゃん?〟

 〝わかる〟

 「昔自分で設計したやつじゃなかったか?それ」

 〝そう!だからめっちゃ気に入ってる〟

 〝なるほど、思い入れがあるなら続けるのもありかぁ〟

 〝金を取るか、ロマンを取るか〟

 〝ところで変異進んでません?〟

 〝あと魔素増えてない?〟

 「増えとるなぁ」

 「観察ログ投げてっか?」

 「投げとる投げとる」


 いやー、ほんま量子ネットワークさまさまやでぇ。計測機器類ないけど、感知魔法での結果は得られとるけん、それと変異の様子込みでストレージにぶん投げとる。でももうちょいデータの足しはほしいよなぁ。目に計測器のちっちゃいやつ組み込む…んはやめとこ。メンテの時間伸びるやつや。






※天竜事件:51世紀半ばに、ある惑星のダンジョンで発生した、ダンジョン崩壊に伴って天竜が出現した事件。最深部にいた何かしらのモンスターが変異を繰り返した結果、天竜となったようだ。討伐自体は1時間足らずで終わったが、ダンジョンの危険性を改めて探索者全員が認識した。定期的な見回りが強化されたのもこれ以降。なぜ事件と言われているか…その理由は、天竜との戦闘で、そこを中心とした半径10kmの範囲が更地にされたから。しかもやったのが天竜討伐をした探索者。天竜の被害を拡大させたわけではなく、単にその探索者のひどい暴れっぷりで、広範囲が更地になった。本人は「うっかりやっちまったぜ」とてへぺろしており、反省も後悔もしていない。

※天竜(英語圏ではWhether Master Dragon):光の加減で色を変える鱗を持つ、よくある西洋の竜。エレメンタルドラゴン系の全属性持ちドラゴンで、天候操作を行う。ブレスも多種多様で、天竜事件で出現した個体を狩ったExランク探索者が「ただひたすらにウザくてめんどくせえやつ」と言うほど。高純度の魔石を持っていることが多い。討伐推奨ランクはEx。

※アイスワームの強化種(英語圏ではFrozen Worm):近寄るだけで全身が凍りつくほどの冷気を纏うようになったアイスワーム。通常種とは逆に鱗が脆くなっているので、近寄れるなら殴るだけで終わる。人によって評価が変わる不思議なモンスター。魔石の質は上がっているので、通常種より狙われているかもしれない哀れな強化種。一応討伐推奨ランクはS。

※アイスワームの変異種:翼もないのに飛ぶようになった、角が2本に増えたアイスワーム。強化種の冷気、通常種の頑丈さを併せ持つ。冷凍ビームを吐くので、○○モンかよ!と言われるやつ。飛ぶのに一生懸命なのか移動速度は遅いので、魔法で集中砲火すると通常種よりも楽。一応討伐推奨ランクはS。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る