10. テストは1回じゃ終わらないもの



 待ちに待ってできたローストミノ食いよったら、ピットフォールラットはいつの間にかどっか行った。なんやったんやろ、あいつ。

 まあええわ。腹ごなしに結界発生装置のテストでわかったことまとめたりせんとな。


 「反射上限の有無も含めて、仕様を変えたパターンも試したいし、それとは別にこの仕様のまま他のテントでも試したいっすねぇ。先輩から提供されたテントの魔力消費量の統計も取りたいんで、1人用以外は借りていいっすか?」

 「ええでー。持ってき持ってき。他にもミスリル使ったテントとかもあるけん、後で渡そうか?」

 「お、いい材料っすね。ありがたく借りまーす」

 〝ミスリル使ったテントってなに…?〟

 「お嬢が原案出した試作品やで。ひらかんくても魔法でポンって展開できる、たとむんも魔法で一発なテント。改良に改良を重ねたやつが今売られとるなぁ」

 「魔道具テント…どんな影響が出るか楽しみっす」

 〝ワンタッチテントより楽に展開できるのか。いいな〟

 〝魔道具にしたテントじゃなくても、ミスリル使ったテントなら魔力消費量減りそう?〟

 「可能性はあるっすね。少なくとも、今もよくテントに使われてるアルミニウム合金と鉄よりは、魔力伝導効率は上なはずなんで。問題は純ミスリルだと強度の問題があるんで、ミスリル合金にしないといけないことっすねぇ」

 「ミスリルは電気にとっての銅みたいなもんやな」

 〝なるほど。ミスリルなら抵抗ほぼないから、魔力の巡りがよくなって、無駄な消費が抑えられるかもしれないと〟

 〝電流と違って、抵抗で熱にエネルギーが変わるわけじゃないんだっけ〟

 「魔力と電流はまるっきり違うっすからねぇ…魔力伝導効率がいいってのは、例えるなら交通量が多くて渋滞はするけど、事故が少ない道路っす。逆に魔力伝導効率が悪いのは、渋滞に苛立って無理な車線変更で接触事故したり、前見てなくて玉突き事故したりってのが出てきて余計に後続の車に迷惑かけるような乗り手が多い道路っす」

 「渋滞一歩手前で無理な追い越しするやつ、おるなぁ…」

 「結果、事故って渋滞誘発。そして警察のお世話に…」

 〝あれ、そういう話だったっけ〟

 〝あー、なんとなくイメージできたわ。渋滞してもするする車が進んでる道路が魔力伝導効率のいいやつで、事故って渋滞してなかなか先に進めない道路が魔力伝導効率の悪いやつか〟

 「そんな感じっす」

 〝チューブカーが主流になってないところはまだそういうのあるよねぇ…最低でも完全自動運転にできればいいんだけど…〟

 〝完全自動運転でも通信障害で事故ったりするからなぁ…テロの標的にもしやすいし…〟


 チューブカーなぁ…あれ道路敷設とその後のコストがクッソ高いねんなぁ…足元だけ整備すりゃあええっちゅーもんやないし、点検箇所も増えるし…所によっちゃ架線にするし…

 あれって普通の道路の上にチューブおっ被せとるようなもんやからな。チューブ分のコストがかかるんはしゃーないんや…なんかええ工法でもありゃあ、コストが減るかもしれんけど…魔法を使ったやり方は民間に真似できんのが惜しいわ…


 〝あれ、俺らが普通に魔法使う時って、そこらへん気にしないけど大丈夫なん?〟

 「肉体強化系じゃなかったら大丈夫っす。大気中の魔素への干渉に抵抗も何もないっすから」

 「肉体強化系は得意不得意出るやろ。あれは肉体自体に魔力抵抗の個人差があるけえや。肉体に魔力抵抗があるやつは肉体強化系が苦手やし、逆に抵抗ないやつは得意になる」

 「サイボーグ化した人とか、アンドロイド機体を使ってる情報生命体の人がそうっすね。体を構成している素材上仕方ないんすけど…強化なんて使わなくても強いんすけど、頑丈さを上げたい時には苦労してるらしいっす」

 〝あれ、そういう人達ってそもそも魔法が苦手じゃね?〟

 「苦手と言うか、魔法を使わなくても強いからあんまり使わない、っすかねぇ。温存できるに越したことはないし」

 〝なるほど。魔力使いすぎると動けなくなるもんな〟

 〝魔力も不思議なもんだよなぁ…魂に紐付く、魔素へと干渉し、発生しえない現象を発生させるエネルギーとか言われてるけど…〟

 〝想像を形にするってロマンあるけどさ、魔力が少ないとそれすらできなかったりするのが…〟

 「ゲームみたいにレベルアップやスキルポイント振りで増やせるもんでもないし、使えば使うだけ増える物でもないし、謎エネルギーなんよなぁ…」


 元々、地球人の誰もが魔力は持っとったみたいなんよな。ただ、魔法の素である魔素が太陽系に少なかっただけで…

 超能力者とか霊能力者は、少ない魔素でも魔法が使えたってだけらしい。まあその代償なんか、寿命がそんなに長くなかったらしいけど。


 「一時期、魔力を増やす実験、とか言って臨死体験してる連中がいましたねぇ」

 「おったなぁ。結局増えんかったけど」

 「死を経験すれば増える、とか言う人もいたっすけど、度重なる死の経験で発狂死しましたねぇ」

 「おったなぁ。結局増えんかったけど。クローンが無駄になっただけやったわ」

 〝死んで生まれ変われたらワンチャンある?〟

 〝ガチャと一緒だからやめとけ〟

 〝ガチャは悪い文化〟

 〝親と子と一緒で魔力量も選べないんだよ…〟

 〝おう、愚痴なら聞いてやるぞ〟


 なんか今闇抱えとるやつおったな…






 おはころ牛肉ダンジョンから出てアラスタ中央ギルドに行ったら、結界発生装置のテスターが増えとった。なんやねん150人って。ダンジョン出る前の集計は30人やったやん。どこで5倍に増えたん?

 いや、まあ、それだけ装置の完成が望まれとるってことなんかもしれんけど…あんたら実は暇なんか…?






※闇抱えてる人は金くれ無職毒親持ち、かつ義両親から「女の子ほしいな」攻撃くらった三男一女の子持ちママン。両親、義両親とは縁切り済み。旦那も子どもも探索者でパーティを組んでいる。探索者なら渡航費が安いので、いろんな惑星に逃げられてヨシ!

※ミスリル:別名、魔法銀。いろんなダンジョンから取れるため、特に珍しい鉱物ではない。魔力伝導効率がいい=魔素へ干渉しやすいため、魔道具によく使用される。魔力伝導効率がいい以外は普通の銀と変わらないため、魔道具化したアクセサリーに加工されることも。

※魔道具テント:現在売られている商品名は「ぱっとテント」。見た目は普通のワンタッチテントと変わらず、畳まれた状態から魔力をほんの少し込めるだけで、一瞬でテントが展開される。収納時も魔力を込めるだけ。付属品に「ぱっとタープ」もある。

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