b-1/4. 視聴者曰く、神回


※全部会話文。

 本編から2年ほど前の配信。



 「なんか後輩から、血抜き用スライムの需要めっちゃあるけん創り方配信してって言われた」

 〝わこつ。だから今日配信するってギルドで言ってたんだ。宣伝珍しいって中央のみんなで話してたわ〟

 〝わこつー。アラスタ限定配信なのが惜しい内容になりそう〟

 〝わこつ。ドックスがアーカイブ永久保存で助かるわぁ。あとで外に出てる同僚にも教えるよー〟

 〝わこつ〟

 〝わこつー〟

 〝わこつー〟

 〝わこっちういすきー〟

 〝なんだそれ〟

 〝なんかいたぞ〟

 「あ、ホワイトオークトレント樽20年の原酒がええ感じやからあとでギルドに持ってくわ」

 〝やったぜ〟

 〝ん?ああ、ウイスキーの話か…〟

 〝シングルバレルの20年か…楽しみだ〟

 「ぶっちゃけ錬金術の講座みたいになると思うんやけど、ほんま需要ある?これ」

 〝ある〟

 〝ある〟

 〝なんでないと思うのか〟

 〝血抜きの手間を忘れたのか〟

 〝血抜き中の獲物を何度掻っ攫われたか…〟

 〝わかる〟

 〝もう10連敗してるよ…まだ記録更新するかもしれねえ…〟

 〝どんまい〟

 〝わこつ。血抜き中の獲物ならさっきワイバーンに持ってかれましたねぇちくしょう〟

 〝うわぁ…〟

 〝ワイバーンはすぐ人の獲物を奪っていく…〟

 〝根絶やしにせねばなるまいて〟

 「ワイバーンのもも肉の唐揚げ食いたくなったわ」

 〝うまいよね〟

 〝塩でも醤油でもうまいやつ〟

 〝そのうまいやつを食うためにも血抜きって大事なんですよ〟

 〝血抜き前に獲物をバッグに入れたら悲惨なことになるからな…〟

 〝せっかくの美味い肉も味が悪くなるしな…食えたもんじゃねえよあんなの…〟

 「んー、まあそういうことならやるかぁ。寝てしもうたらアーカイブから観直してやー」

 〝おけ〟

 〝りょうかーい〟

 〝でもたぶん寝れない〟

 〝おう、10連敗中の恨み舐めんなよ〟

 〝血抜きの時間が5分程度で済むようになるならなんだってやるさ〟

 「獲物ぶんどられた恨みが深すぎるなぁ…まあええわ。まず、錬金術っちゅーのは何かってとこから話すな」

 〝アルストロメルディア人が教えてくれたやつ?〟

 「そう、それ。アルストロメルディア人がもたらした錬金術はな、言い換えれば道具作りに特化した魔法や」

 〝大昔の地球にあった錬金術は化学だったな〟

 〝もしかして、化学と魔法の複合的な?〟

 「化学と魔法の複合…まあ例えるならそんな感じではあるなぁ。こん中で錬金術を取り扱っとるゲーム知っとるやつおる?」

 〝ゲーム…よく知らんなぁ〟

 〝アトリエ?〟

 「そう、それ。あれっぽくもある。ただ、あれよりやれることの幅は広い」

 〝お、なんか後ろに出てきた〟

 〝壁じゃなくてモニターだった…?〟

 「錬金術でできる基本的なことは、ここにある6つや」

 〝抽出…成分抽出的な?〟

 〝合成は合金的なやつかな〟

 〝結合…合成とは違うのか?〟

 〝複製はわかる〟

 〝変形?がっちゃんこすんの?〟

 〝錬成とはなんぞや〟

 〝これだけだとよくわからんな〟

 「まず一番上の抽出。よく使うやつや。成分だけやない、要素の抽出もできてまうねん」

 〝うーん?〟

 「例えば、きん。これの要素はなんやと思う?」

 〝重い?〟

 〝やわらかい〟

 〝電極によし〟

 〝なんか伸びなかったっけ?〟

 〝薄く伸ばしたり広げたりってのはできたと思う〟

 「まあパッと思いつくだけでもそんくらいの要素はある金やけど、これらを個別に抽出できるんが錬金術や」

 〝どっこと?〟

 〝つまり、重いって要素だけを抜き出した金ができる?〟

 「いや、要素を抜いた素材は抜け殻や。金のままではおられん。さっきみんながあげた要素、そのどれもが欠けても、金として存在が維持されへんのや」

 〝あー!こないだ魔法理論の論文で見た!存在定義のやつ!〟

 「お、知っとるもんおったか。それやそれ。そんな感じ」

 〝定義する要素がなくなれば存在できなくなるって確かあった!そっか、それなら金が金でなくなるのも納得だ〟

 〝なんか怖そうな論文だな?〟

 〝魔法で1を0にしたあと、0を1に戻せないのはなぜか、みたいなやつだよ〟

 〝そんな論文あったのか。あとで探そう〟

 〝ん?時間は進められても戻せない原因わかったのか?〟

 〝戻せないことはないぞ?魔力消費が重すぎて魔力が足らないと発動しないだけで〟

 〝あ、そうなんだ〟

 「んで、それだけやといらんって思うやん?そうやない。そこで2つ目の合成や」

 〝あれ、思ってた合成と違うのか〟

 「抽出が引き算なら、合成は足し算や。金から抽出した"重い"って要素を、鉄に合成したらどうなる?」

 〝鉄がもっと重くなる〟

 〝金の重さが鉄の重さになる?〟

 〝金の重さプラスの鉄になるかな?〟

 「そう、金の重さが足された鉄になるねん。その鉄で作った武器は重たい代わりに破壊力抜群になるでぇ」

 〝おお…〟

 〝ちょっとロマン感じた〟

 「もちろん要素だけやなくて成分の抽出も可能や。その場合は素材丸っとなくなったりはせんで」

 〝ってことは製鉄が楽になる?〟

 「今も苦労しとる純度100パーセントの鉄とかできるで」

 〝100パーのシリコンも?〟

 「できる」

 〝まじかよやべえじゃん〟

 〝でもさ、それってさ、使う素材のことを理解する必要がある?〟

 「せやで。それが錬金術の難しいところでなぁ…作業自体はイメージと魔力操作が必要なくらいなんやけど、素材への理解がないと釜やら鍋やらに突っ込んだところでなんもならん」

 〝なるほど…〟

 〝つまり、化学大事〟

 「ちなみに要素は特性ともうなぁ」

 〝結合は?〟

 「3つ目の結合は、さっき成分の抽出の話したやん?そっちで使う」

 〝つまり要素の足し算は合成、成分の足し算は結合か〟

 「そういうことや。んで、合成したり結合したりしたもんの形を変えるのが、その名の通りな5つ目の変形や。4つ目の複製はまんまやからスルーな」

 〝ほえー〟

 〝形を変えるってことは、元が固体なやつを液体とか気体とかにもできるってこと?〟

 「できるで。まあ気体にしたら取り扱いクソめんどいけん、やらんことをおすすめする」

 〝見えないのに吸えちゃうからね。危ないね〟

 〝あらかじめ入れ物も入れておけば解決?〟

 「解決するけど、魔力操作が大変やでぇ…素材の後入れは頭ごっちゃにならん自信あるならええけど、そうやなかったらおすすめせん。まとめて入れた場合は入れ物だけ避けて、素材をこねこねせんとあかんけえな…それもそれでアレやけど」

 〝液体も大変そうだぁ…〟

 〝溶けて混ざりそう〟

 〝魔力操作と状態の把握ができないと難しそうだな、錬金術…〟

 「まあそこらへんは慣れや、慣れ。んで最後、みんながお望みの血抜き用スライムを創った錬成や」

 〝おお?〟

 〝錬成で生命体がつくれるのか〟

 「ぶっちゃけこの分け方、軍の頭おかしい連中が適当につけただけやで。もうちょいそれっぽいやつあると思う。アルストロメルディア人は言葉にこだわりあらへんけえ、わかるならなんでもええやんってなるやろうけど」

 〝頭おかしいは笑う〟

 〝あそこの研究者、ぶっとんでるよなぁ…〟

 〝目的のために手段を選ばない人が多すぎる〟

 〝手段すら実験のひとつ…〟






※ドックス:探索者専用動画配信サイト、DOXのこと。名前は2d10と1d6を振られて決められたと言う噂。多くの動画投稿・配信サイトのアーカイブがすべて永久保存できないのに対して、探索者限定の配信のみに特化して永久保存を可能にした。個人的なダウンロードは不可。惑星限定配信や、銀河系限定配信が可能。

※ワイバーン(英語圏ではwyvern):前脚が翼と一体化した翼竜。飛竜とも呼ばれる。尾に麻酔にも使われる神経毒を持つ。爪にも毒を持つ個体は亜種となる。鼻が敏感で、血の匂いを嗅ぎつけては血抜き中の獲物を掻っ攫う悪いやつ。色が黒いのもあって、一部では悪いデカカラスと呼ばれる。翼膜はテントやマントに使われ、革は鎧に使われる、中堅御用達素材。もも肉とむね肉、タンが可食部位。もも肉の唐揚げはしっとりぷりぷりジューシーで、大人も子どもも大好きな一品。基本単体しか出ないため、討伐推奨ランクはB。

※ホワイトオークトレント(英語圏ではWhite oak Ent):その名の通り、ホワイトオークのトレント。変異種でなくても知性を持ち、温厚な個体が多い。たまに歌う個体や、地面から出て歩き回る個体がいる。種であるどんぐりをいくつか彼らの目に見えるところに植えると、残りのどんぐりをくれる。長く生きられないと悟ると、人に自らを切り倒すよう頼む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る