09. ローストビーフ?
焼肉を存分に食べ終えて、ローストビーフならぬローストミノ作り中に雑談で時間潰し。全面に焼き目をつけて湯煎で置いとくのがなかなか待ち長いんよなぁ…
それにしても、焼肉はやっぱミノタウロスやな!ホルモンはなくてもじゅーぶん焼肉できたわぁ…肩ロース、ハラミ、ランプ、サガリ、ミスジ、カイノミ、他にもいろいろ…でも個人的好みなんはダントツでタンや!厚切りタンってだけで、ほんま贅沢しとる気ぃする…なんやろな、あの充実感と多幸感。厚切り特有の、歯が沈む瞬間の柔らかい感触と口いっぱいに広がる旨味…薄切りの軽い歯応えも堪らんかったわぁ…
「魔力どうっすか?回復した感じします?」
「あの塩なぁ…味はええけど、魔力は回復した気ぃせんなぁ。リラックス時の回復はあるけど、感覚からしてそれだけや」
「うーむ…ダメだったっすかぁ…」
「吸収効率の問題かもしれん」
「そっちも考えたほうがいいっすかねぇ、やっぱ。栄養素によっちゃ何かと組み合わせるといいってのはありますし」
「にんじんとかそうやなぁ…加熱するのに油を使うと、油に溶ける栄養素が効率よく摂れるとかなんとか」
「逆に水で煮たりとかは、水溶性の栄養が溶けて逃げちゃうから、食べるなら汁ごとって聞いたっす」
〝栄養学はちんぷんかんぷん〟
〝体が資本の探索者なら、覚えといて損はないけどな〟
〝頭の容量ぎりっぎり!〟
〝マジそれ〟
「ギルドの栄養士に感謝やで…」
〝それな。マジ感謝〟
〝互助組合って割にはいろいろ支援手厚くて助かる〟
〝さすがにダンジョンの情報とかモンスターの情報はギルドを通した情報交換になるけどな〟
〝そこらへんが互助ってことなんかね〟
〝情報は生命線だしなぁ。独占してるやつがいないことはないだろうけど…〟
「情報秘匿はやってもいいけど、探索者仲間からいい顔はされないっすね」
「企業所属の探索者は秘匿する傾向やな。まあしゃーないっちゃしゃーないんやろうけど…ぶっちゃけ秘匿したところで感が…」
「企業所属の探索者は実力不足でも、企業からやれって言われたらやらざるを得ないから、死亡率が高いって聞いたことあるっすねぇ」
〝蘇生用クローン体で復活はできるけどさぁ〟
〝死んだ瞬間の記憶は消されるけど、死んだ事実が積み重なるとトラウマになるよ…〟
〝PTSD治療、それなりにお高いんだよねぇ…みんな、保険には入っとこうな〟
〝B以下は特にな…〟
〝無駄にVRゲームの蘇生が現実になった感〟
〝わかる〟
〝傭兵兼探索者も企業に雇われるのは嫌がる〟
〝連中、探索者を金になる物を持って帰ってくる犬かなんかだと思ってるからなぁ〟
〝うわぁ…〟
〝一応、大昔の配信者に倣ってダンチューバーって呼ばれてる企業所属探索者はマシ。福利厚生が〟
〝なんか語感に違和感〟
〝ダンチュールホールのせいじゃね?魔素吐いてるブラックホールの〟
〝あー、確かに。あっち聞き慣れてるせいか〟
〝語源が謎なダンチュールホール〟
〝どっかの惑星の遺物にあった名前だっけ〟
「名前は載ってなかったと思うねんけど、どっかの遺物に『我らを救う口』とか書かれとったのは覚えとる」
「あ、それは覚えてるっす。どこの惑星でしたっけ?地球みたいに文明築いてた存在がいたってことしか覚えてないっすわ…」
〝極端に魔素量が少ない惑星だった記憶が…〟
〝魔素が減って魔法が使えなくなって文明が滅んだ惑星って、思ったより結構あるからなぁ〟
魔法が完全に使えんくなる前に
「あーあ。このダンジョンにも生えてないっすかねぇ、あの草」
「うちはそれより、いい加減草に名前つかんかなって思っとる」
〝それな〟
〝呼び方みんな適当すぎんよ…〟
〝審議中なんだろうけど、名前決まるより先に活用法のがわかりそう〟
「研究員はみんな草とか、マジックハーブとか呼んでるっす」
〝マジックハーブはなんかよろしくないな?〟
〝一時期そんな薬出た記憶〟
〝やばいほうの薬か〟
「違法、脱法ドラッグはいつの時代にも出てくるなぁ…」
「イタチごっこっすねぇ…」
〝幸い広がる前に対処されてるけど、作るのを止められないからな…〟
「こないだ、潰してもわいてくるのがどこぞの虫みたいだって、公安部隊の薬対処してる班が荒れてたっすよ…」
〝伝染病の使者かな?〟
〝汚部屋の居住者かな?〟
〝みんな頑なに名前を呼ばない茶黒のアレ〟
〝名前すら聞きたくない見たくないって人は多いだろうなぁ…〟
近くにおってええ気のするやつちゃうけえな、あの害虫。新築コロニーにもどっかから入り込んで増えよるし、繁殖せんよう絶妙に遺伝子操作したのを解き放っても増えよるし、なんなんやあれ。
〝ローストミノそろそろ?〟
「んにゃ。500グラムくらいやったし、50分は置くで。その後も湯から出して30分くらい放置」
〝100gあたり10分ってことか〟
〝湯煎でやると時間がかかるんだなぁ〟
「その分失敗が少ないけん、初心者におすすめやで。つけ置き袋の耐熱温度に気ぃつけるくらい。まあ、60度から70度くらいの湯に耐えられるやつは多いけえ、あんま気にせんでもええかもやけど」
〝なるほど〟
〝温度調整は魔法でできるから湯煎マジでおすすめ〟
〝時間かかるけど失敗少ないならやってみるかなぁ〟
「肉を常温に戻すのも魔法でできるけん楽よなぁ」
〝魔法がまだ一般的じゃない頃は部屋に放置だったとか〟
〝余計時間かかってたんだなぁ〟
〝魔法で時間進めるのはどうなん?〟
〝温度調整と合わせると魔力消費がきついので、1時間もかからないならやらないことを勧める〟
「ジャーキー作りでも使ったけど、結構持ってかれるけえな、あれ」
〝なるほど、楽をするのも楽じゃないと〟
「楽をするためにする苦労を苦労と感じない不思議…」
「連休前の仕事消化がそれやったわぁ…」
〝でも連休明けになって休みを振り返ると、苦労が報われたって気がしない…まだ休んでいいんじゃないの?ってなる〟
〝まだ休みたいって思う気持ち。わかる〟
〝働きたい時に働けるダンジョン探索者って、よく考えたら素晴らしい職業なのでは?〟
〝代わりに命の危険がご近所さんに来るわけですが〟
〝いつ死が引越しの挨拶に来るかわからん恐怖よ…〟
「あ、ピットフォールラット」
「…なんかこっち見とるな?」
6つのテントに設置した結界発生装置に魔力たっぷり込めといたし、それが気になるんやろか?
それにしてはなんか、ドン引きしとるように見えるけど…
〝ドン引きした表情に見える〟
〝なにこれ、って見てる感じ〟
〝頭と前脚しか見えないけど、通常種っぽい?〟
〝あ、ピットフォールラットって鼻がめちゃくちゃいいんじゃなかったっけ?〟
〝なるほど。焼いた肉の匂いを嗅いで、何してんだこいつらって見てんのか〟
「失敬な。飯食っとるだけや」
「言っても通じてないんじゃないっすかねぇ…」
それにしても珍しい行動するやっちゃな…てんてん魚介ダンジョンの件があるし、ないこともない行動なんかもしれんけど…
ピットフォールラット「あの生き物たち、やばい環境で食事してるの…?え、こわ…」
※ダンチュールホール:ブラックホールの一種。命名はアルストロメルディア人。これを指す言葉と尋ねられてパッと思い浮かんだらしい。実在性元素を吸い込み、非実在性元素を吐き出すため、ある惑星では魔素が減って魔法が使えなくなる未来を回避するために研究されていた。わかっていることは、実在性元素を限界まで吸い込んだ後は、恒星になること。長い年月をかけて太陽のような恒星になる可能性があると考えられており、発見次第観察対応がとられている。
※実在性元素:よく知られる元素。酸素や窒素など。三次元にあり、人間が見る以外の手段で知覚することができる、実在していると認識できるもの。
※非実在性元素:魔素や重力子など、見ることはできるが触れられない、逆に見ることはできないが触れられる、ただし物質界に確実に何かしらの影響を与えるもの。または、実在しているはずだが認識できない、あるいは実在していないものを実在しているような錯覚を起こさせるもの。三次元の外にあるとされるが、三次元ではあるが、次元が物質界と異なっているのではないかともされる。
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