08. 焼肉…ステーキ…




 「解体しゅーりょー!」

 「おつかれさまっしたー!」

 〝いや、ほんとおつかれさまだわ〟

 〝大抵1階はモンスター少ないとはいえ、よく襲撃されなかったね…〟

 〝もしかして烏さん、ポップしてたモンスター全部釣ってきてたんじゃ…?〟

 「…ないとは言えんなぁ」

 「手当たり次第釣ってきたみたいっすからね…」

 〝それをしのぎきった結界すげえって思うべきか、烏さんがトレインしたらやべえなって怖がるべきか…〟

 「害悪トレインはさすがにやらんて」


 …うん。やらん。やるなら他の人がおらんとこでするわ。


 〝ほんとでござるかぁ?〟

 「乱戦の練習するって言って、No.0072雪山洞窟ダンジョンの98階で中ボス使ってトレインしてたの知ってるんすからね」

 〝おい〟

 〝今なんか嫌なこと聞いた気がする〟

 〝烏さん、なにこれドラゴンダンジョンで何してんすか〟

 「その通称がなにこれなんやけど?」

 「これの部分はどっから出てきたんすかね?」

 〝そーゆー問題じゃなーい!〟

 〝98階って、そこまで進んだ人いたんだなぁ…〟

 〝そーゆー問題でもないんだよぉ!〟

 「あそこ100階以上あってめんどくさいねんな…まだボスんとこまで行けてへん」

 〝それ以上に進んでた?!〟

 〝100階以上とか、潜る気なくすぅ…〟

 「景色変わんなくて飽きるんすよね、あそこ」

 「それ。しかも100階まではピンキーワイバーンばっかでめんどくさいねんな。95から100までは中ボスラッシュみたいな感じやし」

 「ワイバーンとか呼ばれてるけど、実質コウモリっすよね…」

 「ダンジョンが洞窟迷宮タイプやから余計それっぽく見えるわ」

 〝初めて知ったわ…〟

 〝あそこ、Sランク以上じゃないと許可降りないんだよな〟

 〝ドラゴン系ダンジョンならだいたいそうだ〟


 ドラゴン…ドラゴン?なんやろか。あそこのモンスター、見た目がもう、トカゲやったりコウモリやったりにしか見えへんのよな…頭でわかっとっても、見た目が見た目でなんかコレジャナイ感が…


 「まあええわ。肉焼くでー!」

 〝よくないんだよなぁ〟

 〝中ボス使ってトレインって何?!〟

 「95階から100階にそれぞれ出てくる中ボスモンスターって、ピクシードレイクとファンシーワイアームやねん」

 〝あっ(察し)〟

 〝どゆこと?〟

 〝どれも見た目は可愛い系のモンスターだよな〟

 〝見た目はな。やってくることは害悪〟

 「あいつら、姿隠して獲物に匂いつけるねん。んで、その匂いにそこらのモンスターが寄ってくるんや」

 〝あまいかおりかな?〟

 〝まさにそれ〟

 「自分は戦わないで、他のモンスターに戦わせるらしいっすよ」

 〝うわぁ…〟

 〝確かにトレインできそうだな…?〟

 〝トレイン(強制)〟

 〝うわぁ…〟


 そういや疾風が拠点にしとるとこに近いダンジョンにも、Aランクから入れるドラゴン系のやつあったっけか。あそこのイレギュラーで出てくるって話聞いた覚えあるし、それで知っとったんかな。

 よし、セットオッケー。肉も切り分け済み。

 レッツ焼肉ー!


 〝いつの間にかバーベキューセット展開されてるぅ〟

 〝そりゃやっとミノ肉焼いて食えるからな…〟

 〝先週はミノタウロス出て来なかったからな…〟

 〝いいなーいいなー。俺も肉屋でなんかいい感じの肉買ってこようかなー〟

 「あー、疾風さん、解体苦手っすもんね」

 〝倒すのはできる。解体はなんか無理。臭いがたぶんアウト〟

 〝わかる。だから血抜きして冷やして運搬用バッグに入れてるだけにしてる〟

 〝解体屋から手数料取られるけど、必要経費必要経費〟

 〝解体できるやつがパーティにいるだけでありがたがられるぞぉ〟

 〝解体料もばかになんないからねぇ〟


 うーん…やっぱ肉が焼ける匂いってのは格別よなぁ…匂いだけで飯食えそう。


 「あ、お試しで作ったハーブ塩の感想よろしくっす!」

 「おん?珍しいやんけ」

 「最近、錬金術で調味料作るのに凝ってるんすよ。いやー面白いっすよねぇ。普通に作ると逃げてく成分が、錬金術だと残ったままにできて…」

 「わかる。やけん専ら素材加工は錬金術でやったりするわ」

 〝できるようになると楽しい錬金術〟

 〝アルストロメルディア人からの説明だとちんぷんかんぷんだったけど、烏さんの説明でどうにか形にはなるようになった〟

 〝あれは神回〟

 「ちなみにそれに使ったの、魔力回復する草っす」

 「…効果なくなってそうなんやけど?」

 「魔素コーティングしてみたんでワンチャンないかなーって。それも含めてお試しっす!」

 〝魔力回復する草って実際どうなん?〟

 〝こないだ先輩むしゃってたけど…〟

 「一掴みでびっみょーにしか回復せん」

 〝うーん〟

 「摂取量によって回復量が決まるのまではわかったんすけどねぇ」

 〝草全体に魔力回復効果があるわけじゃないのね〟

 「そういう成分が含まれてるってだけっすねぇ。だから抽出すればいいんじゃないかっていろいろやってるんすけど、摘んでから空気に触れすぎると、効果なくなっちゃうみたいなんすよ。そのせいでただでさえ少ない成分がより少なくなって、ぶっちゃけコスパがよくないんす…」

 「摘んで置いとくってのができんけえ、その場で錬金術で加工するか、真空パックするか、しか対策がないねんな。極上カルビ焼けたでー」

 「わーい」

 〝カルビで一番うまいって言われてる三角バラさんじゃないですか!〟

 〝特上カルビって呼ぶとこあるよな〟

 〝特上、極上ってつくのも納得のうまさ〟

 〝くっ、焼肉屋から依頼ないか探してくるか…〟

 〝おう、置いていくなんてひどいじゃないか兄弟〟

 〝抜け駆けしようたぁいい度胸だ〟

 〝東部第二ギルドで依頼あったから取っといたぞー。パーティ人数まだ未定って言って待ってもらってるから早い者勝ちな〟

 〝疾風ナイスゥ!〟

 〝東部第三にもあったよー。残り3人なのでこちらもお早めにー〟

 〝ありがてぇ、ありがてぇ〟


 まずはカルビ。なんとなく!ミノタウロスのカルビは部位が部位やから脂多いけど、さっぱりしとって食べても食べても飽きへん。柔らか食感に脂の旨味が口いっぱいに広がって、舌で美味し、歯で美味し。炭火の香ばしさと合わさった肉の風味が鼻を抜けていく。

 次はハラミにいくか、希少部位のサガリにいくか、迷うなぁ…贅沢にサーロインをステーキにするんもありか?






※ピンキーワイバーン(英語圏ではAssassin Wyvern):見た目はコウモリに似た小さなワイバーン。尾に神経毒を持つ。攻撃方法は蜂のように尾を刺すか、噛みつき。コウモリっぽく見えても超音波攻撃はやってこない。やってくるのは強化種から。ピンキーワイバーンの神経毒は他のモンスターにも効くが、ごく少量でも心臓麻痺を起こすほど強力で暗殺にも用いられるため、取引規制対象となっている。翼は唐揚げにして食べられるが、それ以外は食べられない。ピンキーワイバーンの翼唐揚げはつまみとして人気だが、取引規制対象のため、依頼が出せず、一般人は懇意にしている探索者が食べさせてくれることを期待するしかない。洞窟タイプのダンジョンで、3、4体ほどの群れでしか出てこない。討伐推奨ランクはA。

※ピクシードレイク(英語圏ではLittle Devil Lizard):見た目は赤ちゃんの手くらいの大きさの、ビビッドピンクのトカゲ。目立つ色彩だが小さいため、見つけるのは大変。また、姿を隠す魔法が得意で、気配も希薄。他のモンスターを引き寄せる独特の甘い匂いの液を口から外敵に吐きつける以外、何かしてくることはないが、その行動が厄介極まりない。内臓を抜いて素揚げにすると美味しいらしいが、そもそも討伐が困難。匂い液袋の扱いが難しいため、取引規制対象。特定のダンジョンに1体しか出ない、中ボスポジションなモンスター。たまにイレギュラー出現する。討伐推奨ランクはS。

※ファンシーワイアーム(英語圏ではFancy Worm):見た目は2、3歳ほどの子どもの大きさの、パステルピンクの翼を持つヘビ。常時姿を隠す魔法を使っており、音もなく飛ぶのもあって発見は非常に困難。ピクシードレイク同様の行動をする害悪モンスター。同じく取引規制対象。内臓を抜いて肉詰め、あるいは米詰めしたものを揚げた姿揚げが美味しいらしいが、そもそも討伐が困難。討伐推奨ランクはS。

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