24. ダンジョン産コーヒー?
このダンジョン、高山やら高原やらを含むめっちゃ広いワンフロアなんやけど、コーヒーの木とか今までありそうでなかったんよ。それが、なんか知らんけどあった。っちゅーか生えた?
「ブゥルルル…」
「んもぉおお」
「そうよなぁ、あんたらにわからんかったらわからんよなぁ…」
ダンジョンの植生が変わるって話は聞いたことあるけど、まさかこんな唐突とは思わんやん?
しかも金太郎とボスが毎日見回りしとってやで?「今朝、見知らぬ木が生えていた」って報告聞いたときは「?」ってなったわ。
とりあえず今んとこは花咲いとるだけの状態やな。…受粉とかどないしたらええんや?蜂おらんやん?風任せ?え、これギルドに報告だけして、あと全部ぶん投げてええ?
「記録がてら配信するわー。ある意味自宅配信?」
〝わこつ。え、ここどこ〟
〝わこつー〟
〝わこつ〟
〝わこつ。ダンジョンん中?〟
〝おつー。そこって先輩んちのダンジョンの中?〟
「うん。家のダンジョン。なんか知らんけどコーヒーの木生えたけん、ギルドに報告したら、話が軍にいって、軍から観察記録取ってって頼まれた」
〝どういうことなの…〟
〝ってことは、元々そこにコーヒーの木は生えてなかったのか〟
「そうなんよ…なんか今朝、気づいたら生えとったんやて」
〝え、なに、ダンジョンの中って急に植生変わるの?〟
〝報告はいくつかあるけど、そんなになかった記憶〟
〝日替わりみたいなとこもあるし、急にダンジョンの環境が変わっても驚かない〟
〝ダンジョンってなんなんだろうなぁ〟
〝謎の塊〟
〝気づけばあって、気づけばなくなってるとこ〟
〝モンスターの巣〟
ほんま、ダンジョンってなんなんやろな?
〝ところで、コーヒーの木って、その白い花咲いてる木?〟
「そうそう。これ。ふっさふっさと白い花咲かせとるやつ」
〝へー。コーヒーの木って初めて見た〟
〝まあそうそう見ることないよね〟
〝コーヒー豆は見るけど、木は見ない〟
〝豆すら見ないわ。インスタントのやつくらい〟
〝風は吹いてても蜂はいないよね?受粉とか大丈夫なの?〟
「対応どうするか聞いたら、放置!観察!って。あ、花は花粉ごとちょいと頂戴して、軍に提供しとるで」
〝ってことは、定期的に見に来る程度?〟
「うん。それでええって。ただまあ、その分岩石カウらが何しても放置ってことなんやけど」
〝カウたちはどう思ってんだろ〟
「なんかいい匂いするらしいで。やけん、暇見て群れで花見しよる。ほら、斜面下の木んとこ」
〝…あ!いた!〟
〝白黒の岩が岩石カウか!〟
〝あれ、ボスは?〟
「ここ以外にもおんなじ木ぃ見つけたってんで、金太郎と見回りしよる。朝はなかったんに、昼にはあったとか、なんやろな?」
金太郎が飛び回ってまた見つけたんよな。山1つ向こうにコーヒーの木の群生地。昼にもっかい見回りしたらあったっちゅーことは、朝から昼の間に変化したっちゅーことよな?放浪しよる岩石カウたちにボス越しに聞いても、いつの間にかあったって回答があったくらい。
……前兆なしとか怖ない?
〝増えたのか〟
〝ダンジョン内でコーヒー畑…〟
〝一般人入って大丈夫?〟
「ダンジョンやぞ。さすがに無理や」
〝だよねぇ〟
〝でもそこでコーヒー豆取れるようになったらさ、ダンジョン活用の幅が広がりそうだよね〟
〝ゴデアですでにダンジョン漁業やってるけどね…〟
〝ベスタでダンジョン農業やってるみたい。マンドラゴラが畑仕事手伝ってくれるんだってさ〟
「なんやあいつら。逃げるだけちゃうんか」
〝自分たちを襲わないってわかったら、手伝いだしたって聞いた。たまに仲間を増やすために魔素をそのままにする野菜を置いてくれるなら、人が食べる用の野菜はマンドラゴラ化しないように魔素を取り除いてくれたりするんだって〟
〝へえ?〟
〝マンドラゴラにも知性ありいるんだ…〟
〝だから区画分けてるみたい。マンドラゴラ化用と人の食用で〟
「それができるんやったらええなぁ…ダンジョン外やと無理やわぁ」
〝すぐ死んじゃうからね〟
〝マンドラゴラに魔素除去任せられるなら、烏さん遠征できるのにねぇ〟
「うちもダンジョンに畑移そうかなぁ……」
〝カウたちに食べられそう〟
「そう…それもあってダンジョンの外に畑作ったんや…」
あいつら、鉱物も食えるってだけで、基本野菜やら牧草やら食いよるけえな。結界もなしに畑作ろうもんなら、あいつらに食い荒らされてまう。ボスがおるとは言え、悪させんやつがおらんわけやないし。
…結界発生装置、ハウス栽培にすりゃ使えるか?できたらやってみるか。
「嘘やん…」
コーヒーの木観察しよったら、金太郎が文字通りすっ飛んで来た。話を聞いたら、まさかのまさかやった。
なんでカカオの木まであるん…?
〝カカオの実だっけ、これ〟
〝丘陵地帯もあるとか、そのダンジョン広すぎない?結構な距離飛んで来たよね〟
〝どこでループしてるんだこれ〟
〝コーヒーとチョコって合うよね〟
〝合うねぇ〟
〝今朝なかったやつ?〟
「今朝なかったんよな?」
「グァウ」
「朝も昼もなかったらしいで」
〝うーん?〟
〝コーヒーは花咲いてただけだけど、カカオはもう実がなってる謎〟
〝隠蔽魔法がかかってたとかは?〟
「金太郎、隠蔽魔法かかっとったらわかる?」
「グルル?」
「こんなん」
「…グゥ」
「わからんて」
〝じゃあ隠蔽魔法みたいなのかかってた説もあるね〟
〝宝箱と似たようなもんだったりしない?あれも人によって見えたり見えなかったりじゃん?何かしらの条件を満たしたから、カカオの木もコーヒーの木も見えるようになったとか〟
〝あー、その可能性もありそう。ダンジョンだし〟
「なるほどなぁ…なくはないんちゃうか?」
言われてみりゃあ、たしかに宝箱と似た現象やな?
あれも人によって見える見えん、触れる触れんってあるし。なんかしらの条件が宝箱に設定されとって、それを満たしとる満たしてないがあるけんそうなっとるんかもー、ってのが有力説なんよな。
「グゥ?」
「金太郎、宝箱って見たことある?こんな感じの箱なんやけど」
〝おお、幻影だ〟
〝宝箱ってデザインまちまちだよね〟
〝鍵かかってたりかかってなかったりもするね〟
〝不思議だなぁ〟
「…グゥルルル」
「そっかー。ボスー、宝箱見たことあるー?」
「?」
「こんなん」
「…んもぉお」
「ないかー」
〝ん?どっちも宝箱見たことない?〟
「うん。らしいで」
〝ということは、宝箱の存在を認識できるのはヒトだけの可能性が…?〟
〝でもミミックいるよね。宝箱の中身だけ食べて、自分は宝箱の中に隠れ潜んでるアレ〟
〝あー、あのヤドカリならぬハコカリ〟
〝箱も宿ならヤドカリでいいのでは?〟
〝そういえば、ミミックだけは誰の目にも見えるし触れられるな?〟
〝お?そういやそうだ〟
〝中身取った箱もそうでもないのにね〟
〝ってことは、中身が宝箱に何かしらの条件に関わってる?〟
〝箱自体に何かしらの魔法がかかってる可能性があるんじゃないか、とは一部で言われてるけど、魔力は感じられないんだよね〟
「亜空間ポーチみたいに微弱な魔力で維持されるような魔法やったらわからんで?」
亜空間ポーチ、完成時に魔力どーんと込めたら、あとは身につけとるだけで勝手に魔力吸って魔道具の機能維持されるんよな。魔力切れたら中身ぶちまけられるけん、身につける頻度少ないなら定期的に魔力どーんせなやけど。
〝なるほど〟
〝魔力が誰のか、どこから来てるのか、はわかんないよね?〟
〝あ、中身の魔力?〟
〝あー〟
〝そうか、宝箱の中身、魔法薬か魔道具しかないな。それから魔力をほんの少し吸い取ってるなら、その可能性もある〟
〝よし、ちょっと宝箱探してくるか。魔力検知で見えなくても宝箱あるかどうかはわかるかもだし〟
〝なら護衛役としてついてくよー。疾風っちは宝箱探しに集中しちゃって〟
〝おう、手伝うぜ〟
〝俺もー。結果気になるし〟
〝ありがとー。んじゃ護衛任せた!〟
「いってらー」
〝あっ、カカオの実割ってる〟
〝割ったというか切った〟
それにしてもこれ、カカオの実、なんか、アレやな?なんかこう、うん。うん?
※惑星ベスタ:太陽のない銀河系にある、常闇の惑星。海と大地の割合は8対2。海底火山が多く、常にどこかしらが噴火している。酸素はごくわずか。だが地上のダンジョン内は陽が登り、陽が沈み、ダンジョン外より酸素が豊富。遺跡が点在しているため、かつては知的生命体が住んでいたのではないかと考えられている。農地跡があったため農業をしてみたところ、どうにか成功した。マンドラゴラとは共生中。
※ミミック(英語圏ではmimic):宝箱の中に潜むモンスター。某ゲームのように宝箱そのものがモンスターではない。見た目はハサミが小さなヤドカリ。ごくたまにとことこ歩いている姿を確認できる。食べられるが味は微妙。素材も微妙。宝箱に触れなければ無害なのもあって、放置が推奨されている。一応討伐推奨ランクはC。
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