02. 食べたい肉がどこにもいない
「ミノタウロスがおらん!」
〝ここまでミノが出ないとか、これ強化種通り越して変異種出てんだろ…〟
〝多分ミノ系じゃない変異種だろうな〟
〝ブル多いし、それの変異種っぽいっすね〟
〝ダンジョンって面白いよな。変異種と同じ系統のモンスターばっか出るようになるって〟
「おかげで焼肉しに来たんに、焼肉向きのミノタウロスが出らんのやけど?」
〝変異種狩りましょ〟
〝狩ればミノも増えてくるでしょ〟
〝突撃ブルの焼肉…ねえな。煮込みとかジャーキー、ハンバーグとかにはできるのに〟
「挽き肉にせん限り、ただ焼くだけやと変に硬くなるんよなぁ…やけえってレアとかミディアムで食うと腹壊すし…ウェルダンになった途端にカッチカチってなんやねん」
〝見た目若干牛っぽいのに、生部分あると腹壊すって豚っぽいよな〟
「豚の焼肉は美味いんに、なんで突撃ブルのは歯ぁ痛めてまうくらい硬くなるんや…」
〝絶望顔で草生える〟
「その草引っこ抜いたるわ」
〝ひえっ〟
〝即引っこ抜かれてて笑った〟
あーあー外野がうるさーい。
いやもう、今おるの全50階のうち30階やぞ。その間に出てきたんは、サバンナ駆けずり回っとった突撃ブル58体に、木陰に隠れて羽根を飛ばしてきたマーダーグース3体、落とし穴掘りよったピットフォールラット2体。全部通常種。突撃ブル多すぎるわ。ふざけんな。
調査と間引きだけで済まそう思っとったんに…コメでも言われとるけど、変異種おるなら狩ってまうか。うちは今、ミノタウロスの焼肉がしたい気分なんや。
49階。広大なサバンナに、ぽつんと建つ50階相当の白亜のコロシアムが見える。
ここまでに狩った突撃ブルは通常種160、強化種32。下に行くと、マーダーグースもピットフォールラットも出てこんかった。岩石カウとか1体も出てこんかったのはなんなん?
49階まではフィールドに謎の階段があったんに、最深部はコロシアム内の階段で向かうってのも謎すぎるわ。
「はーい。49階でーす。ぱっと見変異種も強化種もいませーん」
〝これ、変異種が知性を得てるパターンでは?〟
〝んで最深部の50階でボス張ってるんですね、わかります〟
〝知性ありだとめんどくさいっすねー。交渉できれば楽なんすけど、そうじゃなかったら死なない程度に痛めつけて生け捕りにしろって言われてるし〟
「研究したいんはわかるけどなぁ」
〝もしかして、知性ありモンスターの研究員がめちゃくそ強いのって…〟
〝研究員ってだけ聞くと、探索者より力弱そうなんだけどなー〟
〝担当分野によるんじゃないっすかね?〟
襲われても返り討ちにするくらいにゃ強いんよな、あいつら。自分でダンジョン潜るやつもおるし。
さーて…ボスぶっ飛ばすかぁ…
ボス部屋前でー、まずは魔法で筋肉強化した
「おっじゃまっしまーす!」
〝ボス扉蹴り壊してるぅ〟
〝ノックと同時に壊れるとは情けない扉だ〟
〝壊れるほうが悪い〟
〝ノックしてなくないっすか…?〟
「入れりゃええんや、入れりゃあ。時間かかるけどどうせ自然と直るし」
クソデカ両開き鉄扉とか普通に開けてられるか。めんどくさい。
あー、うん。おるなぁ。地下コロシアムの中央に変異種…金色で羽の生えた突撃ブルが。地下やのになんでか知らんけど明るいけえ、よう見えるわ。
〝翼を授けられちゃった〟
〝でもたぶん飛べないんでしょう?〟
〝わかんないっすよ?見た目を裏切って超高速で飛び回るかも〟
「飛ぶやつ飛ばんやつの違いがようわからん」
〝見た目一緒なんだよな、飛ぶ奴も飛ばない奴も〟
〝だからこそ研究員が生け捕りしろってうるさいんすよね…〟
「めーんどーくさーい」
〝やる気なくて草〟
〝気持ちはわかる。捕まえて持って帰るの手間だし、倒しても食えるとこ限られてるし、しかも味が特別いいわけでもないし〟
「ほんっまそれ!」
牙とか爪とか革とか使えるんやけどな。肉の味が落ちるんよな。しかも食えるのがアキレス腱だけ。なんなんやこいつマジで。
っちゅーか、あんたはあんたでなんで後退っとるん?うちが扉蹴り壊した瞬間、ネコみたいに飛び跳ねたやろ?
「ブゥルルル…」
「…ほんま、なんであんたは腰引けとるんや」
〝ビビられてて草ァ!〟
〝やっぱこれ知性あるっすね。でないと実力差もわからず突進してきますし〟
〝知性はあるけど言葉がわからんやつって連れて帰れるん?〟
「ボコって弱らせてからどうにかして結界にナイナイして持って帰る」
〝うあー、結界が便利すぎるぅ…〟
〝魔力消費きついのが結界の難点だよなぁ〟
〝なんか余計なこと考えてんじゃないのー?〟
〝イメージに無駄があるってことか…一旦メモに結界の要求事項まとめてみっかなぁ〟
〝結界発生装置の完成早よ〟
ほんま、なんやねんこいつ…ネコやったら毛ぇ逆立てて後退りしとるようなモーションして。近寄ってもないんに。部屋入ったとこから動いてへんぞ、うち。
「ブゥルル…」
「おとなしゅうしてくれるんやったら、なんも痛いことせんわ」
「フゴッ」
〝あ、言葉わかってるやつだこれ〟
〝あ、服従のポーズ〟
〝腹見せるのは共通なんすかね…〟
〝腹抱えて笑ってたら同僚に蹴り飛ばされたわ〟
〝同僚にもおすすめしてみ〟
〝見せてる。ドン引きしてる〟
〝一般探索者視聴者の誰もが通る道〟
ちっ、憂さ晴らしにボコる口実のうなってもうたわ。
あー、なんか一気に疲れてきた気ぃする…とりあえず連絡用のスマートウォッチでギルドにメール送ってー。もう外夜やし、こんままここで1泊してまうかー。
「ワープほしい」
〝わかる〟
〝最深部まで潜っても、帰りは来た道戻るしかないのがなぁ〟
〝突撃ブルに乗って移動できる分、そこはマシっすよ〟
「それもそうやな」
〝50階までそれで時短してきたしな〟
〝1日で最下層まで行けたのはそれがでかい〟
〝移動に使えるモンスターがいないダンジョンとか、マジで自前の足使うしかなくてつらい〟
「んで余計体力使うんや」
〝最深部まで行けてないダンジョンが多いのはそこらへんの問題がなぁ〟
〝結界発生装置早よ〟
〝待てができない人には売らないっすよ?〟
〝すみませんでした〟
〝謝れて偉い〟
その場に座ってポーチの中を漁る。とりあえずバーベキューセットは展開しとこうかとな。
変異種ブルはなんか恐る恐るうちに近寄ってきたかと思うと、腕輪から出てきたちーちゃんと交流しとる。ちーちゃんは一応分類としては魔法生物、略して魔物やし、魔物とも呼ばれるモンスターとなんか通じ合えるんかもしれん。
あー、それにしても腹減った。…昼飯食って潜ってから大体6時間か。そりゃ腹減るわ。
食う
あ、焼いとる間に朝の燻製用とジャーキー用にピックル液作ってブル肉漬けとこ。漬け置き時間は魔法で時短やー。
「思えばボス部屋って安全やな?」
〝ボス倒してどこぞのモンスターがボス部屋に居座るまでは確かにそうだわ〟
〝問題はそこまで行くのが大変なこと〟
「そこよなぁ、それさえ解決すりゃあなぁ…」
〝ダンジョン攻略中に落ち着いて飯食えないのがつらい〟
〝風呂にも浸かれねえし〟
〝睡眠時間の確保も大変っすよね。いくら見張り立てても、緊張感のせいで寝た気がしないし…〟
〝でもそこに一攫千金の夢がある〟
〝今じゃ普通の動画配信サイトでダンジョン配信やってアフィリエイトとか投げ銭でも稼げたりな〟
〝投げ銭はピンキリじゃね?ここんとこ惑星ハイディで活動してる連中が迷惑行為で視聴率?同接率?を稼ごうとしてるし〟
「あ、それ、迷惑配信者への社会的制裁が済むまで待ってやー」
〝あっ(察し)〟
〝マザーズが動いてないわけがなかった〟
〝こないだ公安がアップを始めたと思ったらそういうことだったんすね…〟
〝公安出動案件とか何やったんだあいつら…〟
「心がウッキウキやったな、そういや」
〝心さんがウッキウキって…あっはい。察したっす〟
〝そりゃ仕方ない〟
〝ああ、心ってあれか、性犯罪絶対許さないウーマン〟
コンロセットー、炭オッケー、網もセットしてーの、鳥肉焼くぞー。マーダーグース、肉質は合鴨に近いんに炭火焼きとか合うんよなぁ。鴨南蛮風にするのもええし、燻製とか合わんわけがない。
…ミノタウロス、いつポップするかなぁ……やっぱミノ肉焼いて食いたかったわ…
※心:コードネーム
※ミノタウロス(英語圏ではMinotaur):筋骨隆々な二足歩行の牛。見た目相応のパワータイプで、耐久力もある。たまに武器を持った個体がいる。迷宮タイプのダンジョンならどこにでもいる分、フィールドタイプのダンジョンで出てくることは少ない。脂身が少なくあっさりとしていながらも旨味の強い肉で、脂で胃もたれするようになった人たちに特に人気。討伐推奨ランクはAと高いながらも、肉が美味いので狙って狩られる哀れなモンスター。焼肉屋から依頼されることもある。
※マーダーグース(英語圏ではMurder Goose):矢のように鋭い羽根を飛ばしてくる好戦的なモンスター、のはず。戦闘スタイルはアサシン。ただ白い体が目立つので、迷宮タイプで出てきた時は見つけやすい。フィールドタイプだと場所による。食肉可能部位は鶏と同じだが、味は合鴨に近い。討伐推奨ランクはB。焼き鳥屋や居酒屋などからよく依頼されるため、飲兵衛たちからめちゃくちゃ狩られる。だって飲み放題券が報酬でつくから。そのせいでダンジョンによっては即逃げされる。
※ピットフォールラット(英語圏ではLarge Mole):通称モグラ。落とし穴を仕掛けるのが大好きな草食性。雑草や増えすぎたミントなどを根っこごと食べてくれるので、どうにか家畜化できないか研究が進められている。しかし、それよりも知性あり変異種との契約を狙ったほうが早いのではないかとされている。食肉可能だが、生では食中毒を起こすため食べられず、火を通すと硬くなるため、主に契約モンスター用にされる。討伐推奨ランクはC。
※突撃ブルの強化種(英語圏ではJet Bull):別名、弾頭ブル。見た目は通常種と変わらないが、スピードが段違い。通常種がレーシングカー並みなのに対して、強化種は戦闘機並みになる。速さに対応できれば、通常種と同じ倒し方で問題ない。雑に魔法で石壁を作っても消耗を強いることができるので、フィールドタイプのダンジョンで、単体でしか出てこないのもあって、討伐推奨ランクはB。
※突撃ブルの変異種(英語圏では変異種は共通してMutant):別名、金色ブル。突撃ブルと変わらない大きさで、金色の毛並みと同色の翼が特徴。飛ぶ個体と飛ばない個体がいるが、見分けはつかない。防御力に優れ、強化種よりスピードもスタミナもあるため、飛ぶ個体であれば厄介極まりない。好戦的な個体が多く、戦える相手を見つけると最低でもマッハ3の速さで突撃してくるため、逃げるのも困難。飛ばない個体なら強化種と同じ戦法が通じるが、飛ぶ個体はヒットアンドアウェイか、カウンター戦法しかできない。討伐推奨ランクはS(飛ばない個体)から
※惑星ハイディ:凍土と凍てつく海に覆われた極寒の惑星。レアメタルや各種宝石の採掘が可能なダンジョンが多いため、企業所属の探索者も多い。ただしダンジョンの危険度はピンキリ。調子に乗った探索者がとあるダンジョンに入って帰ってこなかった、というのはよくある話。
※契約:自身を認めた知性あるモンスターに、魔力を含んだ血を数滴飲ませることで結ばれる魔法契約。基本的には契約者と立場は対等となる。破棄はどちらかの意思一つで可能なので、専ら異種間の意思疎通用。
※マザーズ:第一次太陽系防衛戦争の際に、人類の生き残りを賭けて造られた元AIの現情報生命体、マザー。その子らである、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタを含めたグループの総称。太陽系惑星連合軍として発足した各国の軍隊をまとめ上げ、戦争を勝利に導いた。戦争に伴う人口の減少を解消するため、デザインベビープログラムの発足を許可したが、遺伝子操作されて試験管から産まれた人の赤ん坊は、個体によっては勝ち得た平和を脅かす可能性があったため、戦時以外での製造を禁止した。
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