傭兵兼探索者のダンジョンキャンプ

yu102(あんかけ)

01. お手軽焼肉しに来た




 社長やりながら探索者もしよる変態お嬢に勧められて始めた配信。うちと同じ趣味のやつが増えんかなーと思ってちょい乗り気でやってみたけど、なかなかキャンプを楽しむための安全確保が難しいねんな。

 ゲームみたいに安全地帯でもありゃあええんやけど、現実はそんな甘くない。狩って狩って狩りまくって、かつ湧きが遅いところがかろうじて安全地帯もどきになるくらい。

 そう、なんかポップ、リポップするねん。ダンジョン内に発生する、人の頭くらいの大きさの黒いモヤモヤがモンスターになる。ダンジョンの外にはモヤモヤは発生せんし、ダンジョンの外に出たモンスターは長生きできん。

 モヤモヤの場所は固定やけん、湧きが早いとこなら効率的に稼げる。同じモンスターが出るとは限らんけど。間隔はダンジョンによる。早いとこは1分とか早いし、遅いとこは遅いっちゅーか、半年かかったりする。

 なんでかポップ、リポップ周りのシステム?は変にゲームちっくなんよな。死体はダンジョンに吸収されるとかもなく残るんに。

 最深部に水晶玉みたいなコアがあったりなかったりやし、ダンジョンの存在が確認された30世紀後半からあんまりわかっとることってないんよな。もう55世紀やで。

 あとなんでか知らんけど、惑星ごとにダンジョンに特色がある。太陽系にはないくせして、他の銀河系にはある謎はまだ解明してへん。大気中の魔素量の問題ってのが最有力説やけど、あながち間違ってへんのやないかなぁ。






 「ういーっす。今回もダンジョンから配信するでー。うちが今おるとこは牛系モンスターがよう出る、惑星アラスタのNo.0856ダンジョン、いわゆる、おはころ牛肉ダンジョンやな」

 〝わこつ〟

 〝わこつー。相変わらずのゲリラ配信…〟

 〝おつかれさまっす。俺らみたいなのはSNSのアカウントは作れないから、そこらへんは諦めるっすよ…〟

 「今は傭兵言うても元軍属やし。余計なこと喋らんように、匿名性の高いSNSは禁止されとるねんなぁ」

 〝軍で探索者用の配信サイト作ったんなら、探索者用のコミュニケーションツール的なのも作ってほしいんすけどね。素材のやり取りするのにギルドの匿名交流SNS使えないの、ちょっと不便っすよ…〟

 「あれ、あんま匿名の意味ないと思うんやけど…」

 〝ここなら人数少ないからそうだけど、他の惑星はこうはいかんだろうしなぁ〟

 〝おつおつー。今日は何泊?〟

 「予定やと1泊やなぁ。強化種増えとるからって調査も頼まれてん」

 〝あれ、そっちのダンジョンでも強化種増えてんの?〟

 「らしいでー。そもそもそこまで降りるもんそんなおらんけん、強化種くらい出てきてもおかしゅうないんやけど…」


 惑星アラスタ。食肉可能なモンスターがよう出てくるダンジョンばっかな、肉が美味い惑星ほしや。それだけならええんやけど、探索者の数は少ないんにダンジョンの数が多すぎて間引き間に合わんけえか、変異種とか強化種とかホイホイ生まれるんよなぁ…

 さらにダンジョンの攻略難易度高めやし。この惑星、結構開発進んどるほうやけど、毎月どっかしらで溢れよるし、その溢れたモンスターのトップに強化種なり変異種なりが立っとったりする。だいたいが迷宮タイプやのうてフィールドタイプやけん、余計に探索に時間かかって間引きもさくさくやれん。

 せやのに、ダンジョンを崩壊させるには得られるもんの旨みが多いけえって、やりたがるやつがおらん。おっても10人おるかおらんかや。悩ましいところよなぁ。楽に崩壊させられる、コアありダンジョンの数がそもそもそんな多くないってのもあるかもしれん。ここもコアないし。


 「とりあえず目に入った獲物は狩っていこかー」

 〝焼肉ー!〟

 〝いいなぁ。俺も結界を長時間維持できれば、ダンジョン内で肉焼くくらいはしたい…〟

 〝結界発生装置の研究は一応進んでるけど、強度がなかなか上がんないんすよねー。先輩、なんかヒントないっすか?〟

 「『魔法はイメージ』の基本通りやっとるだけやからなぁ…強いてうなら、1平方メートルへいめーあたりの魔素の密度上げるとか?あとは魔素と炭素を結合させた分子でダイヤモンド構造作るとか。魔素って非実在性元素やけえいけるやろ」

 〝ダイヤだと場合によっては速攻で壊されるっすね…まだ現実的なのは魔素の密度上げっすか。どうにかこうにかでっち上げてみるっすかねー〟

 「魔素吸収能力持ちと密閉能力持ちの素材とかがええんちゃうかなぁ」

 〝あとは固形化とかっすかね。ちょっといろいろ組み合わせてみるっす〟

 〝がんばれ開発班。俺たちがダンジョンキャンプできるかどうかがお前たちにかかってるんだ〟

 「ダンジョンの宝箱でなんかええ感じのが出りゃ楽なんやけど…」

 〝先輩なら出してくれるって信じてるっす!〟

 「……まあ数撃ちゃ当たるか?…お、突撃ブルや」


 サバンナみたいなダンジョン内を歩きよったら、突撃ブルが正面に見えた。

 突撃ブルは、bull雄牛ってついとるけどぶっちゃけサイと牛の中間みたいなやつ。そう言うと水牛に近いイメージをなんでかされるけど、あれより太い短足やし、角は縦に2本並んどる。短足やのに突進がクソ速い。しかも難なくカーブしてくる。フィールドタイプのダンジョンやと、戦闘がめんどくさいことこの上ないやつや。

 まあ魔法なりなんなりで足引っ掛けて転かしゃあ楽になるんやけど。


 「グオォォオ?!」

 「ジャーキー素材ごあんなーい」

 〝ハイボールがめっちゃ合うやつー〟

 〝は?キンキンに冷えたビールだろ〟

 〝保存食じゃなくてつまみとしか考えてなくて笑う〟

 〝スパイシーでほどよく塩っけのある味付けにするからね。仕方ないね〟


 細かく割いてスープに入れるんもあり。結構いけるんよな。ジャーキーと野草のスープ。野草のアク抜きめんどくさいけど。亜空間ポーチとかのマジックバッグ系があれば、野菜の持ち込みがおすすめや。

 うちとすれ違うように頭から地面に突っ込んだ突撃ブルのケツを蹴り上げて、空中で体勢が整わんうちに腰に佩いた肉切り包丁を右手で振り、首を刈る。そこにすかさず右の腕輪に隠れとった血抜き用スライムちーちゃんが飛びかかり、胴体のほうの切断面にまとわりつく。器用にも、頭のほうの切断面にも分裂せずまとわりついとるわ。


 〝血抜き用スライムはつくれたんだけどなぁ…〟

 〝ちーちゃんみたいに自己判断で動いてくれないんだよな〟

 「そこは学習させんとかなぁ…うちが創ったんは元々頭?がよかったんか、言葉もある程度理解しとったし」

 〝そりゃ(先輩の細胞使ったなら)そうよ〟

 〝キーボード入力勢がいることに今気付いたわ〟

 〝慣れたら楽だし、余計なことポロリしなくて済むぜ?〟

 〝そうか、それ対策もいるのか軍関係者〟

 〝思考入力で済ませられるパンピー探索者ばんじゃーい〟

 〝ぶっちゃけ羨ましいっすわ…キーボード、慣れたら楽だけど、面倒が勝る時もあるんすよね…〟

 「報告書作成で活躍するキーボードくん」

 〝ああ、そうか。それで面倒が余計勝るんすね…〟

 〝報告書…必要事項記載漏れ…誤字脱字…うっ、頭が…〟

 〝書類作成なんて知らね〟

 〝俺もそんな生活送りたいっすよ…〟

 「そう言いながら転職しても古巣に戻るやろ」

 〝戻るんでしょうねぇ〟


 お、血抜き終わったか。


 「ありがとなぁ、ちーちゃん」


 お礼を言うと、ちょろっと触手を出して横にフリフリ。そんでシュルンと腕輪に戻る。うん、かわいい。

 さて、解体解体。結界張って安全確保ー。腹裂いて内臓取ってーの、皮剥いでーのーっと。


 〝ほんとちーちゃん器用っすね〟

 〝アルストロメルディア人だっけか、魔法的な錬金術の先駆け的なの〟

 〝てかアルストロメルディア人がそもそも魔法生物もつくれる錬金術を太陽系人に教えてくれたんだよ。おかげで俺らも血抜き用スライムがつくれてる〟

 〝あのヒトらのおかげで結界発生装置とか作れてるんすけど…魔法的にわかんないことばっかでまだまだ実用には至らないんすよねー〟

 「あのヒト…ヒト?ら、魔法を感覚的には理解しとっても、それを言語化せんのよな。普段感覚共有でいろいろ意思疎通を済ませとるだけに、言語っちゅーもんの必要性をあんま感じてへんっちゅーか…」

 〝あー…それでなんか会話がたどたどしいのか…〟

 〝あの人らにとっちゃあ、言葉って不便なもんだろうしなぁ…〟

 〝烏さんなら感覚共有いけそうだけど、実際どうなん?〟

 「錬金術習うときにやってもろたけど、頭割れそうになるで、あれ。主脳を計10個、さらに補助脳を計30個稼動させんときつかった。まあ1人分やないからそうなるんもしゃーなしやけど」

 〝先輩のクローンの同時稼動数、20体でしたっけ〟

 「そうそう。合わせてな」

 〝10体分でやっととなると、かなりの情報量っすね…普通の人なら即頭パーンってなるやつっすよ〟

 〝目から耳から鼻から血が出るやつかな?〟

 〝うわぁ…〟

 〝今現在稼動してるクローンの数にびっくりだわ。そんな動かして問題ないもんなのか…〟

 「ふふん。うちは特別製やからな」

 〝偶然の産物らしいっすけどねー〟

 「試作するならあれもこれもって足された結果やな」


 まあ遺伝子別人の同型体は後が続かんやったんやけど。やっぱのって無理があったんやって。創られはじめたんは32世紀やったけど、20世紀以上経った今でもうちらみたいなのがまだおるんは奇跡やで、ほんま。粗方発狂したり暴走したりしたし。殺処分も致し方なし。






※配信主:コードネームからす。元軍人の現傭兵兼探索者。黒髪黒目に褐色肌の若い女性体。32世紀半ばに発足したデザインベビープログラムという、遺伝子操作人間を創るシステム製のプロトタイプ第1号。実験として西日本と九州の方言が人格データに組み込まれている。マイペースなやつ。扱える得物はいろいろあるが、拳や脚以外は基本自作の肉切り包丁を使う。左利き寄りの両利き。基本の戦闘スタイルはグラップラー。配信機材は友人からもらった、ピンポン玉サイズのAI搭載自動追跡浮遊型カメラボールと、配信画面を視界に反映させる黒い布ゴーグルのみ。

※人格データ:量子ネットワークの実現と共に達成された、データ化された魂とも言えるもの。これのバックアップさえ取っておけば、クローンやアンドロイド機体などの新しい体の中に入れることで、ある種の蘇生が可能となる。データを改竄して別人につくり変えることも可能だが、法律で禁止されている。ただし例外あり。

※AI搭載自動追跡浮遊型カメラボール:球体ドローンとも呼ばれる、配信者御用達の撮影機材。これ一つで配信可能。サムネだのタグだの、撮影ポジションすらAIにお任せできる。ハ○スタイルが一番人気だが、なぜか一部では目玉スタイルも人気がある。

※布ゴーグル:布にしか見えないARゴーグル。なので、身につけている姿は目隠ししているようにしか見えない。何かしらの機材と同期することで、配信画面はもちろん、戦闘機のモニターなども視界に投影可能。

※惑星アラスタ:地球と同じくらいの大きさの惑星。地球とは異なり、陸地と海の割合は6対4と、陸地が多い。危険度の高いドラゴン系モンスターが生息するダンジョンが複数あるため、惑星に立ち入り制限がかかっている。ランクA以上の探索者しかいないが、人数は998人と他の惑星よりも少なく(ランクを問わなければ平均5000人)、フィールドタイプのダンジョンばかり、かつ階層も多く、モンスターも強い種類が多いため、ダンジョン攻略の進捗は止まっている。毎月どこかしらのダンジョンでモンスターの氾濫が起きているが、間引きは追いついていない。

※モンスター:ダンジョン内にしか生息しない、魔物とも呼ばれる、魔力を持つ動物。その多くが肉体強化魔法を使う。稀に魔法で天候を変えたり、地震を起こしたりする個体がいる。魔法を使う以外は、動物と変わらない。

※モンスターの氾濫:ダンジョン内に生息するモンスターが多くなり、生息域を脅かされたモンスターたちが新たな住処を求めてダンジョンの外を目指す現象。氾濫が起きることを、溢れたと言うことも。外に出たモンスターは、ダンジョンの入口周辺の環境を自分たちの住みやすい場所に変えていく。しかし、なぜか長生きはできず、だいたい1週間ほどで死んでいく。その間の環境変化により周囲の生態系が大きく変化してしまうため、人の手で手早く討伐することが推奨されている。また、氾濫によりダンジョンの入口周辺の環境が大きく変わると、そのダンジョンが消滅することがある。

※突撃ブル(英語圏ではAssault Bull):探索者互助組合ギルドの図鑑登録する際の名称が「ダッシュブル」になる予定だったモンスター。当時、同じ名前のエナジードリンクが売られていたため、モンスターの名前と結びつかないのは危険ということで「突撃ブル」になった。肉の見た目は牛肉っぽいのに、生な箇所を食べるとお腹を壊すところは豚肉っぽい。ジャーキー素材として特に人気。その名の通りオスしかいない。討伐推奨ランクは単体ならC、群れならA。

※血抜き用スライム:アルストロメルディア人から齎された錬金術により創られる魔法生物。普通のスライムより水っぽい体をしている。血はごはん。初期能力は創造主の細胞次第。烏は何かあった時用に培養していた自分の各種細胞を材料に使った。そして細胞を管理していた元上司に怒られた。

※アルストロメルディア人:じんとはいうものの、見た目はひとではない何か。一部はそれっぽかったりする個体もいる。群体のような情報生命体で、活動する体は乗り換え可能(一部の太陽系現代人と同じ)。各々好きなようにカスタマイズしている。魔法が得意だが、教えるのは苦手。知識欲は旺盛だが、文字や言葉に関してはあまり興味がなく、一応知るだけ知っとくか、といったスタンス。

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