19. シュラスコしてみる

 


 〝うあー、チーズの焼き目がやべえ…〟

 〝焚き火台の下に置けば確かに焼き目つけられるわ…〟

 〝これが溶岩グラタンですか?〟

 〝煮えたぎってるぜぇ…〟

 「乾燥パセリ振ってーいっただっきまーす」


 んー……焦げ目の香ばしさとパセリの風味を、あっつあつのホワイトソースが包んで鼻に抜けてく…チーズのカリッとした部分とトロッとした部分が合わさってたまらんなぁ…スパークレックスのもも肉はホクホクながらもどこかしっとり。少なくも旨味の強い脂がホワイトソースに溶けて混ざって、口ん中いっぱいに美味さが広がる。そこに小麦香るマカロニと爽やかな玉ねぎが加わると、食べ進めるにつれてくどくなりがちなミルクの風味に変化が出る。食感にアクセントもついてGood!


 〝くっ、ぱりっていい音させやがってよぉ…〟

 〝トースターでカリカリチーズ作ったわ〟

 〝いいなー。わたしもやろー〟

 〝うお、心さんいた〟

 〝きゅーけーちゅー。からすさんしんぱいだからみにきた。おなかすいた〟

 「ちゃんと飯食いやー?」

 〝た、たべてるたべてる〟

 〝どもってんだよなぁ〟

 〝あれ、心さん音声入力?入力早いし〟

 〝きょかでてる。きーぼーどおそいからって。しこうせいげんもかかってるよ〟

 「一本指打法やからな」

 〝今時いるのか、一本指入力…〟

 〝なんか、にがて〟

 〝わかる。思考入力に切り替えてからキーボード余計打てなくなった〟

 〝らくするとだめね〟

 〝文字を書かなくなったせいで、読めるのに書けなくなった話思い出した〟

 〝大昔からあったんだっけ、その手の話〟

 〝烏さん、食べるの早くない?〟

 〝スキレットだしなぁ〟

 〝よくあの煮えたぎるホワイトソースをぺろっといけるな…〟

 「火傷しても治しゃええねん」

 〝なるほど?〟

 〝食いながら治してたのか?!〟

 〝あっついうちが美味いのは確かだけどさぁ〟

 〝足りてる?大丈夫?〟

 「足らんけえシュラスコ作る」

 〝唐突ー〟

 〝塊肉焼いて削いで焼いてってやるやつだっけ〟

 「そうそれ。こないだ買ったくるくるするやつ…お、あった」

 〝専用のあるんだな〟

 〝マンガ肉焼けそうな肉焼き器〟

 〝上手に焼けましたー!ってやつ思い出す〟

 〝あれVRでやると結構難しい〟

 〝ボタン入力みたいに素早く動けない〟

 〝見極めむずない?音ゲー苦手だから焼き色見てたけど、ウルトラ上手に焼けましたー!にならない〟

 〝あれはタイミングわりとシビアな気がする〟

 〝音楽聴いててもミスる〟

 〝おにくはおみせでやいてもらう。しっぱいしないから〟

 〝やるやる。魚も店で焼いてもらう。金取られるけど必要経費〟

 〝店でやってもらうのも演出好き〟

 〝わかる〟

 〝猫かわいいよ猫〟


 背側の肉がちょうどええ塊やけえ、これ使おー。塩胡椒を肉の全面にたっぷり振ってー、金串刺してー。くるくるするやつ焚き火台に乗っけてー、金串セットしてー、ゆっくりゆっくりぐーるぐるー。


 〝おお、焚き火台そのまま使えるのか〟

 〝いいね。別に火を起こしなおさなくていいのは助かる〟

 〝思ったよりがっつり塩胡椒するんだ〟

 〝脂と一緒に落ちるからね〟

 〝塩胡椒していったん置いとく場合はあれより少なくていいよ〟

 〝あれ、レックス肉って生だとどうなんだっけ?〟

 〝種類によって違った気がする〟

 〝スパークレックスのはどうだったっけ…〟

 「生は新鮮ならオッケーやで。牛肉と一緒や」

 〝でも味は鶏肉に近いよな〟

 〝鶏肉も新鮮なら鳥刺しできるし…〟

 「タタキもええなぁ…」

 〝今回は?〟

 「外側しっかり火ぃ通して、その部分削いで食う!」

 〝あれ、シュラスコってソースなんかなかったっけ?野菜いっぱいのやつ〟

 〝んー?〟

 〝そもそもシュラスコの存在を今ここで初めて知った〟

 〝モーリョだっけ〟

 〝そうだそうだモーリョ〟

 「昨日の晩作ったのがあるで。肉とか魚に合うけえ、作り置きはできるだけしよるんや」


 玉ねぎ、トマト、ピーマン、黄パプリカ。それらを細かく刻んで、酢と塩、オリーブオイルと混ぜるだけのお手軽ソース。色とりどりで見た目もええし、さっぱりしたソースやけんいろいろ合わせやすいねんな。出汁入れたり醤油入れたり、赤パプリカ入れたりとレシピもいろいろあっておもろいでー。






 「いやー、ええ焼き目やなぁ」

 〝肉の色が白いから、ソースのカラフルさが際立ってる〟

 〝匂いに釣られたのか、枯れ葉ジラフがこっち見てる〟

 〝あいつら肉食じゃないのになぁ〟

 〝まあ気になる匂いはさせてるんじゃない?〟

 〝ソースのほうが気になってんじゃない?〟

 〝あー、ソースか〟


 やらんで。これはうちが食う分のソースや。

 んーふー…甘味と旨味の強い肉に、酸っぱくてしょっぱいソースが合う!柔らかい肉のほろりとした食感と、しゃくしゃくした野菜の食感が組み合わさっておもろいわー。後味さっぱりでいっくらでも食えるやつ!


 〝じどうぐるぐるほしい〟

 〝手で回すの疲れそうだよな〟

 〝食いながらだから余計回しづらそう〟

 〝キャンプでシュラスコするなら網焼きもありよ?〟

 〝烏さんは単に道具使いたいからくるくるしてるだけ説〟

 〝あるある〟

 〝わかる。なんかこれ使ってみたくなる〟

 〝そして一回使ったらしばらく使わないんでしょ。知ってる〟

 〝そういう道具がいっぱい倉庫にありますねぇ!〟

 〝おかたづけしよ?〟

 〝はい〟

 〝うわ、キリンがすげえ見てる〟

 〝結界なかったら鼻近づけてそう〟

 〝そわそわしてんね〟

 「やらん!」

 〝あ、目に見えてがっくりした〟

 〝言葉わかってんのかこいつら…〟

 〝たぶん音の雰囲気とかで察したんでね?〟

 〝まあ餌付けはね、よく考えないとね…〟

 〝あったな、食料強奪事件…〟

 〝Dランクが軽い気持ちでモンスターたちに餌付けしたら、ほかの探索者にも食い物強請り出して、最終的に強奪しだしたやつか…〟

 〝あれ、種類問わなかったよな〟

 〝肉食、草食、関係なかったね〟

 〝知性と理性を併せ持つモンスターでないとねぇ…〟

 〝本能が強いやつはなぁ…〟

 「タダ飯はあかんで。ほんまに」

 〝タダほど怖いものはないってね〟

 〝一時期乞食増えたよね。戦後だったっけ?〟

 〝たしか戦後〟

 〝第三次はひどかった…〟

 〝軍の施しを当たり前のものと思った連中の末路は、まあ、アレだったな〟

 〝こねこねした!〟

 〝ひえっ〟

 「アレ結局第8で終わらせたな、そういや」

 〝つくりかえるのはとくい〟

 〝ひえっ〟


 第8やからな。脳みそこねこねはやれるよな。うん。

 …人格データ弄るんとどっちがマシなんやろな?






※枯れ葉ジラフ(英語圏ではWither Giraffe):枯れ葉しか食べない、枯れ葉色のキリン。食べる物を増やすために、草を、木を枯らす。サバンナや荒野といったダンジョンエリアにしか出現しないが、たいてい一緒に出てくるモンスターが肉食なので、よく狙われている。手持ちの野菜もカッサカサにしようとするので、持ち込みには注意。可食部位はなし。蹄が錬金術で作る除草剤の材料になる。討伐推奨ランクはC。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る