06. 焼肉リベンジとテスター



 「焼肉リベンジやー!」

 〝わこつーぱちぱちぱちぱち〟

 〝わこつ。1週間ぶりのおはころ牛肉ダンジョンだー〟

 〝わこむしゃあ〟

 〝おつおつー。今日はミノ出てくるといいな〟

 「ちなみに今回、ゲストがおるでー」

 〝ゲスト?!〟

 〝あっ(察し)〟

 〝なんだ、なにを察した〟

 「どもーっす。結界発生装置のテストも兼ねて俺もいまーす」

 〝竜胆テメェコラァ!〟

 〝ずりぃぞ!〟

 〝烏さんの手料理ぃいいい!竜胆○げろ〟

 〝お、実用テスト段階までできたんだ〟

 〝それは喜ばしい、喜ばしいけど!〟

 〝くっそうらやまああああ!〟

 「はーっはっはっはー。妬み僻みの声が一徹明けの頭にクソ響くっすわー」

 「寝てこいや」

 「結果が気になって寝れるわけないじゃないっすかー」

 「せやな?」


 でもな、ちゃんと寝たほうが頭の働きよくなると思うんや。

 ぶっちゃけ朝っぱらからうちに来たのも、深夜テンション継続中やけえやろうなぁ。まあ結果が気になるんわかるけど…

 三徹は余裕でかますやつやけど、さすがに寝らんままテストするんはどうかと思うわ…


 〝てか頭に響くって、コメントに声帯つけたん?〟

 「ゴーグルどっか行ったんで声帯にしたっす。骨伝導イヤーカフはあったんで」

 「布ゴーグルは軍の支給品やろ、後で探すで」

 「ういっす」

 〝コメント音声出力機能のことを声帯って言うのか〟

 〝ネットスラング的なあれ〟

 〝なるほど〟

 〝この説明でわかられるとは〟


 たぶん素材やら機材やら失敗作やら入れとる箱に紛れとるやろ。問題はその箱の数がめっちゃ多いってことかなぁ…50個以上に増えてそうやわぁ…こいつ、ゴミ捨ては月一でしかせんし。…うん、捨てとるだけマシやな。他の研究員とか技術者連中はまともに掃除もゴミ捨てもせんし。年一でゴミ捨てしよるやつがマシなレベルやからなぁ…


 「今は敵影ないし、先にテントに展開いってみよか」

 「りょーかいっす」

 〝ほー、なんか見た目は防虫燻煙剤みたいだな。もうちょいごついの想像してた〟

 〝テント型とかそういうのじゃないのか〟

 「そうしてもよかったんすけど、どうせなら手持ちのキャンプ用品に結界付与できたほうが汎用性あるかなって」

 「まあそっちのほうがコスト削減できたってのがでかいんやけどな。テントとか、物によっちゃクッソ高いし」

 「サイズもまちまちですしねぇ。使い勝手が変わるのが嫌って人もいるかもだし、それなら手持ちの道具に結界付与できるようにすれば、デザインごとの品薄とか、偏り出なさそうだなって」

 〝買い手側からしたらほしいやつ買えないってのはつらいよなぁ〟

 〝タープにもいける?〟

 「いける予定っす。ただ、テントに付与するより効果時間は短くなる予想っす」

 〝ふむぅ…そこは魔法の仕様上、どうしようもないのかなぁ〟

 〝使い方は?〟

 「この魔道具に魔力を込めてテントに触れさせるだけっす。同じテントに展開するなら、込めた魔力量に応じて展開時間が変わるっすよ」

 〝踏んでも壊れない?〟

 「そこは岩石カウの変異種に踏んでもらって確かめたっすよ!壊れなかったっす!」

 「今朝ボスになんかやらせとるなって思ったらそれやったんか…」

 〝変異種カウに踏まれても壊れないってめちゃくちゃ丈夫だな?!〟

 〝それ、ほんとに俺らに買える値段になってる…?〟

 「100万ドルぐらいっすかね」

 〝あ、それならいけるわ〟

 〝高いけどAランク討伐依頼2、3件分くらいか。なら大丈夫だ〟

 〝思ったより安かった〟

 「正直一番コストかかってるのが、このガワなんすよ…結界発生装置本体とも言えるブラックボックス部分の魔素干渉に耐えられるのが、アダマンタイトくらいしかなくて…」

 〝おい〟

 〝おい?!〟

 〝アダマンタイトとか最硬鉱物じゃないですかやだー!〟

 〝加工のしにくさトップの鉱物じゃねーか!〟

 〝そりゃコストもかかるわ…〟

 「錬金術で丁寧に丁寧に精錬してやっとっすからねぇ…3日はそれで潰れたっす」

 「アラスタのダンジョンなら手軽に手に入るけんええけど、加工の手間のせいでコスパ悪いんがなぁ…」

 「でもおかげで各惑星やらコロニーの防衛機構にも流用できそうな結界発生装置ができたっす!」

 〝すげえな〟

 〝魔力供給を定期的にすりゃあ、その分結界が保つわけだしな〟

 〝これは世紀一の発明〟

 「特許も取れそうっすよ!今申請中っす!」

 〝軍の特許なら金そんなかかんないから、民間が手ぇ出しやすそう?〟

 〝でも軍製より質が悪くなりそう〟

 〝軍人、傭兵、探索者以上に魔法が使える民間人なんてそうそういないしな〟

 〝魔法がなんで使えるかってのがわかんないと魔道具って作れないしな〟

 〝そもそも魔道具をつくるための錬金術がまともに使えないだろ〟

 〝魔力もそんな多くないだろうしなぁ…〟

 「民間に関しては、真似できるものならしてみろってスタンスっすねー」

 〝そうなるわなぁ〟

 〝魔法的な技術力の差だけはどうしようもないしなぁ〟

 〝聞いた話だけど、魔法が使えるとか、得意なやつはだいたい探索者になるって〟

 〝普通に働くより稼げるしなぁ…その分死の危険と隣り合わせになるけど〟

 〝安定を取るやつは軍と関わりのある企業に就職するしな。あれを民間とするのは微妙なライン〟


 おーっし、設置おーわりっと。

 んー、まあこんなもんか。

 ・1人用ドームテント

 ・4人用オクタゴン型ワンポールテント

 ・4人用ドームテント

 ・4人用シェルターワンルームドームテント

 ・6人用ジオドームテント

 ・6人用オクタゴン型ワンポールテント

 の6種しかないけど、まあええやろ。思っとったよりお嬢から試供品渡されとってびっくりしたわ。1人用はしょっちゅう使っとって助かっとるけど、4人用とか6人用とかあってもなぁ…いや、試供品っちゅーことで何回か使ったけど。普段は使わへんねんな。


 〝気づけばテント張られてた〟

 〝裏で魔法使って組み立ててた〟

 〝結構多いな〟

 〝テントっていろんな種類あったんだな。基本使わないから知らなかった…〟

 〝スペースも思ってたよりとっててびっくり〟

 「こうして並べると、狭いっすね?」

 「4人用とか6人用って、思っとるよりでかいからな」


 あ、突撃ブル。

 足元に石壁生やして転かして蹴り上げて首スパーン。単体ならこれでええから楽やわぁ。


 「ほいっと」

 「んー、エンカウント率は前に先輩が潜った時と変わんない状態に戻ったっすかね?」

 「もう新しいボスが出とるやろうしな。ミノ系やったら狩らんでほっとこっかなぁ」

 〝変異種ミノとかやばさが天元突破なのでやめてください〟

 〝どんだけやばいんだっけ、変異種ミノ〟

 〝硬い、速い、強い〟

 「肉は突撃ブルみたいになる」

 〝聞きたいのはそれじゃないんだよなぁ〟

 「変異種の肉って通常種より変化大きい気がするっす」

 〝わかる〟

 〝変異種ミノは角が砥石として優秀〟

 〝あの角の一撃をくらうと、一般探索者は即死する〟

 〝盾受けしてても盾にダメージくるからな。回避かパリィ安定〟

 「色が赤くなるせいで、一部からは赤い彗星って呼ばれとるで」

 「個体によっては変異種ブルより速いっすからねぇ…」

 〝一体どこの少佐なんだ…〟

 〝草ァ!〟


 呼び出したんは「草ァ!」うとる疾風やんけ。

 あいつ、結構モンスターに二つ名とかつけるん好きやからなぁ…探索者にもつけたそうにしとったけど、なんか自重しとったわ。


 「はいはい。テスト環境は整えたんやし、さくっとやろうや」

 「はーい」


 さーて、どんな感じやろなぁ。

 竜胆がテストしよる間に、ちーちゃんが血抜きしてくれた突撃ブルの解体でもしよこ。

 あー、ミノタウロス出てこんかなー。






※ミノタウロスの変異種:別名、血塗れ番人。通常種のミノタウロスが赤くなっただけと侮るなかれ。あらゆる物理攻撃、魔法攻撃に耐性を持ち、スタミナもスピードもある厄介なモンスター。生物としての急所を狙うしか、生き残る術はないと言われている。角は砥石として最高級品で、最硬鉱物とも言われるアダマンタイト製の刃物でもよく研げる。革は防具として非常に優秀で、軽いのに硬いため、Sランク探索者に人気の品。討伐推奨ランクはS。

※アダマンタイト:ゲームやファンタジー小説によく登場する架空の鉱石、だったもの。一見すれば鉄と変わらないが、硬度は段違い。加工も相応に手間がかかり、錬金術による精錬、加工しかコスパのいい手段がない。アダマンタイトを扱いきれるのは、今のところ太陽系惑星連合軍の研究所や兵器開発室か、軍関係の技術者のみ。烏の肉切り包丁や剣聖のツヴァイヘンダーも純アダマンタイト製。実は烏が錬金術の実験で作った試作品だったりする。

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