16. ガラを寄越せぇ!

 


 「かいっほうっかんっ」

 〝わこ…なにこれ。え、自宅配信?〟

 〝わこつ…?え、烏さんどうした?〟

 〝わこつ。唐突なコロンビアどうした〟

 〝なんだっけ、それ〟

 〝大昔からあるガッツポーズ、コロンビアポーズ。両腕の肘を伸ばさないのがポイント〟

 〝なるほど〟

 〝おつー。2週間も拘束されてたから開放感を味わってんだろ〟

 〝拘束…って、ああ、こないだの崩壊かぁ〟

 「うちのログとおっちゃんのログから、いろいろシミュレートかけたりなんやりしとってん。おっちゃんなんか終わって早々に巣まで走って帰ったわ」


 記録映像から魔素検知できる装置、てか魔道具…造っといてよかったんか悪かったんか…

 いや、ダンジョン崩壊のメカニズム解析は重要やってのはわかっとるんよ。やけえって、体いる?ログ渡しとるやん?検査も1回でええやん?なんで2週間も拘束されてん…高濃度の魔素に精神が触れたっちゅーても、人格データに異常もなかったし…


 〝巣って…〟

 〝言い方ぁ!〟

 〝あー、ナイフパイセン、今北に居着いてんだっけ〟

 〝走って帰ったのか…ワープポータルあるのに〟

 〝体動かしたかったんでしょ〟

 〝普通に走っても1ヶ月はかかるんですが?〟

 〝まああの人ならサバイバル余裕っしょ〟

 〝なんなら3日間飲まず食わずでも活動できる〟

 〝んで、どこに行くん?〟

 〝自宅配信じゃないの?〟

 「ポイズンラプター狩り」

 〝諦めてなかった〟

 〝そりゃな〟

 〝ラーメンに使えるといいなぁ〟

 〝崩壊したNo.0052以外だと、中央に近い出やすいとこなくない?〟

 「南寄りにあるで。No.0394ダンジョン」


 巣穴とか蟻塚とかが入口になっとるとこって、ナンバー何々○○ダンジョンって言わんのよな。なんでやろ。わかりやすい特徴あるけど見分けがつかんけえやろか?


 〝あー、おみくじダンジョン!〟

 〝わざわざナンバー語呂合わせしたとこじゃん〟

 〝日替わりで出てくるモンスター変わるとこだっけ〟

 「そうそう。ドラゴン系も出るっちゃ出るけど恐竜系限定なとこ。それでもSランクからやないと入れんな」

 〝なるほど。恐竜系出るならワンチャンありそうか〟

 〝あれ、そういえば先輩、畑は?〟

 〝あ、そうだ。畑2週間も放置ってやばいじゃん〟

 〝クローン増やしたとか?〟

 「いや、雇った」

 〝おお、よかったな〟

 〝雇われてくれる人がいたか〟

 〝やったぜ〟

 「っちゅーか、軍が詫びにって人寄越した」

 〝あー…〟

 〝なるほど。拘束されたら畑の作物のマンドラゴラ化防げないもんね〟

 〝軍としてもそれはさすがに我慢しろとは言えないか〟

 〝ってかモンスター発生させるのを良しとはしないだろ。いくら数時間で死ぬって言っても〟

 〝それもそうか〟

 「ついでにもう1週間おってって雇った」

 〝なるほど〟

 〝ん?1週間?〟

 〝………烏さん?〟

 〝おい、まさか…〟

 「うちは!ラーメンが!食いたい!」

 〝籠るつもりだこれー!〟

 〝よく見たらいつもと違うポーチだ〟

 「手持ちん中で一番いっちゃんクソデカ容量な亜空間ポーチ!これでぎょーさん素材確保や!!」

 〝草ァ!〟

 〝信じられるか?これがスローライフしたいって軍辞めた人なんだぜ…気迫がまだまだ現役じゃんよ…〟

 〝そりゃクローン1体が傭兵としてまだまだ戦場で活躍してっからな。小競り合いだけど〟

 〝なるほど、それでか〟


 インスタントちゃう、手打ち麺に炊いたスープのラーメンが食いたいんや!






 〝荒れてんなぁ、相変わらず〟

 〝荒野だからね〟

 〝ぱっと見でダンジョンの入口見つけられないのが多いとこだ〟

 〝看板立てといても竜巻でどっか行くんだよな…〟

 「やけえって魔道具看板はコスパ微妙やねんなぁ」

 〝あれば助かるけど、採算度外視しないとってとこか〟

 〝気が向いたら作って置いてみるかなぁ、ギルドに許可取って〟

 〝有志が置くのもありか。ちょいとギルド上層部に具申してみよう〟

 〝ありがてえ〟

 〝お、30km先かな?竜巻発生した〟

 〝お、お?おお、あの砂嵐か〟

 「南行きよるっぽいか。ならセーフや」

 〝荒野入口から歩いて10分足らず、とは言え…入口どこ?ってなるなぁここ〟

 「蟻塚がそれなんやけど、その蟻塚が乱立しとるけえ探しづらいわ…」


 蟻塚うとるけど、見た目がそれっぽいだけの何かみたいやけどな。蟻おらんもん。やのに崩してもまたいつの間にかできとる。謎やわー。


 「あー、看板ボロボロんなったのが転がっとるわ」

 〝文字も読めねえ…〟

 〝ギルドのマークも掠れちゃってるねえ〟

 「とりあえず回収して、後でゴミ捨てや。ところでそろそろやと思うんやけど…」

 〝あ、あの3本の高さと細さが同じ蟻塚!確か目印!〟

 「…お?あれかー。3キロ先くらいやな」

 〝見えねえ〟

 〝目の検査したほうがよくね?〟

 〝だなぁ…最近めっきり視力落ちちまって…〟

 〝検査してもらいなー。同期の子がそれで検査したら血管詰まってたとかあったし〟

 〝うお、マジか〟

 「明日は確か総合医のせんせー休みやろ。今日のうちに行きやー」

 〝おう、行ってくる〟

 〝いってらっしゃーい〟

 〝待ってるよー〟

 〝先生いて草〟

 〝見てんのかーい〟

 〝休憩中だからねー〟

 「コーヒー飲みすぎんなや?」

 〝大丈夫、3か4で抑えてるー〟

 〝それ、ちゃんとカップで飲んでます?〟

 〝うん〟

 〝カフェインレスのやつにしたほうがいいんでねーの?〟

 〝コレジャナイ感すごくない?〟

 〝わかる〟

 〝そう?〟

 〝そこまでコーヒー飲まねえしなぁ〟

 〝それ。トイレ近くなるし〟

 「腎臓やら膀胱やらを機械化したやつおったなぁ…排泄管理がめんどくさいっちゅーて…つーいたー」

 〝おー。歪んでる蟻塚がそれかー〟

 〝そうか、先生ダンジョンの入口見たことないんだっけ〟

 〝探索者じゃないからねぇ…話には聞いてたけど、本当に空間が歪んでるんだねー〟

 〝それもそうか〟

 〝それより烏さん今しれっとなんか言ってなかった?〟

 〝膀胱周りのサイボーグ化はやってるやつ多い気がする〟

 〝いるのかぁ…〟

 〝ダンジョンにトイレなんてねーしなぁ〟

 〝ポータブルトイレ持ち歩いてるけど、いつでもどこでも使えるわけじゃないのがね…〟

 「魔法で解決やで」

 〝魔力に余裕あればそうするよ!〟

 〝言うてそんな魔力使う?〟

 〝あ、身体強化と同じ理屈か。魔力抵抗の有無〟

 〝そう〟

 〝あー、なるほど〟

 〝把握。そりゃ魔力に余裕なきゃ使えないか〟

 〝魔力回復薬があればいいんだけどねぇ〟

 〝まだまだ宝箱産頼りだなぁ、そこらへん〟

 「草は一応、うちのダンジョンからいくらか軍の研究所に卸しとるけど…まあ、上手いこといかんみたいやな」

 〝探索者も大変だねぇ…そろそろ休憩終わるのでここらでしつれーい〟

 〝仕事してらー〟

 〝カフェイン中毒で倒れないようにねー〟

 〝医者の不養生、要注意〟

 「ほんまそれ」


 そもそも先生のカフェイン許容量が極端に少ないってのも原因の一つなんやけどな。にしても本人コーヒー好きやけえって、マグカップ10杯以上飲むんもどうかと思うけど…半分の5杯までならともかく、10は多いて。

 まあ、大丈夫か。そこらは看護師さんの見張りついたし。

 さーて入ろ入ろー。






※ギルドの総合医:ギルドの支部ならどこにでもいる医師の中でも、多数の医学分野に精通した医師。アラスタには4人いる。何かしら体調に不安があれば、総合医にかかる探索者は多い。AI任せにしたい、というほどなかなかブラックな環境にいる医師や、完全週休二日制で1日8時間残業なし休憩ありの比較的ホワイトな環境にいる医師がいる。ギルドがAI任せにしない理由は、AIでは対応できない心遣い、配慮が必要な場面があるため。一部ではAIで対応することもあるが、基本は元AIの情報生命体含むヒトが対応する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る