04. ジャーキー作るよ!



 「突撃ブル肉でジャーキー作りや!」

 〝わこつー。烏さんの自宅配信だー〟

 〝わこつ〟

 〝おつかれさまっす。ジャーキーどんくらいギルドに売ります?〟

 「10本セットを500の予定や」

 〝おっ、俺らもありつけるかな?〟

 〝先輩お手製の突撃ブルのジャーキー、酒呑みに人気すぎてなかなか手に入らないっすからね。500出してくれるならワンチャンありそうっす〟

 〝おつおつー。ジャーキーいいなー〟

 〝あれ、疾風さん、アラスタにいないんすか?〟

 〝うん。今ゴデア〟

 「ゴデアのてんてん魚介ダンジョン、また行きたいなぁ…」

 〝てんてん…あー、No.1010海上ダンジョン〟

 〝行くのが大変なとこじゃん〟

 〝俺も行きたいけど行く暇あるかなぁ。あそこの蛤焼いて食いたい〟

 〝いいっすねー。酒蒸しもいいけど浜焼きもうまいっすよね〟

 〝醤油をちょろっと垂らしたやつとかな。味を思い出しただけでよだれが…〟

 〝でも渦潮の中に入るの怖くない?いまだに行けてないんだよ、あそこだけ〟

 〝見てる分には怖いっすけど、実際は他のダンジョン入るのと変わんないっすよ?渦潮の真ん中めがけてジャンプっす!〟

 〝するんっていくよな〟

 〝入る難易度が高め?だからか知らないっすけど、ダンジョン自体の難易度低めなんで、1階とか2階ならバーベキューできるっすよ!〟

 「たまにクラーケン出るけどおとなしいで」

 〝タコ系、イカ系、クラゲ系、どれもおとなしいっすよね、不思議なことに〟

 〝ダンジョンに生息してる普通の魚とか分けてくれる〟

 〝どういうことなの…〟

 〝あそこのダンジョンのクラーケン、通常種でも知性がある気がしてならん〟

 〝わかる〟

 〝意思疎通もなんとなくできるんすよね〟

 〝どういうことなの…〟


 たぶん、考えたらあかんやつちゃうかな。

 さてさて、魔法で乾燥中のジャーキー用ブル肉はどんな感じやろか?


 〝今回塩抜きどんくらい?さっと?漬けて?〟

 「突撃ブルの肉やからさっとやな。表面の流しただけ。朝作った熱燻のやつもそれや。アラスタ基本レシピ集のピックル液ベースで、スパイスの種類増やして、砂糖2%、塩4%でやっとる。この肉、塩多めにしとるとさっと流しても塩っからいし、やけえて水漬けると塩っけと一緒に旨味も逃げてまうんや」

 〝できあがりはポークジャーキーみたいなのに、そこらへんはビーフジャーキーと一緒なんすね〟

 〝思った。ブル肉ってソミュール液につければ焼いてもワンチャンあるんじゃないかって〟

 〝あー、うーん?どうなんすかね?他の肉ならありだし、なんかいけそうな気がする〟

 「って思うやん?無理やってん」

 〝結局ー〟

 〝火通したら硬くなるのは変わらずかぁ〟

 「塩抜ききっちりしてないやつは味濃すぎて、しばらくそれの味しかせんかった。しかも噛んだらとにかく硬い。ジャーキーみたいに解けん。噛んでも歯形がつくだけや。ナイフで削れるけど、かけら噛んでも噛めへん。口ん中でふやかしてやっとや…あれはもう、燻製にしたのとさして変わらんかった…」

 〝うわぁ…〟

 〝先駆者には感謝っす…〟

 「まあうちが試したわけちゃうけど。りくがどうにかして焼肉にできんか試しよってん。うちは試食させられただけや」

 〝あの料理研究家でもダメだったのか…〟

 「今もまだどうにかできんか研究はしとるみたいやけど、進捗はないって」

 〝何が原因なんだろうなぁ?〟

 〝魔素が影響してるって説はあるっすね〟

 〝味には影響してんだよな。魔素ありは旨味成分が増幅されてるけど、魔素なしになると旨味成分が半減してたはず〟

 〝でも柔らかさには影響してない、と…うーん、魔法で焼くとか?〟

 「ジャーキーでそれするとめっちゃ美味かったで」

 〝旨味増しちゃったかー〟


 今回のジャーキーも、魔法の火ぃつけたスモークウッドで冷燻予定やでー。

 うん、乾燥もええ具合やし、そろそろ燻してまうか。


 〝そういや変異種ブル、結局連れ帰ったん?〟

 「せやで。今うちの庭に生えたダンジョンに放しとる」

 〝あー、珍しいワンフロアフィールドのとこでしたっけ〟

 「そうそう。クッソ広くてボスが徘徊しとるやつ」

 〝家にダンジョン生えるとか一般人には恐怖なやーつ。ボス強い?〟

 「戦ったことないけんわからんけど、強いっちゅーかめんどくさい、かなぁ。ちなみにおとなしいやっちゃで。なんせボスが変異種の岩石カウやし」

 〝お、じゃあ乳搾りいける?〟

 「やろうと思えばやれるけど、乳搾り下手なやつは本能的に察知するんか、ボスが蹴り飛ばしに来る」

 〝こわ〟

 〝他には何も出ねーの?〟

 「他はマーダーグースくらいやで。ただ、あいつら人間しか狙わんからな。岩石カウは食事の邪魔されん限りはマーダーグースの相手なんかせんなぁ」

 〝あー、昨日微妙な顔して肉焼いてたのはそれもあったのか〟

 〝いつでも食える肉食っても、って感じっすねー〟

 「ほんまそれ」

 〝そんなとこに変異種ブル突っ込んでよかったん?〟

 「なんか知らんけど歓迎されとったで」

 〝なんで?〟

 「知らん」


 変異種カウと変異種ブルが頭ぶつけ合った時はどうなるかと思ったけど、なんかその後意気投合しとったんよなぁ。単純に気がうただけなんかもしれん。

 んー、温度確認…うん。20度。オッケーオッケー。1日も待たれへんから、温度を維持しつつ時間加速してー…うーん、継続させるんなら5分を1分にするんが限界かな。朝から魔力使い過ぎたわ。念の為魔力回復するってボスに渡された草食っとこ。


 〝なんか草食いだした〟

 〝あれ、その葉の形、魔力回復薬に使えるんじゃないかって研究されてるやつでは?〟

 「たぶん?ボスにもろうた。ここのダンジョンのボス」

 〝…ボスと契約してるっすか?〟

 「んにゃ。一時期やっとったけど、群れのカウらが羨ましがってからはやってへん。ボディランゲージと目でなんとなく伝えたいことはわかるしなぁ。報告書は上げとるで」

 〝あ、よかった。また突き上げくらうかと思ったっす〟

 〝ゲームにもあるポーションなぁ…ダンジョンの宝箱からしか出てないんだよなぁ…〟

 〝再現は今んとこできてないっすねー〟

 〝宝箱も謎だよなぁ。人によっちゃ見えねーし〟

 〝見える人にしか開けられない宝箱…魔法で化かされてんじゃねーのって思ったよね〟

 〝物によっちゃ開けた人にしか使えないアイテムが出たりするのも不思議っすよねぇ〟

 「宝箱狙いやと、とにかくいろんなダンジョン潜ってくまなく探索せんとなんよなぁ…」

 〝トレジャーハントな探索者が減るわけだよな。見つけたくても見つけられねーもん〟

 〝もはや探索者じゃなくて狩人になってるわ〟

 〝そもそも探索がろくにできない〟

 〝何泊かできれば違うんでしょうけどね…あ、結界、魔素密度上げて強度は問題なくなったんすけど、今度は持続しなくなったっす〟

 「あー…」


 結界、魔法で存在せんもんを無理矢理作っとるからか、魔力消費激しいんよなぁ。魔力多いほうであるうちでも、

 ・平面1ヘクタール、高さ5メートルの範囲

 ・中から外に出る、外から中に入る、は不可

 ・荷電粒子砲を5分連続で受けても壊れん強度

 っちゅー条件で1日張り続けるんが限界。それも他の魔法使わん状態でや。他の魔法も使いながらやと、確実に1日も持たへん。


 「範囲かなり狭ぁなるけど、もういっそテントの布地に結界効果付与するとかどないや?」

 〝その心は?〟

 「ない物作るのって魔力消費すごいねん」

 〝あ、だから魔力持たねーのか!〟

 「そりゃもちろん、機能削れりゃそれだけ魔力は温存できるで?ただ元々の消費が激しゅうてなぁ。それでも1時間しか持たんかったのが3時間は持つようになったとかあるけえ、無駄とは言えん」

 〝なるほど、昨日の書き出しは無駄じゃないと〟

 〝それでもやっぱ持続性の面では不十分っすね〟

 「やけん、元々ある物に機能追加したりゃあええんちゃうかなって。防御とか反射とか強度強化とか」

 〝…確かに。形状にはよるでしょうけど、いけそうな気がするっす!〟

 「今開発しよる結界発生装置の結界を張る対象をテントにしてみるだけでも、効果時間変わると思うで」

 〝やってみるっすー!〟

 〝なるほど、エンチャのほうが持ちがいいと〟

 「あー、確かにゲームでうとこのエンチャントやな」

 〝結界発生装置の元々の想定より展開範囲狭まりそうだけど、大丈夫なんかね?〟

 〝キャンプにはよさそう〟

 「ブッシュクラフトに展開するのもよさそうよなぁ」

 〝ブッシュクラフト!いいねぇ、夢が広がるねぇ!〟

 〝木の上に仮拠点作る時にもよさそう〟

 「うまくいってくれるとええなぁ」


 それはそれとして、魔力、回復した気があんません…まあええか。

 口ん中がペパーミントで舌が痛い。香りはペパーミントメインで、ほのかにラベンダーっぽい感じもあるんに、味はペパーミントオンリーやったわ…ヒリヒリするぅ…






※疾風:コードネーム疾風はやて。48世紀半ばに勃発した第三次太陽系防衛戦争で徴兵された、日本人男性の元プロゲーマーの現傭兵兼探索者。戦時中に左腕を失くし、兵装義手になった。その後、時々とある二年生な病を発症するようになった。お調子者だが、やるべきことはきっちりこなす。危険察知能力と脚力が元一般人とは思えないほどずば抜けており、その脚を活かして、地上戦闘でポーターやメッセンジャーの役割をしていた。ダンジョン探索の際はパーティを組み、主に斥候を担当する。得物はリボルバーとナイフ。得物が通用しない相手には魔法で対応も可能。軍が新しく発見したダンジョンがあれば、その調査によく駆り出される。軍属ではなくなったため断ろうと思えば断れるが、報酬がいいので積極的に受けている。お金大好き。

※クラーケン(英語圏ではKraken):イカ、あるいはタコの怪物から名称をつけられた、巨大化した海洋生物型モンスターの総称。理性と知性を持ち、温厚な個体が多いが、稀にケンカ好きとも言える好戦的な個体もいる。触手を持つ生物を元にした姿であることが多い。クジラ系のクラーケンもいるが、とても珍しく、まだ2体しか存在が確認されていない。温厚な個体はダンジョンにやってくる探索者と仲良くなろうと、ダンジョン内に生息するモンスターではない普通の魚や貝をくれたりする。イカ系やタコ系は仲良くなると触手を分けてくれる。味は特別美味しいわけでもなく普通。ただ、食べるとちょっとだけ疲れが取れる。

※岩石カウの変異種:別名、岩山牛。通常種は普通の牛サイズだが、変異種はその10倍。稀に体表の岩石にレアメタルが含まれているため、企業所属の探索者が狙っている。が、そもそも変異種がいるところまで辿りつけなかったり、運良く遭遇できても倒せず、体表の岩石を砕いて石ころサイズをいくつか、どうにか持って帰るので精一杯。烏の家のダンジョンにいる、ボスと呼ばれている個体はかなり温厚だが、他のダンジョンでは気が立っていて荒々しいことが多い。討伐推奨ランクはExエクストラ

※惑星ゴデア:木星と同じくらいの大きさの海洋惑星。海に対して陸地が1割未満と少ない。南極に相当する場所の陸地が最も大きく、ユーラシア大陸程度。海中にダンジョンの入口が多く存在する。一部探索者からは魚介の惑星と呼ばれている。

※魔力が回復する草:五芒星の形をしたエメラルドグリーンの葉を持つ植物。魔力と呼ばれる、魔素に干渉可能なエネルギーを回復する効果を持つ。ただし、一掴み分で回復量はごくわずか。摘み取った後、空気に触れすぎると効果がなくなる。烏はボスからそのことを聞いていたため、真空保存用の袋に入れていた。

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