第27話 ルール


 超能力部の活動について。

 やはり意義を申し立てる人間もいる。鬼円でも、香蔵でもなく、意外や意外、狸吉であった。

 職員室で、お互いに……否、狸吉は黎矻を睨みつけていた。


 「……また来たのか」

 「私は諦めが悪いですから」


 狸吉がニヒルに返すと、ため息をついて頭をポリポリと掻く黎矻。

 黎矻はキッと狸吉を睨み返す。


 「何度も言うが、変える必要は無いし、変える気もない」

 「でも、それで活動が自粛されてしまっては元も子も……それに、『依頼箱以外の依頼は受けない』なんて無茶苦茶じゃないですか!」

 「……大体、なんで人助けのはずなのに怪我をする羽目になってるんだ?」


 小村樹の件に、迅瓶の件。そのどちらも怪我人が出ている……とは言っても春乃や鬼円だけだが。

 狸吉は小村樹を一発KOに、迅瓶も鬼円の『犬ノ太刀』でKO。

 そのどちらも、暴力的な解決であることに変わりはない。


 「他の学校の奴に手助けするほどの余裕はあるのか?」

 「そもそも、他の学校とは言っても、夏休み期間だったりすれば代わりないじゃないですか」

 「あー言えばこー言うだな全く……」


 お互いにさらに睨み合う。

 黎矻は教材を整えて立ち上がり、狸吉の横を通る。


 「! 先生!!」


 だが、その声は黎矻には届かず、職員室を出てしまった。

 狸吉は唇を噛み締めた後、教室に戻るために職員室を出た。






 ◇◆◇






 「も〜〜何言っても聞いてくれな〜〜いっ!」

 「ははは、狸ちゃんが凄い〜」

 (なんで公の場で抱き合ってんだこの人たち)


 本日の部活のメンバーは香蔵、狸吉、鬼円の3人のみ。

 春乃は冷世の件で居らず、家に泊まっている鶴愛も来れないらしい。ので3人のみ。


 ──⋯⋯今日は厄日か?


 そう心の中でクソデカため息と共に白目を向く鬼円。

 元々この3人だけだったのであんまり気まずくは無い。

 が、狸吉が香蔵に甘えていると2人だけのムードというか、世界が出来上がってしまうので、この場合鬼円1人取り残されることとなる。


 (帰っていいよなコレ……?)


 心の中ではそう言いつつ中々帰れるムードでもないのでソファーで刀を磨く。

 狸吉が香蔵から離れ、鬼円の隣に座る。


 「どうしようか……」

 「あの顧問は中々動いてくれませんよ。やっぱぶった斬る?」

 「暴力的解決は良くないな……」


 そう言っていると、ガララと扉が開く。能力者だったら不味いので、刀を隠す鬼円。

 入ってきたのは…………意外、春乃であった。


 「……どうした?」

 「…っ……私……!」


 春乃は決意めいた目で鬼丸達を見た。

 それを見て、鬼円は何かあったに違いないと心の中で察する。


 「私、冷世助けたい!」

 「……落ち着け、何があった?」


 春乃を取り敢えず座らせ、事の発端を聞くことにした。


 曰く、冷世と話しながら校舎を出てから別れ、部活に向かったらしい冷世を影から追いかけたんだそう。

 その時に、すれ違った同じ部活の女子達の会話が耳に入った。


 『冷世、早く辞めてくんないかな』や『アイツウザイんだよね〜』とここまでは陰口でいい。だが、問題はその後である。


 『やっぱ、服も切る?』


 それを聞いた春乃は、その学生を問いつめたらしいのだ。


 「おいバカ、何されっか分かんないのに何してんだ」

 「だって、冷世ちゃんをバカにしてるのが癪に障って……!」

 「まぁまぁ、それで、なんて?」

 「…………はぐらかされた。もっと強く聞いておけば……っ!」


 ──クソ野郎が。

 心の中で悪態をつく鬼円。もっとも、これを公表すれば良いという話なのだが……。


 「でも、何故か証拠が出ないんだよ。言葉だけだと、信用性が無い……」

 「……証拠がないだぁ?」


 鬼円はその言葉に反応する。

 それはそうだ。今までにそういう話があったことも知らない。ならば、証拠が出てくるはずがないのだ。


 だが、違和感がある。

 どうやって隠れ凌いだのかだ。


 「冷世ちゃんは何にも言ってなかったけど、靴が違かった気がする……」

 「………流石の先生でも靴の違いぐらいは分かるだろ。それも頻繁に変えてたらな」


 狸吉が考え込む。

 すると、香蔵が立ち上がる。


 「いじめは見過ごせない……解決しなきゃだね」


 すると、春乃が待ったをかけた。

 本人が待ったをかけるのはどうなんだと鬼円は呟くが、話を聞く。


 「部活の、ルール……」

 「…あっ、『依頼箱以外の依頼は受けない』……!」

 「そんなもん無視すればいいだろ!」

 「いや、無視したら先生が何を言うか分からない……」


 鬼円が叫ぶも、香蔵が静かに告げる。

 4人が黙り込む。

 助ける事は決定。だが、本人が助けを求めていない以上、どうも出来ない。


 考え込んでいる時間は過ぎていき、部活終了のチャイムが鳴ってしまった。


 結局、これと言った意見は出ずに終わってしまった。

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