第26話 メッセージと好きな物


 『冷世が虐めにあってるだ?』


 結局、私は鬼円に相談してしまった。

 彼女からしたら、もしかしたら他人に話したく内容かもしれない。だけど、放って置ける問題じゃない。

 鬼円からの返信はしばらく遅れてから来た。


 『進学校には虐めはないって聞くけどな……』

 「そもそもここって進学校なの?」

 『……いや、そもそも進学校ってのは大学・短期大学への進学実績が高い学校のことだからそんな関係は無いがな』


 へ〜。

 私は鬼円の話に驚きつつ、頷く。っていうか、そういうこと鬼円が知ってるのがビックリだよ。

 鬼円は少し間があった後にメッセージを送ってきた。


 『兎にも角にもアイツが超能力部ここに助けを求めない限り、動けない』

 「そうだよね……ごめん。ありがとう」

 『この話は黙っておいた方がいいな。ま、そういう訳だ。おやすみ』

 「うん。おやすみ」


 私がメッセージを送った後、鬼円からのメッセージは来なかった。寝たのだろう。

 私は布団に顔を埋め、考え込む。

 きっと、どこか辛い思いをしてるんだと思う。私はぼっちではあったものの、虐めに会ってなかったし、分からない。

 だからこそ、助けてあげたい。どうにかして。


 だけど、どうすれば?


 「…分からないや……」


 私はそう呟いてから目を閉じて、意識を手放すのであった。





 ◇◆◇






 次の日の朝。

 早めに登校した私は、外に出て、陸上部の活動を見ていた。

 冷世ちゃんは、ふぅ、と息を吐いた後に、クラウチングスタートの構えを取って走り出した。


 ……やっぱり。

 スケートみたいな走り方をしている。普通スケートみたいな走り方をしても、あんな速くはならない。


 「まさか、能力…?」


 最初の時に、香蔵さんが言ってたな。『私も5人ぐらいしか見た事ないよ』って。

 鬼円に狸吉さん。あとは、鶴愛さん……そして、あともう1人。

 冷世ちゃんが能力者だとしても違和感はない。


 「……あっ、春乃。どうしたの?」

 「冷世ちゃんって、もしかして……超能力者?」


 私の言葉に冷世ちゃんがフリーズするように固まった。

 あぁ、図星なんだ……。


 「……見えてるの?」

 「うん。だから超能力部にいる」

 「…そういえばそうだったわね……」


 冷世ちゃんは頭を抱え込んで、「気づけよ私のバカ!」と叫んでいる。

 そんな冷世ちゃんのことを見て、ははは、と苦笑いを浮かべる。


 「冷世ちゃんの能力は?」

 「……『氷』そのまんま、氷を生み出したり、地面を凍らせたり出来る…」

 「へぇ、凄いじゃん!」


 あれ?全く嬉しそうじゃない?

 私がそう思っていると、顔を逸らしていた冷世ちゃんがこちらを向いてきた。


 「で、あなたも何かあるの?」

 「………い…」

 「はい?」

 「……ナニモナイヨ」

 「あっ……」


 やめて冷世ちゃん。そんなふうに見ないで?なんでそんな、可哀想なものを見るような目でこっちを見るの?やめて?


 「……なんか、ごめん……」

 「謝らないでよ……余計傷つく…」


 冷世ちゃんが、オロオロしだす。

 ってあれ?冷世ちゃんは超能力者……じゃあなんで超能力部に入らないんだろ?


 「超能力部には?」

 「……何回も勧誘されたよ。それでも、私は入らない」

 「なんで?」

 「……が、好きだから」


 風?

 私は首を傾げた。


 「ほら、自転車に乗ってる時とかさ、涼しい風来るでしょ?あれが好きなの」

 「へぇ……珍しく…はないか」

 「風で髪がなびいて、清々しい気分になれる。だから好きなんだ」


 語る冷世ちゃんの目は、キラキラとまるで子供が好きなことを考えている時にする綺麗な目をしていた。

 水色の目だから、余計に綺麗に感じた。


 「どうしたの?」

 「え?いや……綺麗だなって」

 「ふふ、ありがと。さて、そろそろ教室に行かないと。時間に間に合わないよ?」

 「あっ、ヤバい!急ご!」


 私はそう言って駆け出そうとして、後ろを振り向く。


 「あっ、そっか……冷世ちゃんは着替えなきゃか!」

 「え、あっうん」

 「じゃあ、また後でね!」


 その時の冷世ちゃんの顔をよく覚えてはいないけれど……。

 どこか、もしかしたら、悲しそうな顔をしていたのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る