第25話 放課後の告白
鬼円に部活に出ないことを伝えてとお願いしてから春乃は一旦外に出た。
掃除が終わり、担任に教室を使いたいということで鍵を借りて、冷世が来るのを待った。
ガララと教室の扉が開き、冷世が姿を見せる。
「……で、話って?」
「……いや、ただの疑問なんだけど」
冷世の言葉に春乃は豆鉄砲を食らったような顔をする。
そして、冷世は笑いながら、言う。
「世界に虐めってどのくらいあるんだろうね?」
「……なんで?」
「だから、ただの疑問よ」
春乃は心の中で、なにか不気味なものを感じる。
いつもなら、もうちょっと健やかに、にこやかに笑うはずの冷世の姿が、少しだけ怖かった。
なにかに思いつめられているのか? それとも、この疑問は……。
嫌な予感が駆け巡り、口を開く。
「そう……だね。社会現象になってるぐらいだしね…いまも、虐めは無くならないみたいだし」
「そっか。春乃なら、いじめの現場を見た時、どうする?」
「どうする…か……」
春乃はしばらく考え込む。
それを見て、冷世は目を閉じる。
───あぁ、
心の中でそう思う。
すぐに、答えがパッと出ない。それはつまり、迷っているということだ。
迷っている人に、例え助けを求めたとしても、どうせ裏切られるだけだ。
「助けたい……とは思う」
「……思う?」
いつも聞く答えは、「助けたい」
口先だけの、なんの重みも乗っていない言葉。だけど、春乃の答えを聞いて疑問を浮かべた冷世。
「うん。助けたいよ。そりゃもちろん……だけど、もし助けられなかった時が怖い…かな」
「……怖い? なんで?」
「だって、例えば、親友が虐めにあってたとして、それを助けられなかったら……裏切り者って言われるかもしれない。それが怖いんだよ」
春乃の言葉に目を見開く冷世。その目はこんな人間がいるのか、と物珍しいものを見てそうな目だった。
「だからって、諦めたくないな……。と私は思う」
「…あなたは……あなた、正義感が強いって言われない?」
春乃は首を横に振る。
「いや、私友達いないし……」
「……それは…ごめん……」
冷世が謝ると、春乃は再び首を横に振り、別にいいよと言う。
冷世は一瞬だけ、光が見えたような気がして、数秒考え込む。
──彼女に助けを求める?
唯一の友達、この、
だからこそ……。
「いや、まぁ……正義感が強いのはいい事だよ」
「そうかな…? へへへ…」
「…そろそろ5時になるわね。帰るとしましょうか」
「そうだね……」
冷世はカバンを持ち、教室から出る。
その背中を、春乃は心配そうに見ていた…。
◇◆◇
何が言いたかったのだろう……?
私は心の中でそう呟く。今日の放課後にあった冷世ちゃんとの、2人っきりでの話し合い…。
正確に言えば、話し合いと呼べるかは不明だけれども、とにかく話をした。
『世界に虐めってどれくらいあるんだろうね?』
冷世ちゃんの台詞が頭の中で強くこびりついている。
何かを…待ってる? いや、どちらかと言えば……助け? もしかして何かあった? イジメ? 誰に?
「…さん」
イジメ…部活? いや、でもそんな風には見えなかったし……。
「……乃さん!」
もしかして、教室内? 私が見てないだけで、他の人たちから虐められてる?
いや、そんなことは無いはず。実際、いつも冷世ちゃんの近くにはいるし、そういうことがあったら蟹菜ちゃんが許さないだろうし……。
「春乃さん!」
「……はっ!?」
鶴愛さんに呼びかけられて、ハッとなって横を見る。
鶴愛さんは、不安そうに私を見ていた。……相当考え込んでいたらしい。
でも、何をそう焦ったような顔を…?
「春乃さん! 目の前! 目の前!」
「目の前…? あっつ!?」
鍋がグツグツと沸騰していた。しかも、結構な勢いで。その影響か沸騰した水が私の手に跳ねてくる。
手をブンブンと降ってから、水をかける。
「熱っ……」
「大丈夫ですか? 結構考え込んでたみたいですけど……」
私は頷いて、大丈夫大丈夫と呟く。
熱かったけれども、沸騰してたのに気がつかなかったな……。
私って、考え込むと周りが見えなくなったりするのかな?
「ご、ごめんね? アク抜き今からするから!」
「私も手伝いますよ」
「ありがとう! 助かる!」
鶴愛さんと一緒に鍋からアクを抜き、鍋を運んで遅めの夕食を食べ始める。
肉はいい噛みごたえ……!
「何かあったら言ってくださいよ? 仲間でしょう?」
「……仲間…か……ふふ、なんか良いねそれ」
「喜んでいただけたら……そうだ! 服編んだんですけど…」
「あぁ、そういえば作ってたね! あれ完成したの?」
鶴愛さんは「はいっ」とにこやか笑顔で頷く。
その話で夕食は、楽しい感じで進んで行った。だけど、冷世ちゃんの話が頭の中でこびりついてて……。
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