第20話 欲望


 「……うっ……あぁ……?」

 「鬼円! 大丈夫?」


 起きた鬼円の顔を私は覗き込む。

 綺麗で深い黒色の目が私を見る。なんか、恥ずかしいような…?

 すると、鬼円が体を起こす。その頭には、包帯が巻かれていて、周りを見回している。


 「……音流先輩は?」

 「隣の部屋で、ケン君って人を見てます」


 そうか。と呟く鬼円。

 その鬼円の脳天に拳が突き刺さった。結構いい音が鳴り、鬼円も流石の痛みに耐えれないのか、頭を抑える。


 「何してんじゃお前は!!」

 「…っ痛ぇなぁ! 帰ってきてやがったのかこのクソジジイ!!! 」

 「ちょ、鬼円!」


 私は青筋を再び浮かべている鬼円を抑える。

 鬼円のお爺さん……鬼円國綱さんは、ため息をつく。


 「あれほど問題を起こすなと…」

 「はぁ?! 先輩守って何が悪いんだ! ぶっ飛ばすぞ!!」

 「鬼円! 言い方言い方!!」


 私が言うと、國綱さんは、私の肩に手を置き、首を横に振る。

 え、なんでそんなもう手遅れだ。的な目で私を見てくるんですか?


 「鬼円は、頭大丈夫なのか?」

 「あぁ?」

 「いや違くって、傷の方ね??」


 狸吉さんが頭の心配をすると、鬼円がさらに青筋を立てるので、傷の方と弁明をする。

 鬼円は頭の包帯を手に掴み、まぁ大丈夫だろと言う。良かった…大事なさそうで。


 「國綱さん、すみませんこんな事になっちゃって…」

 「いいや、ええんじゃよ別に。不可抗力じゃろうて」

 「あぁっ?! じゃあなんで俺を殴ったんだよ!!」

 「拘束するという案は無かったのかこのバカタレ!!!」


 …なんだろう。

 鬼円と國綱さんって顔を見合わせる度に喧嘩するのかな……。國綱さんはブツブツ言いながら部屋から出ていってしまった。

 すると、音流さんが顔を出してくる。


 「あ、起きたのか鬼円…」

 「音流先輩。彼氏の様子は?」

 「今のところは、特に……。あと、ありがとう」


 音流さんは鬼円に向かって頭を下げた。

 それを鬼円は驚いた様子で見ていた。


 「私、私……。何も出来なかった……! 戦うことも、止めることも……! ケン君を……! ケン君を止めてくれて……! 本当にありがとう……!!」

 「音流先輩……」


 音流さんは涙を流しながら、そう言う。

 鬼円はかける言葉を探すかのように、目を閉じて、考え込む。

 すると、隣の部屋に繋がっている襖が開く。

 そこには、先程の大男が立っていた。


 鬼円は木刀を手に持ち、私も立ち上がる。

 すると、大男は手を振って、違う違うと言った感じで首を横に振る。


 「も、もう何も無いよ!」

 「あぁ?! 信じられるかんなこと!」

 「もしも敵意があったらもう戦ってるよ!」


 大男の言葉に鬼円は顔を顰めながらも木刀を置く。

 大男は座ってから、土下座をする。


 「すまなかった。謝らせてくれ」

 「ケン君!?」

 「僕はどうかしてた。音流にしっかりして欲しくって。いつの間にかこんな事になってて……」


 ケン君と呼ばれた男は、そのままの状態で言葉を続ける。


 「君の言葉が、心に刺さったんだ。そういう所も音流のいい所だって」

 「鬼円……」


 音流さんの言葉に鬼円は恥ずかしそうに顔を背ける。


 「君の言う通りだ。僕は、僕は…いけない事をした。取り返しのつかないことをしてしまった。音流の心を傷つけてしまった……!」

 「ケン君……」

 「音流、謝って許されることじゃないかもしれない。けれども、謝らせてくれ……! ごめん。ごめんなさい……!」


 ケン君と呼ばれた男は音流さんに向かってそう言い、音流さんは再び大粒の涙を零した。

 音流さんはケン君と呼ばれた男を抱きしめる。


 「いいんだよ……きっと、おかしくなっちゃったんだよ。謝ってくれて……ありがとう……!」

 「音流……!」


 良い雰囲気になり、私も香蔵さんも狸吉さんも微笑む。

 鬼円は顔を背けているが、きっと、思っていることは私達と同じだろう。


 「えっと、あの……」

 「申し遅れた。迅瓶はやしがめけんだ。君にも、謝る。すまなかった」

 「い、いいですよ私は! 別に被害にあったわけじゃないし!」


 まさかこっちにも謝ってくるとは……。って、そうじゃなくて。


 「普段は、その黒い目……なんですか?」

 「? 僕は生まれた時から黒い目……だけれども…? それがどうかしたの…かい?」


 私と狸吉さんは顔を見合わせる。

 小村樹先生と同じ。だが、小村樹先生も元の目の色は赤ではなかったはずだ。

 そして、赤い目の持ち主に会うのはこれで二人目である。


 そして、その2人ともまるで暴走したかのような動きを見せていた。


 「これって……おかしいですよね? 立て続けに赤い目の持ち主に会うだなんて……」

 「何か、裏がありそうだよね……」

 「? 何の話?」


 私と狸吉さんは2人で頷いて、話すことにした。

 小村樹先生と迅瓶さんにあった、赤い目の話を……。





 ◇◆◇






 「なるほど……赤い目の光ね……」

 「ただの偶然って訳じゃなさそうだよね…」


 私と狸吉さんが話すと、音流さんは白目を向いていた。

 それはそうだ。小村樹先生が女の子を監禁していた犯人で、それを見つけて倒したのが狸吉さんだなんて。


 「音流さん。因みにこれ、一応秘密なので……」

 「へ?! わ、分かった……秘密にする……」

 「話が速くて何よりです…」


 それで、本題の赤い目。

 いつ出てきたのかは迅亀さんも分からないらしい。


 「あっ、でも……」

 「でも?」

 「怪しい人には会ったんだ」

 「怪しい人……?」


 鬼円がその言葉を反復すると、迅瓶さんが頷く。

 曰く、髪が長い女性の方で『を解放させたくない?』と聞いてきたんだそう。


 「それは、いつですか?」

 「丁度今から……3ヶ月ぐらい前かな?」

 「待ってよ! それってケン君がおかしくなった時と全く同じ時じゃん!」

 「なっ?!」


 どうやら、辻褄が合ったみたいだね。


 「もしかしたらソイツが、暴走させてるのかもしれねぇな…」

 「でも、って……?」

 「ケン君の場合は、私の性格をしっかりさせたいって言う……」

 「小村樹先生の場合は、女の子を監禁したいって言う……?」


 そこまで言った後に、全員の顔が青くなる。

 何か、不味いことが起きてるのかな…。私たちの周りで……。


 「とにかく、この話はおしまい。長居しても困るだろうし帰りましょう!」

 「うん。じゃあ、帰ろうか」

 「はい!」


 私と狸吉さん、香蔵さんは立ち上がって、帰りの支度をする。

 音流さん達も帰るらしくって、立ち上がる。


 「鬼円君」

 「んだ?」

 「僕を元通りにしてくれて、ありがとう」


 再び頭を下げた迅瓶さん。

 鬼円は頭をポリポリと掻きながら、迅瓶さんの肩を掴む。


 「音流先輩のこと頼むぜ。馬鹿だし間抜けだから」

 「あぁ。約束するよ」

 「ちょっと鬼円!!! そんな言う必要なくない?!」

 「事実だろ」


 鬼円と音流さんのやり取りに、先程の空気は吹き飛び、笑いが鬼円の家で起きたのであった。

 こうして、私達の勉強会は色々あって幕を閉じたのであった。

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