第19話 剣崎音流
剣崎音流。
17歳で、向花高等学校3年生。
部活、剣道部の部長で、その実力は県大会優勝を何回もしている程である。
そんな彼女が、ケン君こと
迅瓶は、動物を愛する優しい男子高校生であった。だが、剣道部に入ってきたのである。
剣道部の中では最弱と言っていいほど弱かった。
音流が彼を気にかけたのがきっかけであった。
音流が迅瓶に剣道をおしえ、迅瓶は音流に動物との触れ合いのことに関しての話をする。
音流の中では、それがとっても好きであって、迅瓶もまた、その時間がとっても好きであった。
徐々に徐々にと力を伸ばしていき、遂に市内大会で優勝を勝ち取った迅瓶は、音流に告白をする。
音流はその時、自分はとっても幸せものだと感じていた。
だが、ある日を境にそれは崩れ落ちてしまった。
彼がなぜあんなにも凶暴な性格になってしまったのかは分からない。
だが、それでも彼を愛したのであった。
それが、剣崎音流であった。
◇◆◇
「オラっ!」
再び腹に蹴りを入れる鬼円。
大男は、後ろに吹っ飛び、腹を抑えている。当たり前だ。ずっと腹を集中的に殴られているからだ。
「テメェが何者かは俺には分からねぇ」
鬼円がそう言う。
そして、腰にある刀に手をつけて、鞘から抜く。
「だが、彼女を泣かせるようなクソ野郎には容赦しねぇよ…!」
刀を手に持ち、その尖端を大男の方に向ける。
私は「ちょっ!」と言って鬼円の手を掴んで、下ろさせる。
「刀を相手に向けたら大変だよ!」
「あぁっ?! 相手は敵だぞ!」
「そりゃそうだけども……! 生身の人間だよ?!」
私の言葉に鬼円は少し考え込んだ後に、チッと舌打ちをする。
刀が使えないんじゃ……そうだ!
「鬼円! 木刀があるじゃん!」
「……! 私の道場にある!」
音流さんが、走り出そうとすると、その前に大男が立ち塞がる。
すると、鬼円がその大男に蹴りを2発ほど入れる。
「はやく行け!!」
「…っ! ありがとう!」
音流さんが多分、道場がある方に走っていく。
鬼円は私の事を掴んで、飛び退ける。
「離れてろ」
「うん! ごめん…」
「謝らなくていい」
短い会話だが、鬼円の目は大男を睨みつけていた。
沈黙が貫き、瞬間に動き始める。
鬼円が大男の懐に入り、腹を殴ろうとし振りかぶる。が、大男はそれを掴み、鬼円を地面に叩きつけるように拳を振るう。
鬼円は殴られたが、動じることなく何度も大男を蹴る。
大男は離れようとするが、鬼円は逃がすかとさらに近づいて顔面を殴る。
大男も負けずに鬼円を蹴り上げる。
「がっ?!」
「遅せぇんだよっ!!」
蹴り上げられた鬼円は、手を合わせ指を組んで、逆に重力に従ってそれを振りかざす。
大男はそれを避けて、鬼円に蹴りを入れ込む。
鬼円は吹っ飛んでいき、壁に激突する。
「痛ぇ…っ!」
大男は倒れ込み、腰を抑えている鬼円に向かって何度も拳をかざす。
鬼円はそれを転がり、避けてから、大男の頭を足で刈り転がして、拘束する。
いわゆる、腕挫十字固である。
「オラァァ!」
「うがぁぁぁっ!!!」
さらに力を入れ込むと、大男が苦しそうな声を上げる。
「はっ?!」
「嘘っ?!」
なんと、鬼円が腕挫十字固をしている腕を持ち上げ、地面に鬼円を叩きつけるように落とす。
背中に強烈な痛みが走ったのか、鬼円は口から唾を吐き、咳き込んでいる。
腕挫十字固を解いた鬼円は大男から一二歩ほど下がり、口元を拭う。
「バケモンが…普通持ち上げねぇだろ…」
鬼円の言う通りである。
先程の状況は言わば、片腕で高校2年生を持っているような重さがかかっていたはずである。
相当鍛えていなければ、動くこともままならないのに、まさか持ち上げるだなんて…!!
「邪魔を……するなァァァァァ!!!」
「ゲブッ?!」
勢いよく走ってきた大男に殴られた鬼円は後ずさりする。
さらに顎も殴られ、顔面から血が垂れ、蹴り飛ばされる。
「ゲホッ…ゴホッ……! なんで、アイツに…そこまでする!」
「しっかりして欲しいからだ…」
鬼円の問いに、大男は答える。
「彼女は、高校3年生にもなろうと言うのに、まだ自分のいる環境をわかっていない……! いい大学に入り、いい人生を謳歌するためには、あんなふざけた性格を正さねばならない!」
「ふざ…けるなよ!」
鬼円は大男の発言に青筋を浮かべ、膝に手をつけ、立ち上がる。
手を握りしめ、大男を睨みつける。
「そういう所もアイツのいい所なんだろうがよ……いい人生を謳歌するだぁ? そんなもんアイツに任せりゃいいだろうが!!」
「心配だから言っているんだろう!!」
「知るかよ! テメェが人の人生を決めつけるな!!」
鬼円の言葉に、うぐっと言い、後ずさりする大男。すると、鬼円に向かって木刀が投げられる。
「鬼円!!!」
「さっきも言ったよな……」
音流さんは目を潤わせながら、頷いて、鬼円はオレンジ色のオーラを纏いながら木刀を手に掴む。
そのオーラは先程出したオーラの比ではなく、大きくなっていた。
「彼女を泣かせるようなクソ野郎には容赦しねぇってな!!」
鬼円は地面がえぐれる程の蹴りで大男の懐に潜り込み、木刀を振るう。
大男はさらに後ずさりした後に、鬼円を掴もうとして手を伸ばすも、鬼円は木刀を使って、それを弾く。
そして、鬼円は木刀にオーラを纏わせ、息を吐く。
瞬間、木刀を右腕、左腕を使えなくするために二回振り、その後、低い姿勢を取る。
「『
そう言った鬼円は勢いよくジャンプし、顎に向かって、斬り上げるような形で木刀を振り抜く。
大男は、うわ言を言った後に、白目を向き、倒れ込む。
鬼円はオーラを消して、音流さんは大男の方へ駆け寄る。
「ケン君! ケン君!!」
「脳震盪を起こして気絶してんだろ。体と頭を安定させて寝かせ…て……やれ……」
「ちょっ! 鬼円!」
鬼円が倒れ込みかけ、私はそれを支えるのであった。
鬼円の額から血が流れていて、私はパニックに陥りかけたが、ふと、鬼円の体が軽くなるのを感じた。
「何があった、ガキ共」
そこには、白い髭を生やし、鬼円と私を睨みつけているお爺さんの姿があった。
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