第21話 顧問
「つ、疲れた〜」
「ふふ、貴方の頭じゃ疲れなんてないと思ってたけれども、あったのね」
「ナンダトー!?」
「ちょ、冷世ちゃんやめてあげなよ!」
定期テストが終わり、各々が帰りの支度等々をしている。かくいう私もその1人である。
今日はゆっくりと羽を伸ばして、読んでなかった漫画を読むぞ〜!
と、意気揚々と帰ろうとしていると、誰かにぶつかる。
「す、すみません!」
「あぁ、いたいた」
「へ?」
ボサっとした髪に無精髭…。
黎矻先生の姿がそこにあった。
「鬼円にも伝えてくれ、今日部活集合ね」
「……へ????」
私の時間 is どこ…??
◇◆◇
「この前も自己紹介したけど、黎矻ね。よろしく」
「いやいや、何サラッと始めてんだよ」
鬼円がサラッと始めた黎矻先生に向かってツッコミを入れる。
それは私も同感であり、サラッと進めないで欲しい。
「なんだ? 文句か?」
「文句もクソも、俺たちは何も分かってないぞ」
「そうですよ。何で集められたんですか?」
「? 俺が正式に顧問になった事の報告と、依頼の報告…」
いやいやいやいや。
流石に同じことを思ったのか、香蔵さんが手を上げる。
「先生、少し待ってください。まだ頭が働いてませんよ?」
「なんだよ…頭悪いな……」
「なんだと!? 教師としてその発言はどうかと?!」
黎矻先生はポリポリと頭を掻きながら、ファイルのようなものを机の上に置く。
そこには、活動内容や活動時間、活動する目的等々が綴られた紙があった。
「『活動時間は6時まで』……?」
「おいなんだこの『依頼紙』ってのはよ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!?『この高校の秩序を守るために活動』って、まるで生徒会じゃないですか?!」
「ゴチャゴチャ喧しい部員達だな……そこに書いてあること自体が
な、なんだこれ……。
今まで自由にやってきたのが、いきなりこんな事に……?!
「そんじゃ把握ヨロシク。で、依頼だけれども、この紙に書いて、この箱に入れてもらうってのは決まったんだよな?」
「え、えぇ……まぁそうですけど…」
「これに制限で『この高校外のもの』そして『自分の利益のため』の依頼は全て禁止だ」
「はァァァ?!」
鬼円が声を上げて、立ち上がる。
そして、歩いていき、先生の前に立つ。
「じゃあ、俺たちは何をすればいいってんだ?」
「『この高校の秩序を守るための活動』って書いてあんだろ」
「俺たちは生徒会じゃねぇんだよ!!」
黎矻先生の言葉にさらに腹が立ったのか、鬼円が怒鳴る。
黎矻先生は耳を抑えて、顰めっ面をする。
「なんだ喧しい……じゃあ出ればいいだろうに…」
「顧問だからって調子乗んなよ…?」
「鬼円! ストップストップ!」
危うく黎矻先生を殴ろうとする鬼円を皆で止める。
黎矻先生は、はぁ、と溜息をつき、頭を再びポリポリ掻く。
「あのさぁ、部活って何のためにあるか知ってる?」
「あぁ?!」
「学校教育活動の一環の為にある訳よ。こんな意味わかんない部活は教育活動になるのか? これじゃあただの同好会だ」
黎矻先生の言うことは確かにそうだ。
だけれども、こんな制約は流石に無いでしょ…。
「それが嫌だったら今すぐにでも部を解体するんだな」
「んだとテメェ!!」
「ちょちょ!! 鬼円!」
「まずいよ! それは!! 狸ちゃん!」
「鬼円! ステイステイ!!」
いよいよ本気で殴りかかろうとする鬼円を3人で止める。
黎矻先生はそれを見て、部屋から出ていってしまった。
鬼丸は、少しだけ拳を握ったあと、ドカッとソファに座った。
「なんだアイツ……いきなり顧問になったかと思えばこれかよ……!」
「言い方……けれども、これはあまりにも…」
「今まで自由にやってきたからね…」
鬼円は溜息をついているが、きっと1番ダメージを受けてるのは……。
皆で香蔵さんの方を向くが、当の本人は……。
「ダッハハ! 顧問が出来てよかったよかった〜!」
笑っていた。
流石のその姿に鬼円も魂が抜けたかのようにぽかんと口を開く。
「え、えっと……香蔵さん…?」
「あっ、もうこんな時間じゃん! ささ、皆早く帰ろうか! また明日も学校あるしね〜」
香蔵さんはそう言うと、バッグを持って出ていってしまった。
きっと、1番ダメージを受けているのは香蔵さんのはずだ。
『困ってる人を助ける』と言うのが目標だったのに、これじゃあ、好きに助けられない。
「狸吉さん…」
「分かってる。香蔵の事は任せて。その代わりと言ったらアレだけど、鬼円を頼んでいい?」
鬼円の方を見ると、不貞腐れたかのような感じで顔を背けている。
私は頷いて、香蔵さんの後を追う狸吉さんを見ていた。
さて、どうしようか……。
「鬼円?」
「…んだよ」
「あーっと……私の家の近くにさ、カフェがあるんだけどさ、行ってみる?」
「……」
反応無し。
ど、どうしよう……任されたけれども…。
うーん、うーんと唸っていると、鬼円が立ち上がり、鞄を持ち、私の前に立つ。
「え?」
「あ? 行かねぇのか?」
「え、あ? う、うん!」
まさか来るとは…。
それにしても鬼円はデカイなぁ……。私の顔何個分なんだろう?
って、変なこと考えてる場合じゃないや。早く帰りの支度しないと!鬼円に急かされても嫌だからね!
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