第22話 カフェの中で


 学校から出た私は、鬼円と一緒にカフェの中に入る。

 窓際の席に座って、メニュー表を立てて顔を隠す。

 えっ、ちょっと待ってなんで? いや、私が誘ったんだから来るんだろうけどさ? 断んなかったのはなんで?!


 「…メニュー表見えねぇんだが」

 「あ、あ、ご、ごめん…」

 「…? 別に謝ることじゃねぇだろ」


 やばい。私いま、挙動不審すぎるでしょ。

 鬼円はブラックコーヒーを頼み、私は普通のカフェラテを頼んだ。

 …しばらくの沈黙の後に鬼円が口を開いた。


 「なんで俺をここに?」

 「えっ? ……えーと…げ、元気なさそうだったからさ! えっと、コーヒーでも飲んで…ね!」

 「…その割には何とも焦ってそうだな…」


 鬼円の言葉にギクッと体を震わせてしまった。

 事実、何話せばいいか分からないから焦っている。クソ! こういう時に限って人見知りだったのを恨む事になるとは!


 「ま、俺があのまま悪態ついてても仕方がねぇ。ある意味助かったようなものだ」

 「…! それなら良かったよ」

 「クソ、あの顧問ぶっ殺してやろうか?」

 「やめなよ!!?」


 過激な言葉に冷や汗を垂らしながら言うと、店員さんが持ってきたコーヒーをズズっと飲む鬼丸。

 鬼円って、やっぱりイケメンだよな…コーヒー飲んでる姿もカッコイイって言うか。


 …?!


 「違う違う違う!!!」

 「いきなりなんだ?!」


 私は首をブンブン横に振ってバッと立ち上がる。

 今私なんて心の中で言った?! カッコイイ?! 鬼円が?! それは事実だけれども!!


 「な、なんでもない…」

 「そ、そうか……っと、聞きてぇ事があったんだった」


 鬼円は変な人を見る目で私を見たあとに、大事そうな話を始めてきた。

 私も意識をそちらに戻す。


 「あのクソ顧問の、あのクソみたいなファイル、どうする?」

 「そうだね……」


 あのファイルがある以上、自由に活動ができなくしまったわけだ。

 しかも、顧問がいるってことは鶴愛さんも部室に入れなくなってしまった…。

 2人で考えていると、ブブッと携帯が鳴る。


 「誰からだ?」

 「香蔵さんからだ」


 私は通話開始のボタンを押し、鬼円に聞こえるように音量をあげる。


 『しもしも〜?』

 「死語は慎んでくださいね?」

 『ごめんて…その様子だと、大丈夫そうかな?』

 「な訳ないじゃないですか。ぶちのめしますよ?」

 『ほんとに君ってば口悪いね…あぁ、そうだ。春ちゃん?』


 私になにか伝えようとしているよか、名前を呼んできた。

 私は「はい?」と聞くと、香蔵さんが言った。


 『鶴愛ちゃん、部室入れなくなっちゃったから、家で匿ってあげて?』

 「………何を言っているんですか?」

 『鶴愛ちゃん、部室入れなくなっちゃったから、家で匿ってあげて?』

 「いや、復唱しなくていいんですよ」


 え、何を言って?


 「私の家、アパートですよ??」

 『そこをなんとか…ね?』

 「出来るわけないじゃないですか!! 家持ってるわけじゃあるまいし!」


 私が叫ぶと、しょぼん、と香蔵さんの声が聞こえてきた。

 鬼円は顔に手をつけて、はぁ、とため息をついていた。


 『じゃ、鬼円……』

 「老害がなんて言うか分かりませんよ? そもそもアンタが匿えばいいでしょ」

 『それが出来たら苦労しないんだよ!』


 それはそう。

 すると、鶴愛さんの声が聞こえてきた。


 『これは、もう繋がっているということですよね? けーたい? とやらはほんとに凄いんですね』

 「鶴愛さん!」

 『すみません、無理言って……ですが、何処か匿える場所は無いでしょうか?』


 うーんと考え込んでみる。

 私の所のアパートってペット許可されてたけども……。


 「鶴ってペットに入るの?」

 『…………調べたら、特定動物の中には入ってないから大丈夫でしょ!』

 「うわテキトー」


 ほんとに大丈夫なのそれ? と心配だが……。


 『まぁ、青い狸ロボットでも押し入れの中で寝てたし!』

 「鶴愛さんを押し入れの中に入れるんですか?!」

 『私はそれで構いませんが…』

 「構ってくださいよ?!」


 とりあえず、鶴愛さんの事よろしく! と言われ通話を切られてしまった。

 ど、どうしよ……鶴がアパートにいるって色んな意味でやばいと思うんだけど!

 そもそも、アパートに鶴がいるって前代未聞でしょ!


 「…老害にも話してみるから、もしかしたらこっちで匿えるかも知れねぇ」

 「…頼んでいいかな……」


 私が言うと、苦笑いを浮かべる鬼円。

 それでも、多分すぐってのは無理だと思うから、一日はこっちで過ごすかもだけれども。


 なんでこんなことに……。

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