2章 七夕戦争編

第37話 個性的な後輩


 私が学校に行く通学路を歩いていると、見たことある顔にあった。


 灰色の髪に、牙のような歯。そして、その睨みつけるような目。

 間違いない。この前あった悪噛って人だ。

 まずい、確か顔バッチリ見られてたよね?


 そう思っていると、こちらにズンズンと来る。あぁぁ!!目を合わせなきゃ良かった。

 そうだ!こういう時は確か、知らないフリをするんだ。うん。そうしよう!


 「おいテメェ…」

 「はい……?」

 「……鬼円といたよな?」

 「おに……まる?誰のことでしょう?」

 「匂いで分かるんだよ」


 そういえばこの人の能力狼っぽかったよな〜。

 悲報、顔だけじゃなくて匂いも知られてた。


 「……何か…用?」

 「…テメェ拉致すれば、鬼円本気出せるか…?」


 ヤバい。今とんでもない言葉聞こえてきたんだけど。

 そう考えていると、悪噛の横から誰かが走ってくるのが見えた。


 「な、に、してん、の!!!」

 「ゴハッ!?」


 飛び蹴りを食らった悪噛は、地面にゴロゴロと転がる。

 私はそれを見てパチクリしてると、その子がこちらにズカズカと歩いてくる。


 ポニーテールの赤い髪の毛が特徴的な女の子で、鼻ら辺にそばかすのようなものが出来ている。


 「ごめんね、悪噛に変な事されなかった?」

 「え、は、はぁ……」


 す、凄いグイグイ来るこの子。

 と、思っていると横から悪噛が血管を浮かべながらその女の子の肩を掴む。


 「おい、誰が蹴っていいつったよ……?」

 「はぁ?誰にも言ってないんですけど……何言ってんの怖ァ…」

 「おう、殺されてぇなら素直にそう言ってくれていいぞ?」


 なんだろ、目の前で漫才……っていうか、殺伐とした会話がされてる……。

 と、思っていると、女の子がこちらを向いてきた。


 「私、桑西くわにし赤芽あかめ。覚えなくてもいいけど、悪噛に何かされたら言ってね!」

 「は、はぁ……わ、私は春乃……です」


 なんだろ。凄い、後ろの方が光ってる気がする。

 あぁ、これが陽キャと言うやつなのだろうか。私との差をヒシヒシと感じる。


 私が遠い目をしていると、赤芽は悪噛を掴み、私の行く方向とは別の方向へ歩いていった。


 「それじゃ、また今度!会えたら会おうね!」

 「おい離せ!!俺ァそいつに話が……!」

 「会えたら!!会おうね!!!!」


 ……なんだろ。

 すっごいうるさい朝を過ごした気がする。

 

 



 ◇◆◇





 授業のことなどそんなに思い出したくないから置いておき、お昼になった。


 「どうしたの、春乃?」

 「ん、いやなんでもない」


 少しだけボーッとしてしまったが、私は冷世ちゃんと共にご飯を食べていた。

 蟹菜ちゃんはどうやら友達が多く、そちらで食べるとのこと。鬼円は……ひとりでどこかへ行ってしまった。


 よって、この班で一緒に食べるのは私と冷世ちゃんだけだ。 


 「それよりも、ありがとね」

 「……あぁ、その後大丈夫だった?」

 「うん。その後はいじめも無くなったし、一緒に競い合ってるわ」


 冷世ちゃんは微笑みながら言う。

 冷世ちゃん曰く、性格がガラッと変わったとのこと。まるで別人のように動いてるんだって。

 取り巻きの2人も最近では部活に励むようになったとのこと。


 やっぱり、あの『赤い目』の影響だろう。

 そういえば、小村樹はどうなったんだろう…まぁ、知らなくていいことだよね?


 「鬼円にも、感謝しなきゃね」

 「うん。そうした方がいいよ」


 私は微笑みながらそういう。

 冷世ちゃんも、微笑み、お弁当を平らげるのであった。


 ご飯を食べ終わった後に、2人で下に降りて、鬼円を探すために武道館に向かっていた。

 武道館は、剣道や柔道をするための場所。今は柔道部が無いため、剣道部の領地となっている。

 そんな武道館の扉を開けると、大きな音と共にすっごい衝撃と風に襲われた。


 「な、な!?」

 「び、びっくり…した……」


 すると、こちらに音流さんが歩いてくる。


 「な、なんですかこれ!」

 「あ、あぁ……鬼円ともう1人の子がね……とんでもないんだよね……人間だよねあの2人…」


 ……ま、まぁ……超能力使えるけど人間ではあるし…。

 って、もう1人の子?

 疑問に思って武道館の真ん中辺りを注視すると……。


 「オラっ!!」

 「セイヤ!!」


 確かに、鬼円と…茶色の、ポニーテール…というより、束ね髪っぽい髪型をしている男……女の子?中性的な子が木刀を持って戦っている。


 「しぶ……てぇ!!」

 「わ……っと!」


 鬼円の全力の縦振りを横に避けるその子。

 そして、その子も木刀を横に振り、鬼円と木刀がぶつかり合う。

 だが、あまりの力に耐えれなかったのか、お互いの木刀がポッキリと折れてしまった。

 その子がその場でジャンプして2、3歩離れる。


 「あーあ、折れちゃったっすね…」

 「テメ……力入れすぎだ……」

 「何あれ化け物同士?」

 「うーん……」


 冷世ちゃんの問いに私は答えられずにいた。

 しかし、鬼円と戦えてるのは凄い。


 「鬼円〜!」

 「あぁ……?」


 鬼円がこちらを振り向く。

 すると、その子も同じくこちらを見る。


 「あっ、鬼円の友達っすね!挨拶してくるっす!」

 「あっ、おい」


 鬼円の言葉を無視するようにこちらに走ってくる子。

 その子は私の手を取り、ブンブンと手を縦に振ってくる。


 「俺、跳坂とびさか金之助きんのすけっす!1年生で、好きな食べ物は最近は食べれてないっすけど熊肉!鬼円先輩の後輩をやらせてもらってるっす!」

 「わ、わわわ!?」

 「おいばかやめろ」


 後ろの鬼円が金之助君に手刀を入れる。

 手刀を食らった金之助君は頭を抑えている。


 「ええっと……」

 「さっき聞いた通りだ。俺の後輩……と、言ってるだけの野郎だ」


 酷い言い方…。

 その子は、私の方を向いてニカッと笑う。だいぶ個性的な子が来たようだ。


 「ええっと、何してたの?」

 「コイツが手合わせお願いするとか言い出してな……」


 鬼円の言葉であぁ……と察する。

 なんか、鬼円って個性的な人に絡まれること多いよね……。

 そう思っていると、素振りを始め出した金之助君。


 「何してんの?」

 「素振りっす!先輩の本気を出せてないってことは、まだまだ修行が足りなかったらしいってことっすからね!」


 鬼円が頭を抱え込んでしまった。

 私はそれを横目に見つつ、金之助君を見る。

 体自体は細い……のに、どこからあんな力が湧いてきたのだろうか?

 うーん、能力……なのかな。


 「とりあえず、武道館壊す前に出るぞ」

 「はいっす!」


 鬼円はまだ素振りをしている金之助君を引っ張りながら外に出てしまった。

 ……それを見て私達は苦笑いを浮かべるのであった。

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