第38話 悪い人?いい人?
「俺は超能力部っていう部活に入りに鬼円先輩に勝負を挑んでたっす!」
「へ、へぇ……えっ、入部?」
「超能力部に?」
私と冷世は一緒に驚く。
残念ながらこの学校の評価として超能力部は『変な部活』やら『オカルトな部活』やら何やらで酷評である。
まぁ、最近の活躍によって何とか『まぁ、あったら便利かな? 無くてもいいけど』ってぐらいにはなってる。
そんな部活に入ろうっていうのだ。何か理由があるのかな?
「何か理由でも?」
「いや? 鬼円先輩がいるからっすね」
「あぁそう……」
ほんとに鬼円を慕ってるんだなぁ…。
心の中でそうつぶやきながら超能力部の扉を開ける。
「はい、あ〜ん♡」
「あ〜……ん?」
そこでは、食べあいっこをしている香蔵さんと狸吉さんの姿が。
私はすぐに扉を閉めて、腰に手を当てる。
その後に、みんなの方を向く。
「私たちは
「ちょっと待ったぁぁぁ!!!?」
勢いよく飛び出してくる狸吉さん。
その顔は、今にでも火を吹きそうなぐらい真っ赤であった。
…っていうか、カチカチなってない? ほんとに火を起こそうとしてたりする?
「なんですか? 私たちは何も見てませんよ?」
「違うの! これは違うの!!」
曰く、狸吉さんの弁当の卵焼きを食べたいと香蔵さんが言うから仕方がなく…仕方がなく、食べさせてあげたのだと言う。
…無理がある…んじゃないかな?
「まぁ、そのやり取りは今に始まったことじゃねぇし」
「まぁ、付き合ってるのは知ってましたし…」
「っていうか、恋人同士ってそういうのやるんじゃないの?」
「へえ! 恋人なんですか! そりゃ失礼しましたっす!」
私の言葉だけでなく、冷世ちゃんや鬼円、挙句の果てには金之助君の言葉すらも槍として狸吉さんを貫いた。
狸吉さんは顔を真っ赤にして手を震わせている。
そして、その犯人と呼ばれた噂の香蔵さんは、「入っておいで〜」と呑気に語っている。
「それで、何しに?」
「はいっす! 俺をここに入部させて欲しいっす!」
「ほーん……え、入部?」
いきなりの事で香蔵さんが素っ頓狂な声を上げる。
「はいっす!」と言って紙を取り出す金之助君。うわ、めっちゃ字が綺麗なんだけど。
「えっ? お、男の子…?」
「俺は…」
「なんだお前ら、集まってたのかよ」
金之助君が香蔵さんの質問に答えようとしたところで、扉が開いて言葉を遮ってしまった。
その扉を開けた人は、私たちがよく知っている人。
顧問の黎矻先生であった。
「先生…」
「…とりあえずお前らそこに直れ」
黎矻先生は、私たちにそういう。
私たちはなんの事だろうかと思いつつ、ソファに座る。
「…冷世ちゃんは出てな?」
「え? う、うん…」
狸吉さんの言葉で冷世ちゃんは失礼しましたと呟いてから扉を閉じてそそくさとその場を後にした。
その後に黎矻先生はため息をついた。
「お前ら、幅次李の件知ってるな?」
「…!?」
幅次李ちゃんの名前…!?
ちょっと待って? これって確か先生も知らないんじゃなかったっけ?!
私が冷や汗ダラダラな中、香蔵さんは静かに頷いた。
「……そうか」
「先生は、知ってたんですか?」
私がそう聞くと、黎矻先生は頷いた。
そこで私は心の中で「は?」と呟いてしまった。
「え、知ってて見過ごしたんですか…!?」
「…そう言ったらどうする?」
「っ!!」
私は立ち上がって黎矻先生を睨みつける。
が、それを抑えるかのように香蔵さんが腕を掴んでくる。
「か、香蔵さん…!」
「落ち着いて。深呼吸しな?」
香蔵さんの顔は驚く程に冷静でそのまんまだ。
私は香蔵さんに言われた通り少しだけ深呼吸をした後に座った。
「…見過ごしたんじゃねぇ。テメェらを試した」
「…試した、というと?」
狸吉さんがそう言うと黎矻先生は机に紙を置く。
それは、なんと部活動の紙であった。
…なんでそんなものを今更………あっ。
『…あっ、『依頼箱以外の依頼は受けない』……!』
『そんなもん無視すればいいだろ!』
『いや、無視したら先生が何を言うか分からない……』
つい最近した会話を思い出してさらに汗を垂らす。
そうだ。ルール…忘れてた。
悪い考えだし苦手だけど、バレなきゃいいと思ってた……けれどもバレたってことは…。
「先生の提示したルールを破った以上…分かるな?」
「……部活停止…?」
最悪の場合部活を止めざるを得ない。
先程まで冷静を保っていた香蔵さんは段々と顔を蒼白にしていく。
狸吉さんはゴクリと唾を飲む。
「た、試したってのは…?」
「あぁ。ルールを破るかどうかをな」
…やっちまった。
そんな言葉が最初に思い浮かび上がった。
「俺の前やってた仕事ってな、そう言うルール事に厳しいんだわ。だから、必然的に俺もそういうのに厳しくなってくるわけよ」
「…廃部ですか…?」
「最後まで話を聞け」
私が聞くと、諭すように語り始めた。
「でもふと、思い出したんだよ。お前らが何回も抗議してくるからな」
「…思い、だした?」
「おう。『ルールは破るためにある』ってな」
「それマズくないですか???」
ごめん諭すっていうのは気のせいだった。ただの暴論だった。
立ち上がった先生は紙を破ってゴミ箱に捨てた。
……えっ?
「あーあ。紙の無駄使い」
「…何をしてるんですか?」
「試すってのは、お前らがルールを破るほどの
先生は私たちを見る。
「実際、今回の問題は警察沙汰にもなりかねなかった。器物損壊罪やらなんやらでな」
「……話が見えてこねぇな。なんて言いたいんだ?」
鬼円の言葉に、黎矻先生はニヤッと笑う。
その顔に私は少しだけ恐怖のような、そんな感情を浮かべた。
「いやぁ? 人助けにルールもクソもあるかって話だよ」
「…つまり、もしもルールに則ってやってたら…」
「瞬間に廃部だ」
先生は椅子にドカッと座って懐を何やら探し始めた。
そして「切らしてた…」と呟くと再び話し始めた。
「まぁ、今回の件はお前らが動こうが動かないだろうが、俺が解決する予定だったしな」
「…さ、最初のは
「まぁな。どうせキレるだろうと思ってやってみた」
それすらも計算のうちってことか…。
黎矻先生の言葉に私はヘナヘナとソファに背をつける。
「だから警察沙汰に何なくてほんとによかったと思うし、お前らがやってる事のやりかたも理解出来た」
「…じゃあ、今までのルールは?」
「あぁ、どちらにせよ消えるだろ?」
試されて…負けたら廃部、勝ったらルール消去…。
どちらにせよ、私たちは踊らされていたって言い方は良くないけれども、そういう事なのだろう。
「ま、そんな訳だ。はいおしまい」
「…先生って意外にいい人…なんですか?」
「意外って……俺だって傷つく事もあるぞ?」
黎矻先生は紙を香蔵さんに渡した後に立ち上がり扉を開けて出ていってしまった。
紙を見た香蔵さんは「いつの間に!?」と驚いていた。
そこには、金之助君の入部届があって、話している間に付けたのかハンコが押されていた。
黎矻先生は、そんなに悪い人じゃない。
確信はつけれなかったけど、そんな気がして私は微笑んでいた。
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