第39話 歓迎会!


 あんなことがあって放課後。

 部活の時間になって最初は金之助君の自己紹介からであった。


 「という訳で新たに入部しましたっす! 翔坂金之助っす! これからよろしくお願いしますっす!!」

 「これで部活メンバーも5人目か!」

 「いやぁ、去年は3人だったのにね〜」


 香蔵さんが懐かしむように言う。

 入部届が受理された金之助君は、腕をワキワキさせながら息をまいている。

 いつの間にかこの部活に入ってからもう2ヶ月ほど経っている。

 …え、2ヶ月? あんなことがあったのにまだ2ヶ月しか経ってないの!?

 えっと、引っ越してきてから香蔵さん達にあって、悪噛にあって巻き込まれて、小村樹先生と戦って……勉強会するってなった後に音流さんの彼氏さんとぶつかって……。

 だいぶ濃密な2ヶ月を過ごしてるな私…とか思ってると、香蔵さんが手を叩く。


 「じゃあ、みんなで歓迎会しよっか!」

 「……どこで?」

 「ファミレスでもなんでもいいでしょ! さ、行こ行こ!」


 黎矻先生は今日はいないらしく、何時でも帰っていいとの伝言が伝えられていた。

 というわけでこれからファミレスかどこかに行く訳だが…私お金ないんだけど?


 「あの、お金は……」

 「ふふふっ、大丈夫。なぜなら……」

 「なぜなら?」

 「狸吉が払ってくれるからだ〜〜っ!」

 「他人任せかい!」


 狸吉さんのツッコミが香蔵さんに突き刺さる。

 まぁいいけど。と呟く狸吉さん。いいんだ…と心の中で呟いたのは内緒である。

 さて、ファミレスは近くにあるため、そんな時間はかからなかった。

 ファミレスに入ると、すぐさま席に案内されてメニュー表に目をつける。


 「おっ、いいね〜私パスタ食べようかな〜安そうだし」

 「じゃあ、私も同じの頼もっと。3人はどうするの?」

 「俺は肉を食いたいっすね! ステーキがいいっす!」

 「俺もステーキでいい」

 「私はチーズインハンバーグとかでいいかな…」


 私達はそれぞれ好きなものを頼み、グラスを用意する。


 「それじゃあ、超能力部に入ってきた2人に、カンパーイ!!」

 「カンパイ!!」

 「カンパイっす!」

 「カンパイ!」

 「カンパイ……」


 私達はグラスをぶつけ合ってから、グビっと飲み、ドンッと机の上に置く。

 そして、香蔵さんと狸吉さんがこっちを同時に向く。


 「「麦茶だこれ!」」

 「そりゃ、麦茶頼んだんだからそうなんだろ」


 2人の会話にツッコミを入れる鬼円。

 ただ鬼円も普通に楽しんでいるのか、飲み物をグビっと飲んでいる。

 私の視線が気になったのか、なんだよ、と言いたげな顔をする。

 そんな顔を見て、私は手を振って言う。


 「いや、ただ鬼円も楽しむんだなって」

 「……俺も学生だからな?」

 「そりゃ、まぁ……そっか……」


 納得。

 すると、金之助君が私の裾をグイグイと引っ張る。

 なんだろ?


 「超能力なら、みんな能力持ってるんすよね?」

 「うっ……」

 「あー……」


 私は顔を歪ませ、その話題になると香蔵さんがポリポリと頬を掻く。


 「ねぇよ。コイツは」

 「あっ、すみませんっす!」

 「いやいや、いいよ。事実だし……」


 私は手を振り、謝るのをやめさせる。

 それよりもそんなズバって言わなくてもいいんだけどなぁ鬼円。

 そういえば能力で思い出したことがあった。


 「香蔵さんって、能力なんですか?聞いてない気がする」

 「あれ?言ってなかったっけ?」


 香蔵さんは私の質問に首を傾げる。

 すると、香蔵さんは軽く手を広げて、能力を解放させる。

 キラキラとした物が香蔵さんの手からフワフワと浮く。それを見て私は、わぁ……、と声を出してしまう。


 「これが能力の……片鱗?」

 「片鱗……?」

 「実際の能力はもっと違うよ」


 私はその言葉にへぇ、と呟いてしまう。

 香蔵さんは手を握ってそれを消してしまう。綺麗だったからもっと見たかったけど。

 そして、香蔵さんは悲しそうな顔を浮かべる。


 「もう、使わなくて済むようになりたいけどね」

 「……?」


 なんですかそれ。

 そう聞こうと思ったが、先にご飯が届いてしまった。

 香蔵さんは早速パスタを一気に頬張ってしまう。

 私もハンバーグを斬って、口に投げ込む。

 いつか聞けると思うし、その時でいいかな。







 ◇◆◇







 「いや〜お腹膨れた〜」

 「……パスタの後にデザートをあんなに食べたらそりゃそうなるよ」


 ショコラケーキに、バニラアイス。さらにはカステラ等々を全て喰らい尽くした香蔵さんはお腹を擦りながらそう言う。

 その後に狸吉さんのツッコミが入るが気にしてないのか笑っている。

 そんな中私は鶴愛さんに少しだけ怒られていた。


 「せめてそういう話をしてください。帰りが遅くって心配してきてしまいましたからね」

 「ご、ごめんなさい……」

 「まぁ、こちらも連絡手段がありませんので…『すまーとふぉん』とやらも持ってませんし」


 そうだよね。

 連絡手段とかも用意しておこうかな。流石にスマートフォンは難しいと思うけど。

 すると、金之助君が鬼円と何か話している。


 「えー……まぁ、いいが」

 「やった!そんじゃ、そこの河川敷でやるっすよ!」

 「わかったから落ち着けよ」

 「? なにするの?」


 鬼円は頭をポリポリと掻きながら先に行く金之助君。

 何をしてるのか私が聞きに行くと苦笑い……ではないな。これ完全に不機嫌な顔だ。


 「あぁ。すこしボコすだけだよ」


 ……え?

 待って、と制止しようとしても鬼円は既に河川敷に行ってしまった。

 香蔵さん達も気が付いたのか、私の隣に立つ。


 「何すんのこれから?」

 「……し、試合?」

 「なんで疑問形?」


 私にも分からないんですよ。

 すると、金之助君から大きな金色のオーラが、まるで天を昇るかのように放たれる。

 それを見て、私はポカンと口を開けて、香蔵さんと狸吉さんも目を見開く。


 「そんじゃ、行くっすよ!!」

 「……来い。久々にやってやるよ」


 鬼円の不敵な笑みと瞳が、走っていく金之助君を捉える。

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