第16話 鬼円ん家


 土曜日。

 私は自転車を漕いでコンビニの目の前で止まり、自転車から降りる。

 スマホを見て、時間を確認する。


 「…9時、か…」


 勉強会は10時頃からやる予定だったのだが…つい昂ってしまい、1時間も前に来てしまった。

 確か、ここのコンビニで集合場所はあっているはずだ。


 しかし、1時間もコンビニで時間を潰せるかと言えば…………うん。無理だな。

 近くプラプラしてればいいかな……。


 「あれ、春乃ちゃん?」

 「あ、音流さん!」


 トコトコと歩いてきて声をかけてきたのは音流さんであった。

 私は自転車を手で押し、音流さんの近くへと歩く。


 「早いねぇ」

 「音流さんもですけど」

 「私は近いからね。お昼買っちゃおうかと思ってさ」


 はぁ、だからこんな早い時間にコンビニに来たのか。

 音流さんはバッグから財布を取り出して、私に500円とちょっとばかしの小銭を渡してくる。


 「ちょっ?」

 「いいよ。奢ってあげる〜!それに、鬼円に苦労してるでしょ?」

 「いや、う〜ん……」

 「いいからいいから!」


 私は背中を押され、コンビニの前へと押し出される。

 せ、せめて自転車だけでも停めさせて下さいね?!

 自転車を停めたあと、私と音流さんはコンビニの中に入る。


 「何〜食べようかな〜ふっふん〜」


 鼻歌を歌いながらお弁当を手に取り、選んでいる音流さん。

 私は適当におにぎりとパンを手に持ち、カゴに詰める。


 「そういえば、この近くって言ってましたけど?」

 「うん。この近くに道場があってさ。よく鬼円が通ってるんだよね〜」

 「あっ、そこで知り合ったんですか?」


 そだよ〜。と言いながらお弁当をカゴの中に入れる音流さん。

 私は後で話を聞いてみようかな?と思いつつ、会計を済ませて、レジ袋を持って外に出る。

 しばらくした後、音流さんが出てくる。


 「鬼円と初めて会った時はさ、なんかこう…………絶望してるみたいな顔だったんだよね」

 「絶望?鬼円が?」


 頷く音流さん。


 「事故で親御さんを亡くしちゃったみたいでさ、それ以来、お爺さんと暮らしているらしいんだ」

 「……」

 「で、お爺さんと道場にたまたま来たのが最初……かな?凄く力強くてね……握手しただけなのに、腕取れちゃうかと思ったよ!アハハ」

 「笑い事なんですかねそれ?」


 鬼円って小さい頃から力強かったのか。

 確かに、悪噛と戦ってた時、凄い強い力で木刀持ってたけど……。


 「まぁ、それからは稽古してあげてる。と言うよりも、稽古させてるの。クヨクヨしてても仕方がないってね!」

 「へぇ……。音流さん、鬼円のこと心配してたんですね」

 「まぁね〜」


 音流さんがふふん。と自慢げに胸を張っている。

 私はそれを見て苦笑いを浮かべつつ、香蔵さんと狸吉さんが集まるのを待っていた。






 ◇◆◇






 「げぇ、お前らマジで来たのかよ……」

 「本気と書いてマジと呼ぶ!お邪魔しマース」


 音流さんについて行き、鬼円の家に着いた私たち……なのだが……。


 「でっかぁ……」

 「大きいな……」

 「デカすぎんだろ……」


 私と狸吉さん、香蔵さんは鬼円の家を見て大きく口を開けていた。

 まるで昔の大名が住んでいそうな、そんな和風漂う大きな家であった。

 なんか、漫画で見るようなほんとに大きな和風屋敷って感じの……。


 「入れお前ら」

 「お、お邪魔します…」


 私たちは汗をかきつつ、中へとはいる。

 やはり中も大きく、鬼円について行かないと迷いそうな、通路が沢山あった。

 障子をスパンと開け、和室に入るように促す鬼円。私たちはそれに従って和室の中に入る。


 「ここで待っててくれ」


 鬼円がそう言って障子を閉じて、歩いていってしまったのか、音が遠のいていき、消えた。

 私たちは和室をキョロキョロと見つつ、音流さんがなにかしているので、そちらを見る。


 「は〜開放的〜」


 音流さんは、部屋にある障子を開け、縁側に座って外を眺めていた。

 都会の中にある和風な屋敷。見たことある景色が見えるだろうと思っていたけど……。


 「わぁ……」


 庭にはちょっとした大きな池があり、鯉がちゃぽんと音を立てて深く潜り、低木がサラサラと音を立てて揺れる。

 都会とは違う、自然を感じられる庭となっていた。


 私はそれに、心を奪われていた。

 すると後ろの方で障子が開く。どうやら、鬼円が、お茶を持ってきてくれたようだ。

 お茶をテーブルの上に置き、鬼円は一息つく。


 「……で、勉強は?」

 「すぐやります……」


 鬼円は音流さんを睨みつけると、音流さんは渋々と言った感じでバッグからノートと教科書を取りだしてテーブルの上に置いた。


 「狸吉〜」

 「任せろ!」


 こうして、勉強会が始まるのであった。

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