第15話 笑いと不穏

 

 昼休みと午後の授業が終わって放課後。


 「お願い!勉強教えて!」

 「別にいいよ〜。っていうか私にも教えて?」

 「あんたらねぇ…」


 超能力部へ来たのは音流さん。

 音流さんの依頼は、勉強を教えて欲しいだそうで、私たちの出る幕ではなさそうだ。


 ってよりも…。


 「狸吉さん、大丈夫ですか?」

 「大丈夫大丈夫……たかが1人増えたぐらい、私の頭で教え尽くしてやる!」

 「どこの赤毛の縮れ毛にして、ニンジンのようなキャラクターですか」


 私がそう言うと、狸吉さんはバッグから教科書を取りだしてソファに座り、机の上に置いて、ページをパラパラと開いた。


 「で、どこ教えて欲しいの?」

 「あ、姉貴…いや、姐御…!」

 「姐御やめろ!」


 まるで崇めるかのように座った2人にそう言う狸吉さん。

 鬼円はそれを見て、ほんとに先輩か?と呟く。ま、まぁ確かにこれが先輩なのか?とはなるけど…。


 「っていうか、2人は大丈夫なの?」

 「へ?」

 「ん?」


 狸吉さんがこちらを見てきて、そう言う。

 鬼円は教科書を取りだして机の上に置いた。


 「うぉ、付箋だらけ…」

 「……不良なのに意外に勉強してるってやつ?」

 「意外って失礼な奴だな!!」


 香蔵さんが付箋をピラピラと触り、鬼円は音流先輩の頬を抓っている。

 なんか、とんでもなく仲良いんだな…あの二人。


 「なんですかそれ?」


 すると、お茶を入れていた鶴愛さんが付箋を触って首を傾げる。

 

 「あぁ、鶴愛さんそれは付箋って言って…メモ書きを文書とか書籍…封筒なんかに貼り付ける小さな紙なんですよ」

 「へぇ、便利なものがあるのですね……」


 鶴愛さんはそう言って付箋を手にペタペタと貼っている。やってる事が子供っぽいけど。


 「春ちゃんは?」

 「私は予習と復習はやってあるので…」

 

 そう言うと、香蔵さんはうっ、優等生。と言って引き攣ったような顔をする。

 香蔵さんはため息をついた後に自身のほっぺをパチンと叩いた。


 「やってやるぞ〜!目指せ高得点!」

 「よし!私も頑張らないと!」


 音流さんも目に火を灯してペンを持つ。

 狸吉さんも頷いて教えようとする。だが、そこで待ったをかけたのは鬼円であった。


 「なに?鬼円!今から教えてもらうの!」

 「そうそう!部長の邪魔をするの?!」

 「いや、そこはご勝手にどうぞ。時計見てください」


 2人とも時計の方を見ると、既に5時半になっていた。


 「帰りますよ」

 「クソォ!来週に部活あるのか?」

 「なんで来週なんだよ!明日とか明後日にやれよ!土日だろ!」


 頭を抱えた音流さんに向かって鬼円がそう言う。

 すると、音流さんと香蔵さんが同時に鬼円の方を見る。

 その状況に鬼円も流石に動じる。


 「……なんだ?」

 「鬼円の家ってさ、でかいよね?」

 「ついでにジュースとかお菓子もあるよね?」


 …。

 鬼円が全力で駆け出そうとするのを香蔵さんが回り込み、音流さんが後ろから裸絞めする。


 「や、やめろ!面倒くさいことはしたくねぇ!」

 「おいおい、先輩助けてくれよ!」

 「知らんがな!!」


 香蔵さんと鬼円がそう言うと、さらに後ろから音流さんも参加してくる。


 「頼むよ!お願い!一生の!」

 「知らねぇ!勝手にやってろよ!」

 「私鬼円の家知ってるよ?勝手に乗り込むよ?」

 「クッソ離…………力強えぇな!」


 鬼円が逃げようとするのを阻止する先輩二人の姿。

 私と狸吉さんは困惑しながら3人の元に駆け寄る。


 「まぁまぁ、いいんじゃないか?鬼円」

 「なんでだよ?!」

 「親交を深めるってこともあるし、勉強するところも欲しいから助かるんだよ」


 狸吉さんにそう言われると鬼円が顔を顰め、しばらく考え事した後に腕を組んで言う。


 「分かった…ただ、変なことはするなよ?」

 「ありがとう鬼円!最高の後輩だよ!」

 「うるせぇし離せ!」


 鬼円の声が再び部室内で響く。








 ◇◆◇








 「…そういえば」


 暗闇の中で男性か、女性が分からない声が響く。


 「アイツはどうしたの?あの〜ロリコン」

 「あぁ、小村樹のことか?」


 もう1人の声も響く。

 そうそう、と中性的な声がその場に響いた。


 「あいつはもうアクゼリュスが殺ったんだろ?」

 「へぇ?確証はあるの?キムラヌート」


 キムラヌートと呼ばれた男はハッハッハッと高笑いする。


 「アイツの事だ。使えない玩具ゴミは捨てるだろ?お前だってそうするだろ?ツァーカブ」

 「ふふ、そうだね」


 ツァーカブと呼ばれた中性的な少女は目の前で血を流しながら倒れている男性を見る。

 男性は虚ろげな目をして何かをブツブツ呟いている。


 「で、どうすんのお前それ」

 「もう使えないわよ。こんな感じなのに」


 ツァーカブは手を握り、男の心臓に向かって拳を勢いよく突き出し、貫く。

 男は口から血を吐き出し、ぐったりとする。


 「死んだ?」

 「心臓が破裂したのよ?生きてる訳ないじゃない」

 「そりゃそうだ」


 キムラヌートはそう言って再び高笑いする。


 「作戦は順調だな…」

 「えぇ、人間を全て消すのが仕事だからね」


 ツァーカブはそう言うと、キムラヌートがニヤッと口を開けて笑う。


 「お互い頑張ろうな」

 「えぇ、に感謝を」


 キムラヌートとツァーカブはそう言ってお互いに笑い合う。

 2人の周りには、血が流れていた……。

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