第14話 皆の昼休み
次の日。
お昼ご飯を食べようと自分の席でお弁当を開こうとした時。
「は〜るちゃん!」
「え、狸吉さん?」
「一緒に食べよ〜」
「香蔵さんまで?!」
扉からチラッとこちらを覗いてくるのは、狸吉さんと香蔵さんだった。
私は弁当を袋に包んで2人の方へ駆け寄る。
「どうしたんですか?」
「そのまんまだよ?一緒に食べよって」
「そのまんまなんですか…」
私と香蔵さん、狸吉さんは屋上へと向かう。
そもそもこの高校屋上開いてるのか……開いてるのって中々に珍しいのでは?
「は〜開放的〜」
「はいマット〜」
「用意がはやいですね!?」
香蔵さんがマットに滑り込み、狸吉さんもドサッと座る。
私は失礼しますと言ってからストンと座る。
すると、香蔵さんが抱きついてきた。
「も〜そんな固くしなくていいんだよ?」
「いやいや、滅相もない!」
「ナニソレ!私そんな言葉知らないんだけど?!」
「落ち着きなよ香蔵…春乃ちゃん困ってるからさ…」
そう言われると、香蔵さんはすーはーと深呼吸をして、私の方を向く。
「ほら、春ちゃんさ、部に入ってきたばっかでしょ?」
「そうですね……」
「だから、親交を深めようと思って!」
あぁ、そういう事か。
だからって、あんな大声で呼ばなくてもいいじゃないですかと私が言うと、香蔵さんが苦笑いする。
「でも、狸ちゃんもやってたよ…?」
いきなり矛先が飛んできたので狸吉さんはブフッと言って喉に食べ物を詰まらせたのか、水を一気に飲み干してからこちらを見る。
「いや、やろうって言い出したのは香蔵からじゃ?!」
「いいじゃないの細かいことは〜」
「細かい事なの、かな……?」
狸吉さんが香蔵さんのほっぺを抓って、香蔵さんがアイタタタと言っている。
「そういえば、狸吉さんの能力凄かったですね」
「あ、その話する?」
狸吉さんが抓るのをやめてこちらを見る。
「えっと、私の能力は……見ての通り炎…というより、火なんだけど…」
「発動の仕方が癖あるんだよね!」
狸吉さんの説明の途中で香蔵さんが割り込んでくる。
確かに、能力を発動させた時に、『カチッカチッ』って音鳴ってたな……。
「火花が見えたのわかる?」
「はい。見えてました」
「これって、空気で弾けてるんだよね」
狸吉さんが人差し指を立てて、その上で火を灯す。
「簡単に言えば、まるでコンロみたいに、一旦カチッカチッって火をつけてから炎に変わるんだ」
「へ〜」
確かに、コンロ…………それ昔じゃない?いまはもう電動で出来るんですけど……。
「ガスボンベ欲しいね〜」
その名前聞いたの懐かしいな!
っと、さっさと食べちゃわないとと言って、香蔵さんがピーマンを口に放り投げる。
すると、予想通り、顔を顰めた。
「苦ァ……」
「ちゃんと栄養を取らないとだよ…ハムッ」
「嫌いなもの苦いものって言ってましたしね…」
香蔵さんがううっ、と言ってピーマンを頬張る。
私と狸吉さんはニコニコと見ながら香蔵さんが食べ終わるのを見る。
「……そんな見られても…」
「いやいや、減るもんじゃないし〜」
「ちゃんと食べれてるか見てるだけですよ〜」
「後輩から見られるのが1番来るんだよ〜」
その言葉に私と狸吉さんは吹き出して、大笑いしてしまった。
すると、狸吉さんがそういえば、と言い始めた。
「ちゃんと勉強してる?春乃ちゃん」
「? なんでですか?」
私がそう聞くと、狸吉さんが困ったような顔をして言った。
「そろそろ定期テストでしょ?」
「あぁ、そういえば……もちろん勉強はしてますよ」
私が思い出して、そう言うと、狸吉さんが香蔵さんの方を向いて苦笑いを浮べる。
私もそちらを向くと…。
「…………」
唐揚げを食べようとしたのか、口を開けたまま固まっている香蔵さんの姿があった。
香蔵さんはそのまま、顔をドンドンと青ざめていき、唐揚げをポトッと落としてから…
「…助……けて」
と、こちらに向いてきたので、私と狸吉さんは一緒に大声を上げて笑ってしまった。
◇◆◇
「あれ、鬼円君」
そう言って、近づいたのは音流先輩だった。
すると、不機嫌そうな顔になった。
「なに、そんな私が来るの嫌?」
やっべ、顔に出てたか…。
俺はそんなことないですよ。と言って、ニヤけた顔をする。
もう、とほっぺを膨らませている音流先輩。
「それで、なんか用ですか?」
「いや、たまたまとお………奢って」
「全力ダッシュで逃げますよ?」
「敵前逃亡出来るのかい君に?」
何ならいま逃げ出してやってもいいぞ?
「……はぁ…何欲しいんすか?」
「お、いいの?!」
自動販売機の前でどれにしようかな〜とウッキウキで悩んでいる音流先輩。
いや、いいの?ってアンタが……はぁ。
心の中でため息つきつつ、自動販売機に再び近づく俺。
「じゃあ、ペプシ…いや、コカコーラゼロで!」
「はいはい…っていうか、高いな…」
コカコーラゼロを買った俺はそれを音流先輩に手渡して、自動販売機の近くにあったベンチに座る。
音流先輩も俺の隣に座ってからコカコーラゼロを1口飲む。
「後輩に奢らせる先輩って…」
「いいじゃん。交流ということで」
「嘘だろ…」
俺がそう言うと、音流先輩があははっと笑う。
すると、音流先輩が携帯を見てから、不機嫌そうな顔をする。
俺はそれが気になり、音流先輩の方を向き、声をかける。
「どうしたんすか?」
「ん。彼氏からのメールだよ」
彼氏から…って…?!
「付き合ってたんすか!?」
「酷いな君は!私だって付き合うよ!」
物好きがいたものだと心の中で呟きながらココアを飲み干す。
だが、尚更なんでそんな顔に?
「喧嘩でもしたんすか?」
「いや〜なんか最近、キツイって言うか?なんだか束縛されてるような〜って感じ?」
「なんで疑問符がつくんだよ…」
すると、音流先輩がこちらを見て、頭を下げてくる。
俺は驚いて音流先輩の方を見る。
「お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「……なん…ですか?」
音流先輩は顔を上げて、必死そうな顔で言った。
「勉強、教えて!」
「3年生のもの分かるわけないだろうが!!!」
俺の言葉がこだまとなってその場に響いた。
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