第9話 準備室


 「先生、準備室に何あるんすか?」

 「…何だって?」


 今聞くの…??

 鬼円が小村樹先生にいきなり聞いた。私はちょうど部屋に入るための扉の近くにいて、死角になっているのか気付かれていない。

 先生は「はぁっ…」とため息を付いて腰に手を当てた。


 「危険な薬品とかがあるからさ…塩酸や硫酸、硝酸、水酸化ナトリウム、アンモニアとかね」

 「なるほど。他にあるとかじゃなくてですか?」


 鬼円が確信をつくかのような質問をする。小村樹先生は一瞬驚いたかのような顔をするも、すぐにあははっと笑う。


 「例えば、?」

 「何がある?」

 「他にもあると言っただろう?何が他にもあるんだい?」


 鬼円が固まる。

 小村樹先生が鬼円の肩をポンっと叩く。


 「変な詮索はしない方がいいよ、超能力部…特に君や春乃ちゃん…だっけ?」

 「テメェ…」

 「…何を調べてるか知らないけど、僕は関わってないよ」


 そう言って小村樹先生は出ていってしまった。

 幸い、私には気づかなかったようだ。


 「…春乃、確定でいいよな?」

 「うん。まさか、先生の方からカミングアウトしてくれるとは思わなかったよ」


 私たちはあんまり小村樹先生のいない所で活動していた。それを小村樹先生は知ってるし、なにより僕は関わってないと言う、まるで『悪人じゃないですよ』と自分で言っているものだ。

 怪しすぎるし、鬼円から何を調べているのか聞いていないのに、関わってないって、無理がある。


 「動くのはどうするか、だな…」

 「今日の放課後だとバレるよね…」


 私と鬼円は向かい合って頷いた。





 ◆◇◆




 「なるほど…」


 ソファの背もたれにもたれる香蔵さん。狸吉さんは隣で顎に手を当ててなにか考え事をしている。


 「でも、解決までには早い方がいいよね…」

 「うん。でも……」


 香蔵さんがそう言うので、私は頷くけれども……。

 今日のことで先生は警戒するだろう。すると美玖ちゃんを探そうにも探せなくなる。

 すると、狸吉さんが提案を出す。


 「…2人体制ならいいんじゃないか?」

 「2人体制?」


 その言葉に鬼円が首を傾げる。


 「準備室に入るのが1人、外で見張るのが1人っていうのは?」

 「それがいいかもね。でも、私行けないよ?」

 「俺も無理だ」


 狸吉さんのアイデアに肯定するも、香蔵さんがそう言い、鬼円も同じく首を横に振った。

 つまり、残っているのは……


 「私と春ちゃんで行こうか」

 「はい…………えぇ!?」


 私が驚きの声を上げ、狸吉さんを見る。


 「い、いやいや!私?!鶴愛さんじゃなくてですか!?」

 「いや、だって鶴目さん鶴だからさ…」

 「いやそれはそうですけど、私能力持ってませんよ!?」

 「大丈夫だよ。何かあったら私が何とかするからさ!」


 ほ、ほんとに大丈夫なんだろうか……。それに、と香蔵さんが声を上げる。


 「狸吉ちゃんの能力とかにも慣れて欲しいからさ!」

 「え、えぇ……?」


 能力……そっか。この部に入ってるってことは能力を持ってるのか……。


 「それじゃあ、2人に任せていいかな?」

 「わかった。春ちゃんは?」

 「っ!はい!!」


 私は大声で頷く。香蔵さんの微笑んだような顔が一瞬見えた後、キリッとした目つきになった。


 「あくまで春ちゃんは探すだけ。先生に見つかったら適当な理由で逃げて?いいね?」

 「うん」

 「分かりました!」


 私の声と共に、部活終了を教えるチャイムが鳴り響いた。

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