第7話 お姉さんを知る者


 暁琉君からお姉さんの美玖さんを探して欲しいと言われた翌日、私は情報を集めていた。

 だが、美玖さんを知る者はみんな揃ってどこにいるか知らないと言っていて、これと言った情報が集まらずにいた。


 なんとかしなくちゃいけない。暁琉君のためにも、美玖さんのためにも。

 部活のことを忘れ、情報を集めようとしていた。すると、机に誰かの両手が乗った。 


 「なに悩んでるの〜?」


 その両手の正体は蟹菜ちゃんだった。

 私は笑いながら「なんでもないよ」と答えた。蟹菜ちゃんはこれ以上深堀せずに次の授業のことを言ってそのまま待っていてくれた。


 「化学か〜よく分かんないんだよね〜」

 「まぁ、難しい所だからね」

 「蟹菜には分からなくて仕方がないんじゃない?」


 もうひとつの声は冷世ちゃんの声であった。

 蟹菜ちゃんはその冷世ちゃんの言葉がグサッときたのか、まるでかませ犬のキャラみたいにその場に倒れ込んだ。


 「…ふ。勝った」

 「やめなよそういう事言うの…」


 私はそう言いながら化学の授業を受けるための準備をして、冷世ちゃんと蟹菜ちゃんと一緒に教室を出た。



 ◆◇◆




 化学の授業は復習ということもあり、楽に進んでいた。

 それよりも、気になるのが…


 「じゃあ、これから班を移動していいけど、


 先生の言葉にクラスのみんなが「はーい」と言ってバラける。

 鬼円は机に突っ伏しながら寝ていて、蟹菜ちゃんと冷世ちゃんは私と一緒に雑談している。

 私は理科準備室の方を向いた。不思議に思ったのか、冷世ちゃんが声をかけてきた。


 「ん?どうしたの?」

 「なんで入っちゃダメなんだろ?」


 私の疑問に答えたのは蟹菜ちゃんだった。


 「そりゃ、危ない薬品とかあるんじゃない?」

 「アブナイやく?」

 「それは危ないくすりでしょ…」


 と、冷世ちゃんのボケに蟹菜ちゃんがツッコミを入れる。私は苦笑いしながら蟹菜ちゃんの方を向いた。

 その瞬間だ。


 「近づくなって言っただろ!!!」


 理科室に大きな声が響く。理科の先生が声を荒げたのだ。

 見ると、理科準備室の扉の前に生徒が2人がいた。その2人は自分たちのこと?と言ったふうに先生を見ている。


 「今回は許すが次回はないからな!ほら行け!」


 先生がそう言うと、2人は愚痴を言いながらその場を離れた。

 冷世ちゃんが顔を引き攣らせながら声を発した。


 「そ、そんなに…?」

 「危ない薬、隠してるんじゃないの?」

 「だからやめなよそういう事言うの」


 私はそう言いながらも考えをまとめあげる。

 理科準備室に近づくなと言った理由、これさえ分かればいいのだが。

 そして、近づいただけであの怒り具合。多分、なにか隠してる。


 それが何なのかは分からないものの、きっと何かあるはず。


 「…」


 だが、私は気づかなかった。先生がこちらを注意深く見ていることに。



 ◆◇◆



 「先生の名前?」

 「うん」


 放課後、部活の時間。

 私は今日化学の授業であったことを皆に伝えていた。


 「先生の名前は確か…小村樹泰雄こむらきやすお先生だっけ?」

 「確かね」


 狸吉さんがそう言う。

 私は紙を取りだしてペンを持って今分かっていることを書いた。


 『●消えたお姉さんの行方→誰一人として、居場所を知らない』

 『●小村樹泰雄先生→化学を担当している教師』

 『●理科準備室→先生が強く反応何か隠してある?』

 『●暁琉君の証言→3日前にお姉さんが行方不明になった』


 この4つ。


 「なーんか先生が怪しいよね〜こう見ると」

 「いや、ほんとに危ないからってことで過剰に反応してるだけじゃないの?」


 狸吉さんや香蔵さんが話し合う。…あれ?


 「鬼円は?」

 「あぁ、桃佑なら帰っちゃったよ。道場に用事があるみたい」


 道場?そういえば剣道部の先輩から木刀を貰ってたし…なにかやってるのかな?

 まぁいいや。


 「とにかく、理科準備室に何かあるはずです」

 「でも、理科準備室は鍵かかってるよ?」

 「それに、その鍵を持ってるのは泰雄先生だし……」


 早速詰みか?

 何かしら理由を言って入れないかな……?


 「…理科準備室の扉の上」


 香蔵さんがボソッと呟いた。狸吉さんがそれに反応して首を傾げる。


 「が、どうしたの?」

 「理科準備室の扉の上ってさ、確か窓みたいになってたよね」


 狸吉さんは香蔵さんの言いたい事が分かったのか、何回か頷いた。


 「そこから入ろうってことね」

 「うん」

 「でも、あんな高いところどうやって行くの?」


 私がそう言うと、2人とも考えているのか黙り込んでしまった。

 私も考える。理科室の椅子を使ってもいいが、入ってしまったという証拠が残ってしまうし、それに多分、一方通行になってしまう。


 「…とりあえず、理科準備室が怪しいってことね」

 「だと思います」

 「分かった。春ちゃんはそのまま美玖ちゃんのことを聞いて回って?私たちで理科準備室に入る方法を探すから」


 そう言って香蔵さんは笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る