第29話 思いをぶつける


 私は席に着くと、周りを見渡す。

 今日の朝、なんだか違和感があったけど、特に何も無かったな……。


 何だったんだろ?嫌な気配っていうか、変に背筋がゾクゾクするような怖さというか……。

 怖さって……寒気が何かの間違いだな。うん。そうに違いない。


 「おはよ春乃ちゃん」

 「ん! おはよう冷世ちゃん」


 相も変わらず冷世ちゃんはその顔をニッコリとさせる。

 ……って、あれ?この時間帯って……。


 「冷世ちゃん、部活は?」

 「え? あぁ……えっと……今日は休んできた」

 「……え?」


 休んで……きた……?

 冷世ちゃん、ずっと朝練に出てたのに、いきなり休むって……?

 私の困惑が分かりやすかったのか、冷世ちゃんは手をブンブンと振って汗をかく。


 「い、いや、気分が悪いだけだから」

 「そ、そう……って、そっちの方が大丈夫?」

 「まぁね。今はなんともないから……」


 ……嘘だ。

 いや、体調が悪いなら休んだほうがいいんだろうけど、何かおかしい。


 「ねぇ、無理してる?」

 「…………何が?」


 私が疑うと冷世ちゃんが目を薄くして言ってきた

 苛立ち……いや、威嚇の類だろうか。聞かせたくないのかな?


 「この前の虐めの話。あれって、冷世ちゃんがあってるからじゃなくて?」

 「!!」

 「冷世ちゃんが虐めにあってるから、助けてって『SOS』をしたんじゃないの?」


 私は少しだけ口調を強くして言う。

 冷世ちゃんは顔を暗くして俯く。ど、どうしよ?流石に強すぎた……かな?


 「……助けてくれるの?」

 「!!」

 「私はこれまでに、あなた以外に何度も何度も助けを求めた。でも、みんな助けてくれなかった」


 冷世ちゃんは、怒りと不安と、そして涙を溜め込んだ顔で、こちらを向いてきた。

 私はそれを見て、顔を青ざめる。


 「やめてと言ってもソイツらはやめない。先生は知らんぷり。周りの奴らはそれを見て笑ってる。耐えられる?」

 「っ……!」

 「この髪の毛だって、最初こそ笑われた。だから嫌いなんだよ。私は、私自身が」


 ……苦しんでいたとかじゃない…そういうレベルの話じゃなかった。

 んだ。もう既に、取り戻せないところまで踏み切ろうとしてたんだ……!


 「……っ、ごめん」

 「……?」

 「気付かなくて、ごめん……そこまで、苦しんでたんだ……っ」

 「……いや、なんであなたが謝るの?」


 冷世ちゃんは私の言ってることが分からないと言った顔をする。

 私は涙ぐみながら冷世ちゃんの手を掴む。

 

 「私には、超能力はない。でも、あなたを助けたい。それに変わりはない…!」

 「……」

 「きっと、解決出来る」


 先生……黎矻先生は動くのだろうか?

 分からない。けど、先生に勘づかれたらその虐めを行っている生徒にバレるかもしれない。


 ……先生は頼れない…か。

 なら、私たち生徒で何とかするしかない……か。




 ◇◆◇






 「と、言うわけで連れてちゃった」

 「何でだよ!!!?!?」

 「で、デカイ…」


 私の目の前で思いっきり叫ぶ鬼円。

 放課後すぐに私は鬼円の家に連れてきた。幸い、鬼円も部活をサボ……休んでいたようで、無事に家に上がれた。

 因みに、冷世ちゃんは鬼円のデカイ屋敷を見て目を白黒させている。


 「どういう事だ?なんでここに連れてきやがった?」

 「質問は1つずつだよ!」


 私は鬼円にそう伝えてから答えた。

 まず、先生がおらず、鬼円にも頼れる場所がここであること。そして、当事者の冷世ちゃんを連れてきた方がわかりやすく、同じクラスなので話もしやすい。

 この2つの理由で鬼円の家に来た訳だが……。


 「納得がいかねぇ……ほんとにとんでもねぇことしやがるよお前……」

 

 当の本人には不評だったらしい。


 「とりあえず、冷世ちゃん今までやられた虐めって覚えてる?あっ、辛かったら言わなくていいからね?」

 「靴を隠されたり、靴紐を切られたり、そもそも靴を捨てられたり、教科書を隠されたりなんなりと」

 「おぉう、凄い機械的に言うね…」

 「俺が言うのもなんだが、ほんとにコイツ大丈夫じゃないんだよな?」


 淡々と喋りだした冷世ちゃんに引く鬼円。

 でも、やってる事は酷い。教科書なんて、使えなくなったら学業に支障が出る……。それに、靴だって。


 許せない……。その思いは同じなのか、鬼円は舌打ちをする。


 「ソイツら殴れば解決だろ?」

 「暴力的解決はダメだよ。何とかして言って止めないと……」

 「……意外。鬼円も一緒に考えてくれるんだ…」

 「舐めてるお前?」

 「やめなよ!」


 なんでこの2人こんな犬猿の仲っていうか、仲が悪いんだろ……?

 特に、鬼円がキレてるイメージがあるけども……。


 「んで、それの首謀者は?」

 「……幅次李はばじり雛花ひなな。2年生」

 「2年!?同級生じゃん!」


 私は驚きの表情を浮かべる。

 鬼円は逆に、ニヤッと絶対危ない考えをしている笑みを浮かべている。


 「…鬼円、それはほんとにできる作戦なんだよね?」

 「あぁ、まぁバレなきゃいいんだよ」

 「それってバレたらマズイやつだよね!?」


 私のツッコミに鬼円はチッと舌打ちしてからこの策はやめだと言ってくれた。

 良かった……問題事はその他に犯したくない。


 でも、告発するって言っても難しいな……証拠がない……証拠……。


 「あれ?冷世ちゃん、靴とかはどこに?」

 「? 捨てたわよ。もう使えないもの」

 「……なぁほんとは大丈夫じゃねぇのか?」

 「……い、いや、ズレてるだけだと思う…」


 そうだよねきっと……だよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る