第35話 鬼円の力
学校に全体に衝撃が走る。
窓はガタガタと揺れ、プールの水は大きく波を立てる。
校庭では、ズザザッと大きな土煙と共に鬼円が受身を取る。
(んだコイツ…っ!)
鬼円は手に持っている木刀を構えて、汗を垂らす。
相手…ツァーカブは、変わらず笑みを含んだまま、鬼円の懐へと入る。
鬼円はそれを見て、木刀を再び構え直し、ツァーカブの攻撃を木刀で受ける。
だが、並外れた力を持っているのか、木刀がバキバキっと鳴ってはいけない音を鳴らす。
それを聞いて鬼円は木刀で受けることではなく、受け流すことに専念する。
何とか受け流すことに成功した鬼円はゴロゴロと横に転がり、ツァーカブを睨みつける。
(クソ強ぇ…!)
鬼円が心の中でそう悪態をつく。
目の前の人間…否、何かは、鬼円を圧倒していた。
何がそうさせるのか?それは鬼円には不明だが、鬼円は兎に角、全力を持って戦えとしか言えない。
鬼円は木刀を左手に持ち、腰に差している刀を抜く。
それを見て、ツァーカブが「へぇ」と感心を漏らす。
「もしかして二刀流ってやつ?」
その問いに鬼円は答えず、静かに構える。
近くにある水道の水がポタッと音を立てて垂れる。それをきっかけに、鬼円はツァーカブの懐へとはいる。
(さっきよりも速いっ!)
(ここだっ!!)
ツァーカブに向かって逆袈裟斬りを放つかのように木刀を振ってから、右腕に持っている刀を叩き斬るように振り下ろす。
ツァーカブはどちらも避けて、鬼円から距離を取ろうとする。だが、鬼円はそれを許さない。
鬼円はオーラを放ちながら、ツァーカブに近づく。
そして、両方の刀を下に持っていき、力を込める。
「『
振り上げるように二つの刀を動かす。ツァーカブはギリギリでそれを回避するも、木刀が掠めてしまった。
ツァーカブは3mほど、鬼円から距離を取る。
そして、頬の掠めた部分を手でなぞる。
「…見くびっていたわ」
「何が?」
ツァーカブの言葉に鬼円が問う。
だが、ツァーカブはそれに答えずにくつくつと笑っていた。
「いや、何でもないわ」
「チッ……」
鬼円が舌打ちをすると、ツァーカブが鬼円に近づき、回し蹴りを放つ。
それを木刀と刀の両方で受ける鬼円。だが、勢いを殺せてはいないため、後ろに水切り石のように吹っ飛んでいく。
立ち上がり、ツァーカブの方に再び走っていく鬼円。
「シッ!」
二つの刀を器用に別々に振る鬼円。ツァーカブは両方の刀を手でいなしながら、鬼円の脇腹に拳を入れ込む。
「ゴフッ」と言いながら、鬼円は後ろに飛んでいく。
校舎の壁に激突する鬼円。その後を追うように、ツァーカブが近づき、飛び蹴りを放つ。
「っ!」
飛び蹴りを放ってきたツァーカブの足を止めている鬼円。
(あれ?刀はどこに…っ!?)
そして、ニヤッと笑ってから上を指さす。
ツァーカブが釣られるように上を向くと、唐突に腹に蹴りを入れられる。
「バァカ!どこ向いてんだよ!」
「っ!やってくれたわね!」
鬼円は、背中に隠していた木刀を手に取りながら、ツァーカブに一撃を入れ込む。
ツァーカブの体に少しだけだが、切り傷が入り、そこから血が吹き出す。
ツァーカブは後ろに3歩ほど下がった後に、鬼円を睨みつける。
「どうした?もう終わりか?」
「…まだまだこれから…っ!」
「何してんのッ!!」
ツァーカブは横からの炎に反応出来ずに、焼かれてしまう。
鬼円が炎が出てきたの方を向くと、狸吉と春乃が走ってきていた。
「狸吉先輩、春乃…お前ら…」
「鬼円が、なんか変だなっと思ってさ、相談したら……」
「ビンゴ。良かったね来ておいて」
狸吉は先程焼き払った場所の方を見ると、そこには誰もいなかった。
それに驚いていると、後ろから笑い声がする。
「いやぁ、とんだ邪魔が入ったけど、まぁいいわ」
「…っ!逃がすかテメェ!」
「っ!フゥゥッ!」
鬼円と狸吉が2人でツァーカブに近づくと、横から四角形の岩のようなものが飛んでくる。
それを飛び退けて放ってきた方を見ると、目元が暗く、顔が見えないが誰かが立っていた。
「時間だ。そろそろもういいだろ」
「うん。まぁね」
ツァーカブは鬼円に手を振ってから男と共にその場から消える。
それを見た鬼円と狸吉は、同時に能力を解除する。
「あれって…誰なの?」
春乃が聞いても、鬼円は答えず、首を横に振る。
狸吉はそんな鬼円を見た後に、ため息をついてから、春乃の方に近づく。
「とりあえず、もう夜も遅い。今何時だと思う?鬼円」
「……7時頃か?」
「9時だ」
それを聞いた鬼円は目を見開いた後に、刀と木刀を腰に差し、頭をポリポリと掻く。
「帰るか」
「だな。ほら、春乃も行くぞ」
「……はい」
春乃は先程の戦っていた場所を少しだけ見た後に、鬼円達と共にその場を離れるのであった。
その後ろ姿を、ツァーカブ達が見ているとも知らずに。
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