第31話 反抗!溜息!証拠!


 次の日。

 私は黎矻先生を問い詰めていた。なんで条件なんて付けたんですか? だとか、超能力部の方針を変えるのは顧問としてどうなんですか? とか。

 先生は心底面倒くさそうに1つずつ、1つずつ説明してくれていた。

 そういう所はちゃんとしているので、私も何も言えないが……だけど、きっとこの条件には穴があるはずだ。


 だけど、どうも見つけられないのだ。

 黎矻先生に黙ってやるという案は香蔵さんから言われた通り、何をされるか分からない。


 「お前ら、何を必死になってそんなこと聞いてくるんだ?」


 すると、今度は黎矻先生の方から問いかけてきた。

 私は、ビックリしたものの、それに答える。


 「……超能力部の方針は、聞いてますよね」

 「『困った人や、依頼をしに来た人達を超能力を上手く使い助け解決する部活』だったか?」

 「……私達は、助けたいんです。例え、怪我をしたとしても、それが暴力的解決になったとしても」


 黎矻先生は、ため息をつく。

 が、黙っているためそのまま続ける。


 「先生には、分かりますか? 怖くて怖くて、それでも助けをずっと待っている生徒。もしかしたら、虐めにあっているかもしれない生徒のこと。それを私は助けたい。どんな手を使ってでも」

 「……」

 「先生は言いましたよね? 部活は『学校教育活動の一環』って」


 私の言葉に先生の眉がピクッと動く。


 「人を助けるのは、教育活動ではないのですか?」


 私は吐き捨てるように言ってから職員室を出た。

 きっと、あの先生は分かってはくれない。でも、解決して見せたい。





 ◇◆◇





 「……ふぅ…」


 黎矻はため息をついてからデスクに姿勢を戻す。

 顧問になったばかりの彼は、超能力部活動の紙を見る。


 「……やりすぎた、かねぇ…?」


 黎矻は、はははっ、と乾いた笑いを出す。

 その後に、自身についている左腕の傷を摩る。


 「なぁんで俺なんかが学生の世話をしないといけねぇんだか」


 自分を嘲笑うかのようにニヤけた顔のまま左腕の傷を見ている。


 『黎矻……君にこの仕事は…似合わない…よ……。だから…だから、僕のもう一つの夢だった…先生をやってくれない…かい?』


 黎矻の中で、が言う。

 黎矻は少しだけ目を閉じた後に、パソコンを開き、仕事を再開する。

 その目は、どこか深く暗く、けれども、どこか光があるような、よく分からない目をしていた。


 「俺にこの仕事学校の先生は似合わねぇよ…」


 どこかため息混じりに呟くのであった。

 だが、その声はチャイムによって掻き消されるのであった。




 ◇◆◇




 放課後、私は部室に行く。

 今日は確か陸上部は全員外…とは言っても、校庭だけど、出ているはず。先程、部活の皆が急いで部室を出ていくのを見たから、調べるなら今だ。

 私は冷世ちゃんのロッカーを開き、中を調べてみる。

 特にこれと言った異常はないから、元の場所に戻してからロッカーを閉じる。


 その後も、部室全体を事細かく調べるけれども、確かに違和感と呼ばれるものは無い。

 私が唸っていると、後ろからポンッと誰かに叩かれる。


 「ひゃっ!?!?」

 「うぉ、驚き方の癖強っ!?」

 「か、香蔵さん……お、驚かせないでください!」


 ごめんね。と謝ってくる香蔵さん。っていうか、いつの間にか後ろに…?

 香蔵さんはちょいと失礼と言って部室の中に入る。


 「……なんか分かります?」

 「…ふぅん……」


 私が聞くと、香蔵さんは目を細める。

 あ、そういえば……香蔵さんってこう言う考える行為は……


 「何も分からない!」

 「そりゃそうでしょ!」

 「狸吉さん!?」


 香蔵さんの言葉にツッコミを入れたのは狸吉さんであった。

 狸吉さんは香蔵さんにどく様に伝えてから部室を覗く。すると、狸吉さんは顎に手を当ててしばらく黙り込んでしまった。


 「あ、あの……」

 「ねぇ、春ちゃん。これ、?」

 「へ?」


 私が尋ねようとしたことを先に言われてしまった。

 えっと……どう思うと言われても、怪しいところはない…んだけども。


 「怪しいところは特に…」

 「そうだね。特にない」

 「え? 何か分かったんじゃ…?」

 「でも、私には感じに見えるんだよね」


 狸吉さんの言葉に頭の上に『?』を浮かべる。

 それは香蔵さんも同じのようで、目を点にして首を大きく傾げている。


 「だってほら、普通の部室に見えるでしょ? 私にはそれが、とても人為的に見えるんだよね」

 「そりゃ、部室に変なものを持ってきてたら、先生に怒られますから……」

 「君みたいな模範生は嫌いじゃないけどね?」


 狸吉さん曰く。

 綺麗に整備ように見えているらしい。

 確かに、部室自体は綺麗だし、物も少なくて、整っている……し……?


 「あれ? 急いで外に出て行ったのに、綺麗…?」


 陸上部の顧問の先生はそこまで厳しい人じゃない。

 だから、急いで片付ける必要は無いはずだ。じゃあ、なんでこんなに着替えやら道具やらが散乱していない…?


 「そう。綺麗になりすぎなんだよ。この部室は」

 「…あっ」

 「なら、なんで綺麗にさせるのかな?」


 ──まるで、やましい事は何もありませんよ。と伝えるように。


 狸吉さんの言葉で、全て分かった。

 証拠を消すためだ。綺麗にすることで、例えば教科書を破れば、その時に紙のカスが出るはず。

 そんなものが、部室内で見つかれば……怒られるのは確定。

 だから、床も、ロッカーの中でさえ綺麗にしてるんだ。

 虐めがあるのはもう分かっている。

 綺麗になりすぎていることが、証拠になってるんだ!

 無理があるかもしれないし、反論が出るかもしれない。けれども、ずっと問い詰めていれば、いずれかボロが出るはず。

 狸吉さんは、ボロを出すつもりなんだ。


 「でも、上手く出ますかね?」

 「うん。私がボロを出すには、証拠が足りなすぎる。だから、を使う」


 狸吉さんが出したのは、小さなボイスレコーダー。

 狸吉さんは、それを冷世ちゃんのロッカーの上に付ける。


 「部活に出ているみんなは、ロッカーの上まで視界が行かないことは確認済み。っていうか、身長の関係上無理だと思う」

 「だから、背が高い狸吉さんが仕掛けるってことですね」


 確かに、狸吉さんは背が高いから、バレないところに隠せる。

 それも、ロッカーの上だなんて。


 「どう?見える?」

 「……椅子の上に乗っても、奥の方が暗くて見えないですね。レコーダーも黒いですし 」

 「よし。じゃあ、ここに置いておくね。明日の朝、確認しよう」


 狸吉さんはよいしょ、と付ける。


 「狸吉さんって、身長どのくらいなんですか?」

 「私は…大体、169cm……ぐらい?」

 「高っ!?」


 なんでバスケ部行かなかったんだろう…。

 そう思わさせるぐらい、高い身長を誇る狸吉さんは香蔵さんの背中を押してその場から去った。

 私もその後を追いかけるために、部室から出た。

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